私の視点 観光羅針盤
通常国会の冒頭で衆議院が解散され、2月8日に衆院選の投開票が行われることになった。通常国会の冒頭解散は60年ぶり、解散から投開票まで16日は戦後最短だ。国民生活よりも高市首相の自己都合が優先された「自己チュー解散」などと批判されている。
高市内閣は衆院解散前に総額122兆円と過去最大の当初予算案を閣議決定していた。内憂外患の日本は解決が容易ではない数多くの課題を抱えており、現在の劣化した政界は解決策を見いだせないまま、当てずっぽうにカネをばらまいてごまかしを繰り返している。多党化した国会は目先の利益ばかり追求するポピュリズムに傾斜しがちであり、複雑な問題に長期的視座で対処する政治力を失っている。さらに代議制民主主義には次世代の人々の利益を反映し難い弱点がある。
そういう状況の中、日本でいまフューチャーデザイン(FD)の重要性が認識されつつある。FDとはさまざまな課題に対して現役世代だけでなく、その課題の影響が及ぶ将来世代の立場も踏まえて議論する取り組みのことだ。FDの具体例として岩手県矢巾町で実施された事例を紹介したい。
矢巾町は県中心部に位置し、盛岡市のベッドタウンとして開発が進んだ町で現在の人口は約2万7千人。2015年に老朽化した水道施設の見直しを行った際に住民参加ワークショップで現世代グループ(以下、G)と仮想将来世代Gに分かれて議論を繰り返した。現世代Gは水道料金の値下げと水道の安全性やおいしさを同時に要求、一方で仮想将来世代Gは水道の安全安心に伴う負担は当然という認識で、最終的に全体会議で水道料金値上げの提案に至った。矢巾町は18年にフューチャーデザインタウン宣言を行い、19年の新総合計画策定の際に住民参加の下、仮想将来世代(2060年)の観点での提言を組み込む計画策定を行った。
財務省の財政制度等審議会(予算、決算など国の財政について審議する財務大臣の諮問機関)でも「政策の立案に当たり、将来世代の視点に立って検討すべき、という考え方がある」という観点で、次のような建議が具体的になされている(22年11月29日)。
「・・今後、持続可能な財政・社会保障の在り方を考えていく上でも、次の時代を担う若年世代を含めて、フューチャーデザインの考え方を活用した議論に社会各層を広く巻き込み、当事者としての関心を高めていくことが望ましく、こうした取組を具体化していく必要がある。・・」
私は03年に小泉政権の下で内閣官房に設置された観光立国懇談会のメンバーとして「観光立国の意義」について起草を行い、懇談会として「住んでよし、訪れてよしの国づくり」と題する観光立国政策の提言を行った。その後、第2次安倍政権・菅政権の下でインバウンド観光立国政策は一定の成果を上げたが、現実には観光庁と観光産業御三家(旅行業・宿泊業・運輸業)の主導による目先の利益を追求した「内向きの観光立国」に終始してきた。
今後の観光立国政策の立案に当たって、次の時代を担う若年世代を含めて、FDの考え方を活用した議論を積み重ね、社会各層を広く巻き込むかたちで、より望ましい「本来の観光立国の実現」を図ることが期待されている。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)




