地域により制度の異なる宿泊税の乱立は混乱を招く グローバルツーリズム経営研究所 永山久徳


永山久徳氏

現場で起きている混乱~「集める側」の負担が増加~

 

 宿泊税導入に向けた議論が、全国各地で加速している。宿泊税が観光地の未来のために必要な財源であることは否定しない。しかし、すでに導入された地域では、現場から負担感を訴える声が強まっている。宿泊税そのものの是非以前に、安易な制度設計が運用の複雑化を招き、現場に混乱を生んでいるという問題を取り上げたい。

 

 宿泊者にとって複雑さを最も感じやすいのは、徴収方法であろう。例えば、ホテルを予約した段階で宿泊料金の事前決済を済ませていたにもかかわらず、チェックイン時にフロントで宿泊税だけを別途徴収された経験のある方もいるはずだ。せっかくフロントに効率化のための自動チェックイン機を設置していても、宿泊税のためにアナログの手間と時間がかかってしまっている。

 

 「宿泊税も事前決済時に徴収しておけばスムーズではないか」と考える人もいるが、簡単にはいかない。OTA上で宿泊税まで事前徴収しようとすると、宿泊料金と同様にOTAへの販売手数料が発生する。クレジットカードで支払う場合の手数料も同様である。宿泊税は自治体へ納める税金であり、宿泊施設の売上ではない。自治体によっては施設に対して少額の徴収手数料が還付されるケースもあるが、10%を超えるOTA手数料までカバーできるものではない。手数料が発生する徴収方法では施設側がコストを負担しきれず、結果として宿泊税は現地で現金徴収する運用に寄りやすくなるのである。

 

 また、事前に徴収できない理由として次に問題となるのは、宿泊税の算定方法が自治体によって異なる点である。宿泊料金に対する税率で計算される自治体もあれば、宿泊料金に応じた段階制で税額を決める自治体もある。しかし、1泊2食の旅館や館内利用をすべて含めたオールインクルーシブ制のホテルなどの場合、宿泊料金に相当する金額を分離できないことがある。その場合、宿泊者は総額に対して計算された過大な宿泊税を負担する可能性がある。

 

 宿泊税が段階制の場合、例えば5人で宿泊し、2名と3名で2部屋に分かれたケースでは、1人当たりの宿泊料金をどのように算出するかで税額が変わり得る。宿泊料金総額を5で割るのか、部屋ごとの宿泊料金をそれぞれ2または3で割るのか。ルールの書き方ひとつで税区分が変わり各人の税額が変化してしまう可能性がある。

 

 肝心の「宿泊」の定義も自治体によって異なる。午前0時をまたぐ利用を宿泊の要件としたり、連続6時間以上の利用を宿泊と定義したりするケースもあり、基準が定まっていない。そのため、休憩主体のホテルや「1.5泊滞在」といった形態では、チェックアウトの時点にならないと税額が確定しないという問題も生じる。

 

 さらに宿泊税は地方税であることから、免税・非課税の対象についても、地方議会や担当部署の判断によってさまざまなローカルルールが付け加えられる。例えば「町民は対象外」「町民の家族の里帰りは対象外」「地元主催のスポーツ大会は対象外」「地元チームと対戦するチームは対象外」など、多くの自治体で独自性のある制度が検討されている。これでは事前徴収はおろか、宿泊施設が課税・免税を判断することはできず、これらを予約時のシステムに組み込むことは現実的に不可能である。結果としてチェックイン時に対面で確認せざるを得ず、手間が増えることになる。

 

 また、市町村と都道府県の双方が重複して宿泊税を設定するケースや、入湯税と二重に課税する自治体もあるため、宿泊客に事前に制度の理解を得ることが難しい場合もある。徴収時に説明をしても、「説明がなかった」「聞いていない」という不満につながりやすい。数百円の金額であっても、後味はどうしても悪くなる。

 

 宿泊施設側はその後の負担も無視できない。経理業務として預かった税金を納付する際、宿泊者名簿と連動した計算フォーマットの作成が必要となったり、県と市に別々の納付を求められたりするケースもある。そして決定的なのが、本来その作業を補助すべきシステム側の対応が難しい点である。宿泊施設の多くはPMS(宿泊管理システム)を用いて予約・会計・売上管理を行っているが、宿泊税のルールが自治体ごとに異なれば、そのたびに自治体に合わせた改修や設定変更が必要になる。自治体による独自ルールが増えれば増えるほどPMSの改修は難しくなり、現場のオペレーションの増加をシステムが助けることができなくなる。宿泊税は「個性を出せば出すほど、現場の混乱が増幅する」性質を持つ制度になってしまっている。

 

