「日本を持ち帰る旅」 免税新制度も視野に地域ブランド細分化がカギ JSTOが新春セミナー


 一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会(JSTO)は1月29日、2026年新春セミナー「日本を持ち帰る旅―ショッピングツーリズムの真価」を東京都千代田区の都道府県会館で開いた。JSTO代表理事・事務局長の新津研一氏のあいさつに続いて、2つの基調講演とパネルディスカッションを行った。「みずほ銀行産業レポートから読み解く~観光地づくりにおけるショッピングツーリズムの可能性」を小林杏太郎氏(みずほ銀行産業調査部次世代インフラ・サービス室社会インフラチームアナリスト)が、「買い物は文化をつなぐ―日本を”持ち帰る”価値体験のつくり方」をビヨン・ハイバーグ氏(包丁専門店「タワーナイブス大阪・東京」代表取締役)がそれぞれ講演。パネルディスカッション「日本を持ち帰る旅―ショッピングツーリズムの真価」では、パネリストとして新津氏、小林氏、ハイバーグ氏の3人が登壇し、JSTO事務局次長の神林淳氏がファシリテーターを務めた。

 

2025年インバウンド数4200万人、11月に免税制度改正

新津氏

 

 新津氏は開会の挨拶で「2025年は大阪関西万博を契機にインバウンド需要が高まり、全国でショッピングを通じた地域活性化が進んだ1年となった」と述べた。一方で「観光と地域の調整やオーバーツーリズム問題など、インバウンド環境が大きく変化した年でもあった」と指摘。「本年11月には免税新制度リファンド方式への移行も控え、2026年は今後の方向性を左右する重要な一年となる」と強調した。

 また、「昨年は訪日ゲスト数が4200万人に達した。一方で量から質への転換や国際情勢の変化など、環境は大きく変化している」と現状を分析。「昨年は消費税免税制度の検討活動を中心に活動を進めてきた。この活動を通じて大切だと改めて感じたのが、データファクトと仲間の力、そして志だった」と振り返った。さらに「ショッピングツーリズム協会は日本を売るのであって、物を売っているのではない。ショッピングを通じて日本を感じていただく旅がショッピングツーリズムの志だ」と協会の理念を説明した。

 

インバウンド需要、6000万人達成は「2040年頃」との予測

小林氏による基調講演

 

 みずほ銀行の小林氏は「インバウンド消費の動向と課題」について解説した。「2025年の訪日外国人数と消費額は着実に推移している」と前置きした上で、「為替の影響が大きなウェイトを占めていると言われるが、政策や民間の事業者の努力も大きい」と指摘した。

 小林氏によると、2024年ベースでインバウンド消費は自動車に次ぐ重要な産業となっている。「2030年15兆円という目標が継続するならば、ゆくゆくは自動車を抜いて日本の外貨獲得において非常に大きなウェイトを占めていくだろう」と予測。また「外国人旅行者を6.5人分呼ぶことができれば、人口一人減少による年間消費もペイできる」と、今後内需が縮小する日本においてインバウンドの重要性を強調した。

 課題については、為替による影響が大きい点を指摘。「2019年から2024年で約3兆円強の消費増加があったが、要素分解・寄与度分析をすると、実質実効為替レートが非常に有意な結果になっている」と説明した。一方で「消費機会の面では、いわゆるナイトタイムエコノミーの部分でオーバーツーリズムを含む機会の喪失が目立つ。日本として稼ぐチャンスとしてはまだ伸びる余地がある」と述べた。

 みずほ銀行の予測値としては「2030年の6000万人という目標は少し厳しい。このままいくと約5000万人強の水準になる」とする一方、「2040年頃には過去の需要傾向から予測すると、6000万人以上、6400万人程度まで伸びていく」との見通しを示した。主要空港のキャパシティについては「2029年の成田空港の滑走路拡張もあり、供給と需要の面では比較的余裕がある」と分析した。

 ただし地方別では「このままのペースで羽田や福岡が拡大すると、2030年にはキャパシティをオーバーする」と予測。「地方誘客は供給面の文脈からも重要になってくる」と強調した。

 

