「語り部バス」のエクスカーションプログラムの様子(震災遺構・高野会館の屋上にて)
今年の3月11日で、東日本大震災の発生から15年を迎える。若者への伝承の在り方や震災遺構などの重要性を伝え、震災の教訓を世界に向けて語り継ぐ「第11回全国被災地語り部シンポジウムin東北」(阿部隆二郎実行委員長)が、宮城県南三陸町の南三陸ホテル観洋で3月1日から2日にかけて開かれた。県内外で遭遇した震災体験者や伝承活動に携わる関係者ら約300人が参加した。「震災を風化させないための語り部バス」(以下、語り部バス)のエクスカーションプログラムや、パネルディスカッション、懇親会などを通じて、震災被害を風化させないために今後取るべき方策について意見交換された。
開幕前夜に特別企画 阿部女将が感謝のあいさつ
シンポジウム開幕前夜の2月28日には、特別企画「シルクロード~人と文化を結ぶ道~水墨画ライブペインティング&モンゴル四弦琴の演奏」が行われた。東京学芸大学の研究員で演奏家の蒙古貞夫(モンゴル・ジンフー)氏が、モンゴルの伝統擦弦楽器で独奏曲5作品を演奏したほか、中国出身の画家・芸術博士の李焱氏が、蒙古氏の音楽に合わせて水墨画のライブペインティングを実演した。
中国西部の河西回廊(甘粛省)で作られるシルクロードキリアンワインの試飲会も行われ、館内宿泊者を楽しませた。
同館の女将・阿部憲子氏も登場=写真。「(震災から)15年の節目に、芸術と音楽の力を使って交流の場が設けられて大変光栄でうれしく思っています。このような現在を迎えられているのは、日本中、世界中の皆さまから応援をいただいたおかげだと本当に感謝の気持ちでいっぱいです」と笑顔であいさつした。

笑顔であいさつする阿部女将
「震災語り部バス」に乗車 震災遺構に学ぶ津波の恐怖
1日の午前中に行われたエクスカーションプログラムでは、南三陸ホテル観洋が運行する語り部バスに乗車。周辺の戸倉小学校(跡地)、旧防災対策庁舎周辺、そして阿部長商店が運営していた結婚式場の高野会館(震災遺構)を、約1時間半かけて巡った。
語り部バスは、東日本大震災の被災者がその体験を伝え、防災意識を高めるため、2011年に開始したバスツアー。津波の被害により景色が一変したホテル周辺を巡り、街の様子を見て回るだけでは分からない実体験や教訓を伝えている。
バスは毎日運行。60分間かけて巡る「通常コース」に加え、高野会館の遺構見学を含む90分間の「高野会館特別コース」の2コースを用意している。今回のプログラムでは後者を催行。各スポットで、同館のスタッフが震災当時の様子や現在の状況を、写真なども交えて説明した。
高野会館ではバスから下車し、ヘルメットを着用して遺構内を見学した。3階天井まで津波に飲み込まれながらも、各所に残る遺品や食料品のごみなどが残る様子を見て、参加者らが言葉を失う場面も見られた。

「語り部バス」のエクスカーションプログラムの様子(震災遺構・高野会館の屋上にて)

高野会館の全景。3階天井の高さまで津波が流れ込み、屋上まで津波で浸水した
語り部バスの催行人数は1人から。予約は、宿泊前の電話か、宿泊中は前日夜9時までにフロントで受け付ける。料金は、通常コースが500円、高野会館特別コースが千円(小学生以下の子供はいずれも半額、0~1歳までは無料)。団体客は別途相談。
シンポジウム2日目の3月2日にも語り部バスのエクスカーションプログラムが行われた。ここではオプションツアーとして、「気仙沼であの日を追体験するコース」「石巻を感じ、学ぶコース」が催行された。

「語り部バス」の車内の様子
教訓語り継ぎ、新たな「国の力」に
シンポジウムは、語り部バスのエクスカーションプログラムの後に開幕。1日を通して、現役の語り部や学生ボランティアなどを招いて行われたメインディスカッションやさまざまな側面から防災を考える複数の分科会、海外の震災・復興研究者らによる国際セッションなどが行われた。
開会セレモニーでは、南三陸町の戸倉地区水戸辺に伝わる「行山流水戸辺鹿子躍」が披露された。その後、実行委員長を務める阿部長商店南三陸ホテル観洋の代表取締役副社長・阿部隆二郎氏が登壇したほか、国土交通省東北運輸局長の吉田昭二氏が来賓あいさつを行った。
阿部氏は冒頭、シンポジウムの趣旨を説明。過去10年間シンポジウムを継続実施しており、全国の被災地と関係を構築し、ネットワークを拡大してきた過去を紹介した。

阿部隆二郎氏
吉田氏は、東北運輸局・企画観光部長時代の2014年に策定した「東北観光基本計画」を紹介。同計画に明記されている主な取り組みの一つに、「震災からの観光復興 記憶の伝承と復興ツーリズムの促進に対する取組み」があることを強調した。「観光は、国の光を観る、その国の力を観るということ。しっかり次世代に向けて(震災の出来事を)語り継いでいく。これが力であり光だ。この光を次世代に語り継いでいただくことを、語り部の皆さんに行っていただいている」と感謝を述べ、今後の活動の発展にも期待を示した。

吉田昭二氏
全プログラム終了後は、北淡震災記念公園総支配人の米山正幸氏によって「全国震災語り部 南三陸宣言」が読み上げられ、満場一致で宣言が採択された。
全国被災地語り部 南三陸宣言
私たちは本日、東日本大震災から15年が経過する、ここ南三陸町に集い、自然災害の被災地で語り継ぐ使命を担う者として、改めて決意を共有しました。
災害は多くの尊い命とかけがえのない暮らしを奪いましたが、同時に未来へ備える知恵を私たちに残しました。
語りは過去を振り返る回想ではなく、未来の命を守るための行動です。
閉会にあたり、幾度も甚大な自然災害を被ってきた東北の地から、ここに宣言いたします。
1.私たちは、被災の事実と教訓を語り継ぎ、世代を超えて命を守る知恵として伝え続けます。
2.私たちは、被災地相互のネットワークを更に広め、経験と教訓を国内外で共有し、防災・減災の意識の向上に努めてまいります。
3.私たちは、未災地を含むすべての地域に自助・共助・公助の意識を高め、語りの灯を未来へ手渡してまいります。震災の風化を防ぎ、震災の教訓を伝承するため、これまで11回のシンポジウムで構築されたゆるやかなネットワークを活かし、多文化、多様性を尊重しながら全国被災地語り部シンポジウムを継続してまいります。