 もちろん各自治体では、宿泊税導入時に各宿泊施設へ対応費用としてPMS改修費の一部を補助する仕組みを取り入れている例もある。しかし問題はその後である。PMSは数年ごとにシステム入れ替えやバージョンアップなどの更新がある。そのたびに「全ての」PMSベンダーは、「全ての」自治体に合わせた「〇〇市仕様」「〇〇町仕様」を用意しなければならず、その開発コストは宿泊施設に転嫁される。数年ごとに自治体は対応費用を補助する覚悟があるのだろうか。もちろんPMSやオペレーションコストの増分は、最終的に宿泊客の負担になる。

 

 念のために書いておくが、ここでは宿泊税の意義に疑念を持っているのではない。宿泊税の価値や効果は認めつつも、各地で沸き起こる安易な宿泊税の議論がこのような現場での混乱を生み、結果的に観光の現場を疲弊させつつあるという事実を、まずは直視すべきなのである。

 

今後の宿泊税の導入において必要な視点

 

 上記を整理すると、各自治体による宿泊税制度の乱立が招く混乱は、次の3点に集約される。

 

 第一に、各自治体で独自に決められてしまう制度の分かりにくさである。自治体によって課税対象者や計算方法が異なれば、宿泊者の理解が追いつかず、現場での不信感につながる可能性がある。福岡県と福岡市、福岡県と北九州市のように県と市が重複して課税するケースや、温泉地における入湯税との重複課税、リゾートフィーなど他の徴収がある場合は、なおさらである。

 

 第二に、徴収実務の複雑さとコストである。宿泊税は施設が徴収する以上、現場の業務負担は避けられない。複雑なルール設定により、宿泊客が来るまで、またはチェックアウトするまで税額が確定しないといった状況が生まれれば、判断や徴収の手間が増えるほど現場はさらに疲弊する。手間を減らそうとしてOTAやクレジットカードを活用しようとしても、税金部分に対して手数料を負担するという矛盾が生じる。宿泊税の議論は表向きには観光財源の意義を説くものが多いが、現実には宿泊業の人手不足・生産性向上の流れと相反する問題としても論じるべきである。

 

 第三に、PMS改修負担と更新コストの累積である。PMSによって宿泊税の処理を行おうとしても、税区分の設定、免税条件の判定、領収書表記、納税用の集計ロジックなど、自治体ごとに異なる対応をしなければならない。しかも問題は「最初の改修」だけでは終わらず、数年ごとの更新のたびに施設は追加費用を負担することになる。導入自治体が増え、税制が複雑化するほど、PMSベンダーは個別カスタマイズと保守を繰り返す必要があり、そのコストは宿泊施設へ転嫁され、最終的には宿泊料金の上昇として宿泊者に跳ね返る。

 

 ここまで述べた混乱は、宿泊税が地方税である以上、「自治体ごとに違って当然」と片づけられがちである。しかし観光は地域をまたいで移動する活動であり、宿泊税は旅行者が複数地域で連続的に負担する税である。よって制度の分断は、そのまま旅行体験の分断となり、現場負担の増幅につながる。宿泊税が全国に広がるほど、制度乱立の弊害は拡大する。

 

 だからこそ、いま必要なのは制度統一(標準化)へ踏み込むことである。税率や金額を全国一律にせよと言っているのではない。地方自治体の裁量は尊重しつつも、運用の骨格だけは揃えなければならない。そして、この標準化は自治体任せでは限界がある。宿泊税は地方税であっても、国が「モデル」や「ガイドライン」を提示することで標準化を図るべきである。総務省は法定外目的税の同意を通じて制度に関与している。観光庁は観光政策の推進主体である。国土交通省も観光インフラの観点から無関係ではない。国が関与しないまま自治体ごとに制度が増え続ければ、混乱は収まらず、観光全体にも悪影響を及ぼしかねない。

 

 省庁が提示すべきモデルは、前述の問題を緩和するものである必要がある。例えば、宿泊(時間や料金)の定義、端数処理(切り上げ・切り捨て)の指針、手数料負担の考え方、宿泊施設から自治体に納付する際のフォーマットなどについて統一的な考え方を示すことで、少なくともPMS開発やOTAでの事前徴収など、効率化への大きな後押しとなる。税額(税率)や対象者(非課税者)などについては、自治体の個性が出てもよいだろう。

 

 宿泊税が観光地の未来を支える制度として利用者に抵抗なく受け入れられるかどうかは、単に税額の議論だけで決まるものではない。制度の分かりやすさ、負担の公平性、運用の現実性、そして透明性をいかに設計するかにかかっている。地域ごとに制度が異なる宿泊税の乱立は、観光の未来を支えるどころか、現場を疲弊させる「見えない足かせ」になりかねない。いまこそ国・自治体・業界が協調し、宿泊税を「取りやすい税」ではなく「納得して払える税」にするための標準化、モデル・ガイドラインの制定へ踏み込むべきである。

 
 
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