消費税免税制度改正の意義と今後の展望

 小林氏は続いて、11月に予定されている消費税免税制度の改正について解説した。「ショッピングで捉えるデータ活用と消費税免税制度の活用は、旅行者目線ではインセンティブに、事業者目線ではチャンスになり得る」と指摘。「地方誘客を考える上で、何もせずに勝手に来るわけではない。狙いを持った能動的なインバウンド獲得のチャンスとしてデータマーケティングが重要になる」と説明した。

 免税制度の改正については「これまでは免税価格で店舗で買えたことが強いインセンティブだった。店舗での免税が完結する制度だったため、ショッピングツーリズムの拡大に非常に寄与してきた」と評価。新制度では「免税価格で買えたというところから、課税価格で買った後に返していくような制度設計になる。旅行者としては手続きが増えるが、逆に言えば事業者の接点が増える」と意義を説明した。

 新制度における変化として、「一般型免税店と委託型免税店の区分の停止が想定されている。旅行者の移動導線を含めて、免税カウンターの集約による効率化が図られる」と述べた。また「税関を超える前にお金を返してもらうようなスキームも想定される。旅行者の利便性向上や制度の活用促進につながる」とした。

 さらに小林氏は「返金と同時に情報のハブとなり、データマーケティングの基盤になり得る」と将来展望を示した。「トレーサビリティが向上し、データの優位性も高まる。ペルソナとして、どの国を狙うのか、どんな国の人にはどういうものが刺さるのかが網羅的に見えてくれば、インバウンド獲得に向けた合理的なソリューションになる」と述べた。

 

地方観光地の課題とDMO改革の必要性

 小林氏は地方観光地の課題についても言及した。「観光地内でDMOなどがアンケートを実施し、どんな方がどのように来ていてどう動いているのかを把握しようとしているが、旅行者の動線をアンケートベースで把握するのは困難だ」と指摘。「データ基盤が非常に有利性を持つ」と強調した。

 現状のDMOについては「市や県の観光協会が名前を変えてDMO形式で活動している部分が多い」とした上で、課題として「自主財源の確保」と「公共性の強さ」を挙げた。「公平性とインバウンド獲得に向けた説得力のある観光地づくりは相反する側面もある」と指摘し、「民間事業者としてDMOの中心となるようなプレイヤーが今後必要になる」と述べた。

 小林氏は最後に「日本をファン化する」観点から韓国の事例を紹介。「コンテンツの認知拡大や関連消費など、Kドラマを中心にインバウンド産業を育ててきた」と説明した上で、「ファン化という点では、ショッピングでお土産を買って帰って配るという拡散性と、日本のストーリー性を伝える機会がある。免税制度改正を契機にこの流れを加速させることが一つの戦略になる」と締めくくった。

 

「良い道具が良い仕事を生む」包丁専門店の成功事例

ハイバーグ氏による基調講演

 

 中川ジャパン株式会社代表取締役社長のビヨン・ハイバーグ氏は、大阪と東京で展開する包丁専門店「タワーナイブズ」の事例を紹介した。デンマーク育ちのハイバーグ氏は「23歳で日本に来て以来、33年間日本で過ごしてきた。刃物は子どもの頃から大好きで、デンマークの森の中では日本製の鋸と斧を使っていた」と自身の経歴を説明した。

 「良い道具で良い仕事ができる。よく切れる斧を使うと、木の枝を落とした時にダメージが少なくて森が元気に育つ」というのが父親の教えだったという。日本では大阪の堺の刃物会社で9年間働いた経験を持つ。「海外で日本のものをどうやって売り込むか、どう説明するかを勉強した。売り込むとみんな儲け率しか見ていない。いいものとまあまあのものの違いを理解してもらわないといけない。リンゴとバナナを比べるくらい全然理解されていない」と当時の状況を振り返った。

 ハイバーグ氏は2011年に大阪・新世界の通天閣の近くに「タワーナイブズ大阪」をオープン。「タワーの横だからタワーナイブズと適当に名付けたら、すぐにメディアで取り上げられて名前が定着した」と創業時を振り返った。店名の由来について「大阪の心が残っているザ・大阪であること、通天閣は誰でも知っている場所であること、地下鉄や南海線など交通の便が良いこと」を理由に挙げた。

