前回、「異日常」という概念について述べた。それは「暮らすように過ごす旅」であり、繰り返し訪れることで心理的健康を育む体験だ。しかし、旅にはもう一つの形がある。一度の訪問で、人生が変わるほどの衝撃を受ける旅。私にとって、宮城県石巻市立大川小学校は、そういう場所だった。
声を失った日のことを、今でも覚えている。理不尽な出来事に打ちのめされ、真実を追求する力さえ奪われていた。心も体もボロボロで、ただ沈黙するしかなかった。そんな私が、大川小学校の遺族と出会った。
2011年3月11日。津波により児童74名、教職員10名が犠牲となった大川小学校。遺族は「ただ真実が知りたい」と、10年にわたる裁判を闘い抜いた。
《映画『生きる』―大川小学校 津波裁判を闘った人たち》のスクリーンに映し出されたのは、何度も法廷に立ち続けた人々の姿だった。その姿を見た時、涙が止まらなかった。彼らの真実を求める情熱が、まるで私を守ってくれているように感じたのだ。追求できなかった私の痛みまでも、彼らが代わりに声にしてくれているような気がした。
福島や広島で花開く「ホープツーリズム」は、悲しみを希望に変える旅だ。訪れた人々は深く学び、滞在し、何度も戻ってくる。大川小学校もまた、そうした場所になりつつある。
観光業界に携わる皆さまに、ぜひこの場所を知っていただきたい。まだ訪れたことがない方は、一度足を運んでいただきたい。そこには、観光の本質が静かに息づいている。
大川小学校は宮城県石巻市にある。仙台駅から車で約1時間、石巻駅からは約30分の距離だ。校舎のすぐそばには北上川が流れ、海まで約4キロ。穏やかな自然の中に、あの日の記憶が静かに刻まれている。
しかし校舎は風化し、保存には多額の費用が必要となっている。今、寄付による支援の輪が広がっている(https://okawadonation.peatix.com/view)。
旅行業界に30年以上携わり、私は「元気になる旅」を届けてきた。そして今、「学び、向き合い、救われる旅」の意味を伝えていきたいと思う。観光には、人を癒やすだけでなく、人を強くする力がある。
(映画『生きる』―大川小学校 津波裁判を闘った人たち
https://ikiru-okawafilm.com/)
(くじらコミュニケーションズ代表・岡部純子
https://kujira-commu.com/company/)




