北村氏
「サービスの質さえ高ければ、お客様に選ばれる」。そう確信しているホテルスタッフの方々に、ぜひ立ち止まって考えていただきたいデータがあります。
今回の調査では、ホテル格付け(1〜5)とSDGs格付け(1〜5)を組み合わせた10種類の宿泊施設パターンを設定し、10,000名の回答者にそれぞれのパターンへの評価スコアを求めました。得られた10万件のデータポイントを重回帰分析・相関分析・個人レベルの統計検定にかけたところ、業界に携わる方々にとって決して見過ごせない結果が浮かび上がりました。
■ 数字が示す「格差」――SDGsが生み出す0.8ポイントの差
まず、最も直感的な比較から始めましょう。ホテルの施設・サービス品質が最高水準(ホテル格付け5)であることは、評価に大きく寄与します。しかし同じ「ホテル格付け5」であっても、SDGsへの取り組みが低い(SDGs格付け1)パターンの平均評価スコアは3.11点にとどまりました。一方、ホテル格付けもSDGs格付けも「5」を備えたパターンは3.94点を記録しています。5点満点のスケールにおける約0.8ポイントの差は、「誤差の範囲」では片づけられない数字です。
さらに興味深いのは、ホテル格付けとSDGs格付けが「逆転」するパターン同士の比較です。ホテル格付けが「4」でSDGs格付けが「2」のパターンの平均スコアは3.09点でした。ところがホテル格付けが「2」と低くても、SDGs格付けが「4」のパターンは2.97点と、差わずか0.12ポイントの近似値に達しています。ハードやサービスの質でふたつの格付けを下回っていても、SDGsへの取り組みを充実させることで、総合評価においてほぼ肉薄できている。この事実は、SDGsが「装飾品」ではなく「評価を支える独立した柱」であることを如実に示しています。
■ 統計が証明する「SDGsの独立した影響力」
「たまたまそうなっただけでは?」という疑問には、統計学が明快に答えてくれます。
10,000名×10パターン=10万件のデータポイントを用いた重回帰分析では、ホテル格付けの「標準化β係数」(異なる要因の影響力を同じ物差しで比べるための数値)が0.333、SDGs格付けの標準化β係数が0.266という結果が得られました。SDGsの影響力はホテル品質のおよそ7割強に相当し、両者は評価を動かす独立した軸として機能しているのです。なお、ホテル格付けとSDGs格付けの「寄与比率」を合計で見るとホテル57%:SDGs43%※と、その差は決して大きくありません。※「寄与比率」は、2つの要因のみで合計を割った簡略計算です。ホテル格付けの影響力はSDGs格付けの約1.4倍(0.333÷0.244)」ということになります。
特筆すべきは、この数値の「偶然ではない」という確実性です。SDGs格付けの統計的有意性を示すp値は、10のマイナス数十乗以下の水準、つまり「偶然このような結果が生じる確率は、現実的にゼロとみなして差し支えない」レベルです。10,000人という大規模サンプルが、その結論をさらに強固なものにしています。
個人レベルの分析でも同様の傾向が確認されています。全回答者のうち、全10パターンに同一スコアをつけた均一回答者を除いた有効回答者7,930名を対象に分析したところ、76.1%の回答者が「SDGs格付けが高いパターンほど高く評価する」という正の相関を示しました。ホテル 格付けへの正の相関(80.7%)と比較しても、両者はほぼ肩を並べています。この差が統計的に有意であることも、「同じ人が2つの条件で測定されたデータの差が、偶然ではなく本物かどうかを確かめる検定」である対応t検定(p<0.0001)によって確認できました。
■ ゲストの意識に起きている「静かな変化」
なぜ、SDGsへの取り組みがこれほど評価を左右するのでしょうか。
現代のゲストは、宿泊先を「選ぶ行為」そのものを、自分の価値観の表明と捉えるようになっています。快適な空間と丁寧なサービスは、もはや「当然のベースライン」です。その上で、「この施設は社会に対して誠実に向き合っているか」という問いを、多くのゲストが無意識のうちに発しているのです。
プラスチック削減への取り組み、食品ロスの最小化、地域食材の積極的な活用、省エネ設備の導入。こうした取り組みは、直接的にサービス品質を高めるわけではありません。しかし、それらの存在がゲストに「この宿を選んでよかった」という安心感と誇りをもたらし、結果として総合評価の底上げにつながっている。今回の10,000人規模のデータは、まさにそのメカニズムを数値で可視化したものです。
■ ホテルスタッフへのメッセージ
「ハードとサービスをどう磨くか」。その議論はもちろん重要です。しかしそれだけでは、もはや不十分な時代になりました。
10,000名のデータが示す通り、SDGsへの取り組みは「あれば好ましい付加価値」ではなく、総合評価の43%を占める評価の柱です。ホテル格付けが同じであっても、SDGs格付けが高いか低いかで評価スコアは0.8ポイント近く変わります。それは、100室規模のホテルであれば、リピーターの数、口コミの評点、予約サイトの順位、ひいては売上そのものに直結する差です。
「まず何から始めればいいかわからない」という方は、現在の取り組みを「見える化」することから始めてください。省エネへの意識、地域との連携、廃棄物削減の姿勢、すでに実践していながら発信していないことが、評価の伸びしろになっているケースは少なくありません。
サービスの質を誇りにするすべてのホテルスタッフに、SDGsという「もうひとつの軸」を、ぜひ意識していただきたいと思います。