 

「外国人の顔」が逆に信用を得るカギに

 外国人が日本の包丁を売るという一見不利に思える状況を逆手にとった戦略も明かした。「外国人だから売りやすいと思われるが反対だ。外国人の顔を見ると信用がマイナスになる。なぜ外国人が日本のものを売るのかと思われる」と説明。「その代わりにしっかり説明したら信用を得られる。周りより商品を理解して、周りより丁寧に説明する必要がある」と強調した。

 多言語対応の重要性も指摘した。「英語で説明できることは当然だが、例えばデンマーク人が入ってきたら一言でもデンマーク語で挨拶すると急に雰囲気が変わる。みんな実はいっぱい質問がある」と経験を語った。「店の中では今、英語だけでなく、フランス語やスペイン語、デンマーク語、中国語などいろいろな言語ができるスタッフがいる。最近トルコ人のスタッフが入って以来、トルコ人のお客さんが急増した」と多言語対応の効果を紹介した。

 ハイバーグ氏はセールスではなく説明を重視する独自の接客哲学についても言及した。「うちの店では売り込みは禁止。とりあえず説明が仕事だ。職人が一生懸命いいものを作っているはず。こだわりや微妙な違いを説明すると、お客さんが理解した時に『これですね』と言ってくれる」と述べた。

 口コミの力については「今、お客さんの約60%は口コミだ。ネットの口コミではなく、友達に聞いた、ツアーガイドに聞いた、ホテルで聞いた、食事をした店の料理人に聞いたという直接の紹介が多い」と説明。「トリップアドバイザーではショッピングランキング1位になっている。なぜかと言えば、経験が良かったからだ」と成功の秘訣を語った。

 

コロナ禍での職人技術の継承とサステナブルな業界づくり

 コロナ禍での対応についても触れた。「2020年のコロナ開始時は、オンラインショッピングがなく完全に店頭販売だけだったため、売上が97%減った」と振り返る。その時「職人に力を入れた。それまでも店内に地域の職人が働きに来ていたが、コロナ中はスタッフを説明から製造に移動させた」と対応を説明した。

 「職人が店内にいることで、お客さんが喜ぶ。実際に物がどうやって作られているかを見せると、お客さんが『本当にメイドインジャパンですね』と喜ぶ。メイドインジャパンだけでなくメイドイン大阪、さらには藤井圭一さんが作っているものだとわかると、藤井さんのファンになってFacebookの友達になる人もいる」と職人との交流がリピーター獲得につながる事例を紹介した。

 ハイバーグ氏は「日本のショッピングの中で、サステナブルな安定した業界を作る必要がある。ショッピングも次のものづくりや販売の場所が消えると困る」と持続可能性の重要性を強調。「三方よし」の考え方に触れ、「作っているところも、買っている人も、その間に入っている人もみんな安定すれば長くいい商売になる」と述べた。

 

ショッピングツーリズムの本質は「非日常体験」と「地域物語」

パネスディスカッション

 

 パネルディスカッションでは、ファシリテーターの神林淳氏が「コロナ後に各地を回り、ショッピングツーリズムの本質を学んだ」と前置きした上で、「以前は人が来て買ってくれて数字が伸びた『量の時代』だったが、実際は義務のように短い時間で買って帰る人はその場限りになる」と指摘。一方「笑顔の中で時間をかけて買い物をする人はリピートや口コミで商売が広がる」と述べ、「その差を生んでいるのは価格や有名さではなく、その場所や人、物に意味を感じたかどうかだ」と分析した。

 新津氏は「同じ人でも旅の時は財布の紐が緩む。それは旅に出た時の非日常性が理由だ」と説明。「場所というのが非日常のスイッチを入れる。ローカルなものだけでなく、演出も含めて場所は人の心のスイッチを切り替える」と述べた。

 小林氏は「旅行者がその場所に行く意思決定をした際には、求めるものや体験したいこと、描いてきた理想が場所によって違う」と指摘。「その場でしかない体験の付加価値が非常に高い」と述べた。また「買い物における機能価値と情緒的価値では、観光においては情緒面が重視される」と分析した。

