車座になってのディスカッションは熱を帯びた
2年前の能登半島地震で壊滅的被害を受けた和倉温泉(石川県七尾市)は、「行政主導のインフラ復旧」と「民間事業者の柔軟なアイデアと実行力」を掛け合わせた「和倉温泉創造的復興プラン」を策定。昨年3月18日の同プラン発表に続き、この2月19日はその進捗(しんちょく)状況を関係者や復興を応援する企業などに報告するシンポジウムを行った。
登壇者(敬称略)
・多田健太郎(和倉温泉創造的復興まちづくり推進協議会代表、多田屋社長)
・奥田一博(同協議会副委員長、奥田屋社長)
・多田直未(同協議会委員、美湾荘社長)
・渡辺崇嗣(同協議会委員、加賀屋社長)
・清水哲夫(金沢大学先端観光科学研究所特任教授)
・浅野大介(石川県副知事)
・ファシリテーター=宮田清孝(同協議会事務局アドバイザー)
「和倉モデル」の復興まちづくりを議論
プログラムの一つとして、復興プランを策定、同シンポジウムを主催した「和倉温泉創造的復興まちづくり推進協議会」のメンバーらによるディスカッション「地域OSを消費から循環へアップデートするために―“めぐるちから”和倉モデルの復興まちづくりとは―」を実施。ここではその要旨を紹介する。
◇ ◇
宮田 復興プランに「能登の里山里海を“めぐるちから”に」というキャッチフレーズが書かれている。このフレーズに込めた思いをお聞かせいただきたい。
多田(健) (復興プラン策定以前の)復興ビジョンを考える段階で、旅館だけでなく商店などさまざまな企業の方との若手チーム16名で、次の和倉温泉、そして能登をどのようにしていけばよいかをかんかんがくがくと話した。
ただ、その16名が思う「復興」がそれぞれ違った。「温泉を大事にしたい」「(お客さんに)街歩きをしてもらいたい」「奥能登へのハブとなる」「環境問題への対応が必要」。大事にしたいことがそれぞれ異なり、キーワードを作るのに時間がかかるだろうと思っていた。
共通する何かがないかと考えると、「めぐる」ということが全てに当てはまると思った。
例えば温泉に入ると体の血の「めぐり」が良くなる。街歩きも、奥能登に行っていただくことも「めぐる」。皆が「いいね」と、「めぐるちから」をキーワードにすることが決まった。
何かを決める時は、それが「めぐるちから」になっているかどうか。確認するワードとして活用している。
奥田 復興ビジョンは「2040年の完結を目指して」としているが、この数字が出た時点で、上の世代から少し先の話すぎるのではないかとの意見が出た。上の世代もわれわれの世代も和倉温泉を良くしたいという思いは同じだが、どの時点かで思いの違いがあった。
しかし、この1~2年しっかりと議論して、思いが今、一緒になっている。中長期の目線と短期の目線の両方を融合させた、いい合意形成ができた。
和倉温泉の旅館はサイズもグレードもそれぞれ違う。悩みも課題も違う。しかし、一致団結して、商店も住民の皆さんも含めて、前に向かってしっかりと進んでいる。
多田(直) 和倉温泉をハブとして、お客さまに能登半島全体を「めぐって」いただきたい。
温泉に例えて言うと、落とし口はすごく熱いが、浴槽の離れたところや下には冷たい水がたまっている。そこをかき混ぜて、全体をいい温度にして、お風呂に入っているみんなが気持ち良く漬かれる状態。こんな状態に能登半島全体がなれればいい。
ハブとなる旅館は若い人が楽しく働いて、生活が十分成り立つという、「将来が見える産業」にしていかねばならない。昔ながらの宴会スタイルで、お客さまに膝を折って料理をお出ししているが、膝を悪くして「もっと働きたかったのに」と言って辞める人がいる。少しずつ改善する必要がある。
多田(健) 今までは他の旅館がライバルのようなところもあり、困りごとなどを公に言うことがなかった。しかし震災を機に言えるようになってきた。これは良いことだと思う。
