【口福のおすそわけ583】ラ・フランスのヒミツ 竹内美樹


竹内氏

 見たこともないほど大きな「ラ・フランス」を頂いた。何と、サイズ8Lの「特選」。西洋梨の一種だが、実は生産地以外ではあまり知られていないヒミツがある。

 原産地はその名の通りフランス。1864年、発見者のクロード・ブランシェ氏が、あまりのおいしさに「わが国を代表するにふさわしい果実だ!」と絶賛したのがその名の由来とか。日本への上陸は1903(明治36)年。その後大正初期に、現在全国シェアトップを誇る山形県に導入された。

 ここで、一つ目のヒミツ。実は今、ラ・フランスを栽培しているのは、日本だけなのだそう。つまり、故郷フランスでは、既に絶滅してしまったというのだ! ラ・フランスは病気にかかりやすい上、開花から収穫までに時間を要し手間も掛かるので、本国では徐々に栽培が減ったようだ。1900年代初頭、絶滅寸前に日本に苗が持ち込まれたという。山形県で栽培が発展したのは、降雨量が少なく、昼夜の寒暖差が大きいなど、ラ・フランスの生育に適した独特の気象条件があったから。同県は世界的にも貴重な産地ゆえ、2020(令和2)年、「山形ラ・フランス」が地理的表示(GI)保護制度に登録されている。

 さて、二つ目のヒミツも、その歴史にまつわるお話。その芳香とあふれる果汁、甘くてとろけるような肉質から、今や「果物の女王」とまで称されるラ・フランス。だが、日本に来てから長きにわたって、下積み時代のアイドルのごとく、不遇な時期があったのだ! 実はラ・フランス、食用としてではなく、当時すでに缶詰用として栽培されていた品種「パートレット」の受粉樹として導入されたそうだ。果樹は単一品種だと受粉しにくい。そこで同じ畑に別の品種を植え、実を結ぶ確率を高める栽培手法として、細々と植えられていたという。だが昭和60年代のバブル景気に伴うグルメブームをキッカケに、生食用として脚光を浴び、一躍主役として表舞台に立てたのだ。

 かつて日本人は和梨の味に慣れていたから、無理もなかろう。しかも、ゴツゴツと見栄えが悪い上、洋梨は収穫後スグに食べても硬くてマズイ。「食べられなくて捨てておいたら、黄ばんで良い香りがしてきたので、拾って食べてみるとおいしかった。それで収穫後に追熟させることに気づいた」という説もある。

 ここで、三つ目のヒミツ登場! 同県産ラ・フランスには、ボジョレー・ヌーヴォー同様解禁日が存在する。リンゴのように赤くならず、木の上で熟さないから、収穫時期の判断が難しい。そこで未成熟な果実が市場に出回るのを防ぐべく、県やJAが毎年「収穫適期判定会」を開催、計測した糖度等を基に収穫解禁日を決めている。そして追熟を経た後、今度は振興協議会が出荷解禁日である「販売開始基準日」を決定、一斉に売場に並ぶ。今年は10月28日だった。出荷最盛期は12月下旬まで。

 同県のラ・フランス、そりゃもう超甘ウマ美味♪ 官民一体となった努力の結晶に、拍手を贈りたい。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
 
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