JARCの理事メンバーらを紹介する林理事長
一般社団法人宿泊施設関連協会(=JARC、本保芳明会長)は2月26日、「JARC賀詞交換会2026」をKKRホテル東京で開いた。会員、来賓など合わせて260人以上が出席した。観光庁からは村田茂樹長官も出席した。林悦男理事長のあいさつに続いて、2つのパネルディスカッションを実施。「災害時の宿泊施設の避難者等の受け入れについて」では、観光レジリエンス研究所代表の高松正人氏をファシリテーターに新井旅館代表取締役の相原昌一郎氏とホテルコンチネンタル府中総支配人の大住佑氏が登壇。次のパネルディスカッション「宿泊業界の未来をいかに築くか」には、東洋大学国際観光学部准教授の徳江順一郎氏をファシリテーターに、いぶすき秀水園副総支配人の湯通堂洋氏とロイヤルパークホテル・マーケティング部マネージャーの竹下徹氏が登壇した。

JARCの理事メンバーらを紹介する林理事長
設立10周年、256回の会合を重ねて業界発展に貢献
林悦男理事長は冒頭のあいさつで、JARCが「今年で10年目」を迎え、これまでに「256回」の会合を開催し、「17業種」の会員企業が参加していることを報告した。設立の経緯について、「観光業界があまりお金出してくれないとメーカー側からしたら」という課題から、「メーカーが観光業界から距離を置き始めた」ことがきっかけだったと説明。
「日本のメーカーが観光業界から離れていくということは発展しなくなっちゃうんじゃないかと観光業界が」という危機感から、「どうやって観光業界にメーカーさんを関与させていくか」を目的として設立したと振り返った。
宿泊事業を「総合文化事業」と定義し、「おしぼり一つ、それからいらっしゃいませという言葉一つ」から「清潔なバスタオル」「建物の設計」「内装の絵」まで、すべてが文化的価値を持つと強調。「テクノロジーで社会習慣も変えていける」とし、マクドナルドのアプリを例に挙げながら、「テクノロジーって社会習慣を変えたら、いずれ文化になる」と持論を展開した。

林理事長
海外進出支援と宿泊業の社会的地位向上が急務
林理事長は今後10年間の方針として、日本の宿泊業界の海外進出支援を重視すると表明。自身のサウジアラビアでの経験を引き合いに出し、「海外で働いている人たちがどれだけ安心して海外で働けるか」「日本のホテルがあったらどれだけ安心できるのか」と語った。
JAL(日本航空)がニューヨークのエセックスハウスホテルを買収した際の体験談として、「JALがエセックスハウスを取得した直後に泊まった時は、ホテルに日経新聞がありました。そして、その後JALがエセックスを手放したら、もう日経新聞はありませんでした」と具体例を示し、「日本のホテルが海外にあることが、どれだけ安心感と安定して働ける環境が提供できるのか」を実感したと述べた。
宿泊業の社会的地位向上についても言及。「ホテルとか旅館に働きたいという社会環境、もしくは社会的地位」の向上が必要だとし、「我々も宿泊業の縁の下の力持ちをやっているわけですから」として、メーカー側からも支援する姿勢を示した。
災害時の役割強化、「ラストリゾート」として地域に安心感を