それを(域外の)企業の人たちが受け止めて、われわれとともに次々とプロジェクト化している。
浅野 プロジェクトは(和倉温泉の)皆さんが一歩一歩コツコツと取り組まれているために、しっかりと出来上がっているのだろう。
復興はそれなりの時間的余裕がないとできない。さまざまなことを言う人もいるが、(和倉温泉の)皆さんが焦らずに、いい環境で取り組めるように、県はできることを行っている。
清水 私はほとんど東京と神奈川に住んでいて、どちらかというと「物事を早く動かさなければ」という地域だった。
その感覚で和倉温泉に関わることになり、確かに「もう少し早く取り組めるだろう」と思うことが正直あった。
ただ、今日参加をしている協議会の方々も、まずは自分の旅館の再建があるわけで、そこにある程度めどを立てないと、(和倉温泉の復興プランも)前に進めなかったのだろう。
しかし、そんな厳しい中でも今回の「めぐるちから」というキーワードを考え、その思いを込めてアクティブに活動しているということは称賛に価することだ。
多田(直) 今までの和倉温泉は旅館に人を呼んでも、「めぐらせる」ことはなかった。
これからはその反省も込めて、いらしたお客さまを私たちがしっかりとおもてなしした上で、街を「めぐって」いただく。そうすることで街の人たちもこの街に住んでいることにプライドを持ち、「ここに住まなければならない」と思うようになる。
さらに和倉の街だけでなく、奥能登も金沢も「めぐって」いただく。人の流れを大きくしたい。
宮田 加賀屋さんは温泉街に食堂を新たに作るという。どんな思いで作られるのか。
渡辺 旅館の再開が私たちの一番の使命だと思うが、まだ時間がかかるため、「ほかに地域のために貢献できることはないか」「やるべきことがないか」と考えた。
そこで「とと楽食堂」という名前で食事とともに、能登の物産を販売する店を出すことを決めた。オープンは4月3日。
食事の面で(温泉街に)もう少し選択肢があっていいのではないかと思ったことと、休む場所が増えたらいいだろうと。物販も、お土産を買える場所が少ないと以前から耳にしていた。能登の良いものの情報発信をここでどんどんしていきたい。
初めは工事関係の方が多いと思うが、これから観光の方も増えてくると思う。観光でいらしたお客さまに街を「めぐる」拠点として、お使いいただきたい。
当社にはなにがしかの理由で地元を離れられず、地元で仕事をしたいというスタッフがいる。その働き場所にもこの店はなる。
私たち旅館業は日ごろから地元の第1次産業から第3次産業まで、幅広い方々のお世話になっている。しかし、今は旅館が動いておらず、これらの方々にご負担をおかけしている。店はそういった方々の商品を販売する場にもなる。皆さんの少しでもお役に立てればと考えている。
今回、この店を見て、「自分も(店を)出してみよう」とチャレンジする人が出ればよいと、そんな思いも込めている。この和倉の地が元気を出すきっかけになればと思う。
多田(健) 和倉温泉の「持続可能性」をどう作るかが協議会の役割の一つだと思っている。
復興を私たちの代で全てできるとは思っていない。次の代への基盤を作ることをすごく意識している。そのためにも、先代の方々がどのような思いでこの和倉温泉を作ってきたのかを丁寧に取り上げることも必要だ。
奥田 和倉温泉は泉質が良く、日本で数少ない海から湧き出る温泉だ。
その温泉のエネルギーを使った給湯ができれば温泉地全体ですごく有益性が出る。その共同配管を作る構想がある。
今、和倉温泉では、護岸工事の見学が観光コンテンツの一つになっている。私が会長を務める観光協会が主催する街めぐりツアーの目玉になっており、われわれの予想を上回る予約が来て驚いている。
観光協会としては、他の温泉地からの視察も含めて、この共同配管も大きな観光コンテンツになるのではないかと考えている。

車座になってのディスカッションは熱を帯びた