 ハイバーグ氏は「大阪は食い倒れの街だから食べることと包丁が結びつく。お客さんが理解すると自然に購買につながる」と地域特性と商品の関係性を説明した。新津氏は「ツーリズムとショッピングの掛け合わせで付加価値が生まれる。ローカルなエリアに行って『その街だからこれを買う』という掛け算が価値を生む」と述べた。

 

人と物の掛け合わせが体験の質を高める

神林氏(左)と小林氏(右)

 

「買い物は人が主役の観光体験」というテーマについて、小林氏は「旅行先での買い物はその後の拡散性がある。単なるモノ消費ではなく、背景を踏まえたモノ消費として、どんな思いやストーリーがあるかが重要だ」と指摘した。

 ハイバーグ氏は「店内に職人がいることでお客さんが喜ぶ。職人の作ったものを買いたいという声をよく聞く」と述べ、「職人と会って写真を撮り、SNSでつながることで永続的な関係が生まれる」と説明した。

 新津氏は宮城県松島の観光遊覧船の事例を紹介。「前半25分は観光ガイドの説明だが、帰りは突然売店のおばちゃんが出てきて観光案内を始める。その時に自分の売店で売っているものと観光を掛け合わせて話すのが非常に面白いと評判だ」と説明。「観光だけだとその瞬間で消費されるが、物が絡むとおばちゃんの様子や景色を思い出せる」と述べた。

 ハイバーグ氏は「トリップアドバイザーで2017年に大阪城より上位の観光スポットになった。人の経験とショッピングツーリズムは一体だ」と強調した。新津氏は「毎日毎日違う接客があって、その人に合わせた説明や反応があり、新しいエンターテイメントが生まれる」とまとめた。

 

外国人の視点が日本文化の価値再認識につながる

ハイバーグ氏

 

 「外国人との物に対する価値のズレ」というテーマでは、ハイバーグ氏が「日本国内には素晴らしいものがあるが、使い方を忘れている日本人も多い。海外の方は『なぜ大切にしないのか』と思う」と指摘。「昔は結婚するために良い道具を買い、使い方やメンテナンスを覚えてから結婚できた。今は結婚してから電子レンジの使い方を覚えようという感覚だ」と日本の変化を述べた。

 小林氏は「日本のショッピングに足りないものは何かと聞かれて今なら答えるのは『ルイ・ヴィトン』だ。文化的な裏付けに紐づいた高付加価値なものは日本には眠っているが、世界的に認知されにくい」と分析。「日本の南北に広い地理や多様な山岳地帯が多様な文化形成をしてきた。日本ならではの文化体験を紐づけた旅行体験は非常に付加価値が高い」と述べた。

 ハイバーグ氏は「メイドインジャパンだけではなく、もっと地域を細分化すべきだ。メイドイン堺大阪やメイドイン福井、さらには岐阜県関市の小林博さんが作っているというところまで細分化すると逆に価値が上がる」と主張。「海外の方はメイドインジャパンのものを探しているのではなく、もっと細かいものを探している」と述べた。

 新津氏は「外国人の方と価値観がずれているわけではなく、いいものはいいと分かる。ただ日本人は日本のものを冷静に見られない」と指摘。「外の視点があるからこそ外国の方が価値を見つけられる。自分の国に帰ると同じように自国の良さが見えにくくなる」と述べた。また「戦後の特殊な30年間で大量生産・大量消費の価値観が生まれたが、若い世代はむしろものづくりやローカル、サステナブルを当たり前に楽しんでいる」と世代間の違いを指摘した。

 小林氏は会場からの「2030年6000万人目標達成のために何かアイデアはあるか」との質問に対し、「各エリアでどういう人を呼んでどう稼ぎ、どうプロモーションするかというストーリーを作る必要がある。重要なのは、どんな人が来ていて、オーバーツーリズムで困っている人は誰か、今後来るのは誰かというデータ分析だ」と回答。「業種に捉われない異業種連携によるコンソーシアムが観光戦略を担うべき」と提言した。

【kankokeizai.com 編集長 江口英一】

 
 
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