私の視点 観光羅針盤
新年早々に「大波乱の年」を象徴する出来事が起こった。トランプ大統領の命令によって米国陸軍特殊部隊がベネズエラの首都に侵攻し、マドゥロ大統領夫妻を拘束して米国に移送。他国の首都に軍を送り込んで大統領を拘束し、違法薬物密輸組織の中心人物として米国で裁判にかけるために連行したと公言している。
国連憲章は国家主権と武力不行使を国際秩序の基本と定めている。ベネズエラはチャベス前大統領が確立した反米・社会主義路線に基づいてロシアや中国との友好関係を築き上げたが、長らく特権層の腐敗、経済不振、貧困拡大、政権批判者への迫害などで国民に不自由と苦難を強いる独裁体制を継続してきた。とはいえ他国が軍事力を行使して、政権転覆を図ることが正当化される訳ではない。
トランプ大統領は南北米大陸のある西半球を自国の勢力圏とみなし、排他的に利益を追求する方針を明確にしている。そのため反米で親露・親中国のベネズエラに対する政権転覆の機会を探っていた。その上にベネズエラは世界最大級の原油埋蔵量を誇る資源大国であり、原油権益の確保が主要目的のようだ。さらにトランプ大統領はベネズエラ侵攻直後にデンマーク自治領グリーンランド領有への意欲を示した。グリーンランドは北極圏の要衝で天然資源が豊富なので、トランプ政権は世界の安全保障のために米国が領有すべきと一方的に主張している。
一方、中国は昨年12月末に台湾周辺で大規模な軍事演習を行った。陸海空軍とロケット軍が駆逐艦、強襲揚陸艦、戦闘爆撃機などを投入して海上封鎖・港湾制圧演習やロケット弾の発射訓練を行った。台湾統一を前提にした威嚇であるが、中国外務省は「武力による『台湾独立』を求める勢力への厳しい戒めで国家主権と領土を守る必要な行動だ」と強調している。
2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻によって国際秩序の基本原則(紛争の平和的解決)が踏みにじられた。プーチン大統領は世界各国からの非難を浴びながら今も戦闘を継続している。英国の王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、戦争リスクの高まりについて軍事的衝突だけでなく、情報戦、心理戦、サイバー攻撃、経済制裁などの非正規戦を統合的に組み合わせたハイブリッド型戦争の激化を予測している。現にロシアはウクライナ戦争継続で財政が厳しくなり、費用のかからないハイブリッド戦争に移行しつつある。
世界は今、3人の独裁者(トランプ、習近平、プーチン)によって、第二次大戦後に築き上げられてきた国際秩序が著しく改変されている。日本は台湾有事や尖閣諸島有事を懸念しているが、米国第一主義のトランプ政権の下では従来通りの日米同盟が当てにならないために、日本独自の判断で軍備を整えるとともに、韓国やオーストラリア、インド、東南アジア諸国との連携強化を図ることが不可欠な国際情勢になっている。
観光立国は日本にとって極めて重要な国家デザインであるが、観光産業は戦争や紛争、自然災害、疫病、経済不況などに対してフラジャイル(虚弱)なので、観光庁や観光業界は日本の英知を結集して「大波乱時代における最も望ましい日本観光の在り方」を周到に検討し直すことが必要不可欠になっている。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)




