観光立国推進基本計画の改定、インバウンド4千万人、オーバーツーリズム。2026年の観光産業にはさまざまな課題が山積している。日本観光振興協会の最明仁理事長に聞いた。
基幹産業の地位確立へ、引き続き国に働きかけ
――昨年、高市政権が発足したが、観光政策の現状をどう見ているか。
「国の主要政策として観光立国や地方創生が掲げられてきたが、現政権になって以降、所信表明演説の内容や日本成長戦略会議での議論を見ると、観光政策が政権の大きな柱に位置づけられてきた従来とは、少し風向きが変わったと感じている」
――国主導の政策に期待できないということか。
「それはない。インバウンドは自動車に次ぐ第二の輸出産業になりつつある。国の観光立国推進基本計画も3月末の改定に向け、観光庁の検討作業が大詰めを迎えている。政策の”表紙”から観光が抜け落ちても、観光の重要度は認識されているはず。観光が基幹産業として揺るぎない地位を確立できるよう、引き続き国に働き掛けていく」
――インバウンドが4千万人時代に入った。
「インバウンドが500万人余りだった2003年に、小泉純一郎首相のいわゆる観光立国宣言があった。2007年に観光立国推進基本法が施行され、2008年に観光庁が発足した。コロナ禍で一度ゼロになったにもかかわらず、20年余りで4千万人というのは大きな成果。これからの日本がインバウンドをさらに増やすには地方誘客が重要で、それには地方空港のさらなる活用が不可欠だ」
日本人旅行、現状にもっと危機感を
――日本人旅行の現状については。
「アウトバウンドが非常に弱いのが問題だ。インバウントとバランスの良い双方向の観光交流を進める必要がある。国内旅行についても、好調とは言えない状況にもっと緊張感を持つべき。日本人が旅をする意識をもっと高める取り組みが必要で、働き方・休み方改革の推進など、もう一度、旅行ブームを巻き起こすような需要拡大の取り組みを考えたい」
――オーバーツーリズムに厳しい視線が向けられるようになった。
「特定の地域、特定の時期に起きているのが実態だが、オーバーツーリズムという言葉にさまざまな問題が包含されてしまっている。過度な混雑やマナー違反といったオーバーツーリズムに、観光客、観光産業に対する嫌悪感みたいな感情が含まれるのは良くない。欧州では、観光への嫌悪感を表す『ツーリズムフォビア』という言葉がある。住民生活に対する悪影響の防止はもちろんだが、オーバーツーリズムという言葉に観光への負の感情が包含されないよう訴えたい」
財源確保に安定性、DMOに法的地位や事業者の協力義務を
――国際観光旅客税が引き上げられる。
「引き上げ自体は良いのではないか。ただ、増収分を地方に配分してほしい。『交付税』のような形で地方が自由に使える観光財源として、観光地経営に活用すべきだ。一定の基準のもと、地方自治体や広域DMOに配分し、地方活性化に結びつける。また、日本人から徴収する部分については、修学旅行費用の支援財源に充ててはどうか。日観振では、若者のグローバル意識醸成、人材への投資といった観点から将来的に修学旅行費用の無償化も視野に入れた制度の導入を提言している。旅行費用の高騰で教育効果の高い旅行機会が失われつつある。将来の海外旅行促進の意味もあるので検討してもいいのではないか」
――DMOに関しては、観光庁が昨年、登録制度のガイドラインを改定した。
「登録・更新のハードルが上がったわけだが、現場には対応が難しい項目もあり、実効性には課題が多い。日観振では、基本計画の改定に向けた提言の一つとして、DMOに一定の法的地位、執行権限を持たせることを検討するよう求めている。地域の観光地経営に参画意識が薄い外資系ホテルや大手事業者をDMO会員に迎え、協力を義務化することで施策の実行力を強化できる。法的根拠を持つことで財源・予算や事業執行の安定性も確保できる。そのうえで国際観光旅客税の一部をDMOの財源にしてもいいのではないか」
――人材不足、人口減少が進む。観光産業の人材確保・育成の取り組みは。
「地域一体で若い人材を呼び込み、定着させていくことが重要だ。大企業ではAI(人工知能)の普及に伴うホワイトカラーの人員削減が始まっているといわれる。人間同士の触れ合いがある観光の仕事の魅力をしっかりPRして観光産業に取り込みたい。観光人材の裾野の拡大には、小中学生の観光教育から社会人の教育研修まで産官学の体系的な取り組みが不可欠だ」
――日観振の今後の取り組みを教えてほしい。
「基幹産業としての観光が目指す姿を描こうと、中長期的なビジョンの策定を進めている。会員企業・団体の若手を中心メンバーとして検討しており、今年6月の総会で発表する予定だ。経済界や全国の自治体に向けて発信し、観光業界の明るい未来を示したい。DMO向け研修の充実や『観光DX検定』の中級コース開設など人材育成の事業も強化する。2030年に訪日外国人旅行者6千万人、その消費額15兆円を目指す政府の目標は変わっていないので、その実現に向けて、産業界、地域と力を合わせて引き続きしっかり取り組んでいく」

【聞き手・向野悟】




