千葉氏
花巻温泉郷で最上位の宿「佳松園」を訪ねた。年が近い3人での女子旅(かつてはかわいい女子だった)、仕事にプライベートに頑張る私たちを癒やしてくれたのが、美人の湯「とろとろの湯」だ。化粧水のように肌にしみこむ泉質で、身体の芯から温まる。客室は回廊のように配され、中庭が美しい。館内のいたるところに豪華な生け花や投げ込みの生花が飾られていて、ぜいたくな空間が広がる。
ドライヤーは、すべてReFa(リファ)。大浴場に備え付けのシャンプー類にもリファ製品が並ぶ。そして客室パウダールームには、コーセーの雪肌精(せっきせい)がずらりと並んでいた。ここ花巻から世界へと活躍の舞台を広げ、今なお進化を遂げる大谷翔平選手がイメージキャラクターを務める雪肌精。何だか符号が合う。
こうした微に入り細に入りの気遣いは、女性の感性なくしては成せないはず。到着時に佐藤寿美常務から紹介された、佳松園支配人で取締役の平賀明子さんの穏やかな笑顔が目に浮かんだ。
国際興業グループ・花巻温泉は、佳松園のほかホテル千秋閣、ホテル花巻、ホテル紅葉館の4軒を擁する、岩手県の観光経済の大黒柱だ。
せっかくなので、夕食を囲みながらインタビューをお願いした。誰が同席したかは言えないが、超・豪華メンバーなことは確か。料理長は腕利きぞろいで、皇室ゆかりの宿だけある。器を愛でながら見ておいしく、食べてなおおいしい御献立に会話が弾んだ。
佳松園の歴史は古く、先の東京五輪(1964)年の開業で、のちに国際興業グループになった。昨年、文庫本「花の嵐」をゾクゾクしながら読みふけったことを思い出した。国際興業創業者の小佐野賢治氏を題材にした、長編経済小説である。同社による70年代以降の買収劇はすさまじく、箱根・宮ノ下の富士屋ホテルやハワイのロイヤル・ハワイアン、モアナ・サーフライダー、シェラトン・プリンセス・カイウラニ、さらにはシェラトン・ワイキキと、業界人なら誰もが知る名門ばかり。読みごたえのある1冊(いや、上下巻で2冊)だった。
東日本大震災から立ち直り始めたとき、コロナ禍に見舞われた。「ピンチをチャンスに」と当時、社長だった安藤昭氏(現・富士屋ホテル社長)が、50億円近い投資で佳松園の大規模改修を実施。露天や半露天風呂付きの客室を新設して、温泉を部屋まで引いた。
花巻温泉は、台湾をはじめ各国インバウンドの需要も高い。団体から個人富裕層までオールマイティーに満足のいく受け入れ態勢を整えているのがよくわかった。
というのも、佐藤常務と最初にお会いしたのはタイ・バンコクでの東北フェア。花巻温泉だけでなく、いわて花巻空港の利用促進も含め海外セールスに飛びまわる。努力の賜物といえよう。また、本紙で以前、追悼記事を載せたEGLツアーズ創業者の故・袁文英氏ご逝去第一報は、実は佐藤常務からだった。家族のような仲だったそうで、訃報がいち早かったのもうなずけた。
売店にはリファ製品のほか、「久慈琥珀(こはく)」が出店している。今回の自分へのご褒美に、琥珀のブローチを奮発して購入した。
佳松園、ここにあり。上質かつ温かい、もてなしの宿だった。
(淑徳大学経営学部観光経営学科学部長・教授 千葉千枝子)