災害時における宿泊業の役割について、林理事長は「ラストリゾート」としての重要性を強調。「災害とかそういうことに関して、宿泊業がいかに貢献しているか」「いかに必要なのか」「いかに国民に対して安心感を与えるのか」をアピールする必要があると指摘した。
「今の宿泊業の人たちはラストリゾートをちゃんとやってるんです。ただアピールが少ない」と現状を分析し、「日常から近所に宿泊業があることによって、我々は災害とかそういう時に安心できる」という意識の浸透が重要だと述べた。
災害時の宿泊施設による避難者受け入れに関するパネルディスカッションでは、高松正人氏がファシリテーターを務め、新井旅館の相原昌一郎氏とホテルコンチネンタル府中の大住佑氏が登壇。
相原氏は静岡県の伝統的な旅館を経営する立場から、「防災という面に関しても、漏れなく弱いという立場(笑)」と自己評価しながらも、過去の災害経験を踏まえた対応の重要性を語った。「地方旅館は災害防災協定を結んでいる」とし、他地域の被災者受け入れ責任があることを説明した。
大住氏は2019年の台風19号での経験を共有。「客室は予約で埋まってしまって、電話というのが夜通しになりやまなかった」状況で、「府中市が公表していた氾濫被害の時のマップ、避難所マップ、避難所をご案内する」対応を取ったと報告した。
宿泊税制度の課題整理と自治体への提言活動
JARCの具体的な活動成果として、宿泊税に関する研究会の取り組みが紹介された。林理事長は「PMSメーカー8社がJARC に集まっていただいて、議論を重ね、冊子を作りました」と報告。制度設計における課題を「どういう問題が起きて、宿泊業の現場ではどういう混乱が起きて」「PMSメーカーはどんな問題が起きて」「各自治体が宿泊税の制度設計にどんなものに困っているか」として整理したという。
成果として「東京都は、我々のレポートの結果かどうかは分かりませんが、定率3%の税率に変えました」と報告。「いろんな条件が細かくなると、ホテル側も大変なんです。それからPMSメーカーもそのシステムを作るの大変なんです」として、制度設計の複雑化が関係者全体の負担になることを指摘した。
宿泊業界の宿泊税に対する姿勢について、「宿泊業は宿泊税反対です。ほとんどが反対です」としながらも、「よく聞いてみると、観光に使っていただけるのは賛成ということもおっしゃっています」と複雑な心境を説明。「信用されてないんです。自治体が宿泊税集めると、本当に観光に使ってくれるの?」という業界の懸念を代弁した。
人材不足対策で厨房部門に焦点、料理人の声を直接聞き取り
人材確保の課題では、特に厨房部門に注目した取り組みを紹介。「厨房の総料理長たちと意見を集めて聞きました」として、直接的なヒアリング調査を実施したことを報告。
料理長たちの反応について「俺たちの意見聞いてくれる人いるのか」「俺たちの意見聞いてくれるの?」という驚きの声があったことを明かし、「観光分野の業界団体が厨房の方たちの意見を聞いた、もしくは厨房の方たちからヒアリングした」ことが「実はほとんどなかった」と業界の実情を説明した。
「いろいろな意見と課題が出てきております」として、今後「IT業界だろうが厨房機器メーカーだろうが食品メーカーであろうが、いろいろ課題が出てます」という課題を「JARCでまとめて」提供していく方針を示した。
若手リーダーの育成と業界融合への取り組み

宿泊業界の未来に関するパネルディスカッションでは、東洋大学の徳江順一郎氏がファシリテーターを務め、若手ホテリエ2名が登壇。
いぶすき秀水園の湯通堂洋氏は、日本能率協会の「ネクストリーダーズ」企画での福岡大会優勝、全国大会優勝の経験を紹介。旅館業務の特徴として「何でも誰でもやろう」という環境があり、「自分が動いた方が早い」という行動原則だったが、ホテル業界の参加者との交流で「統率を取る」「意見をまとめてどういった方向性に持っていかないといけない」というリーダーシップを学んだと語った。
ロイヤルパークホテルの竹下徹氏は、業界の将来展望として「プロフェッショナルホテルよりもオールマイティホテル」への転換が必要だと指摘。「人材不足だったり、中堅リーダー層の枯渇」という現状を踏まえ、「サービスはもちろんのこと、チーム運営だったり、マーケティングだったり、上司になれば労務管理だったり」という総合的能力が求められると分析した。
年間45回のセミナー開催、1万人超が情報を共有
JARCの活動実績として、林理事長は「今年だけでも年間45回のセミナーを実施しております」「1300名以上が参加していただいております」と報告。情報発信面では「JARCライブという機関誌を年4回出していますけれども、機関誌だけで3000部印刷して出しております」「電子書籍の閲覧数が平均8000人位」として、合計「11,000人ぐらいがJARCライブをご覧いただいている」という実績を紹介した。
「観光分野に限った雑誌で見たら、非常に購読者が多い雑誌になっております」「1万を超える数を出していることは本当にありません」と業界内での影響力の大きさを強調し、会員企業に対して「どんどん寄稿していただいて発表していきたい」と積極的な情報発信を呼びかけた。
今回の賀詞交換会では、10周年という節目を機に、これまでの成果を振り返りながら、宿泊業界の社会的地位向上、災害時対応能力の強化、海外進出支援、人材確保など多岐にわたる課題への取り組み強化を確認。観光立国を目指す日本において、メーカーと宿泊業界の連携がさらに重要性を増すことを参加者全体で共有した。
【kankokeizai.com 編集長 江口英一】




