旅館・ホテルの経営者や女将にとって、事業承継は人生最大の決断である。長年守り続けてきた暖簾(のれん)を愛する息子や娘に譲る際、親の胸中を占めるのは、期待よりもむしろ「本当にこの子に任せて大丈夫か」という切実な不安ではないだろうか。これが単なる家庭内の相続であれば、失敗しても身内の問題で済む。
しかし、事業承継とは会社の器そのものを引き継ぐことである。もし後継者が意図せず判断を誤り、あるいは何らかのトラブルに巻き込まれて社会的な信頼を損なう事態を引き起こせば、長年共に歩んできた従業員を路頭に迷わせ、地域社会に多大な迷惑をかけることになる。先代が心血を注いで築き上げた社会的信用や、守り抜いてきた資産が、一瞬にして水泡に帰す恐怖。この重圧が、多くの先代経営者の背中に重くのしかかる。
会員向け記事です。





