月花氏
コロナ禍が明け、インバウンドが急回復するなど観光業界がかつての活況を取り戻しつつある。ただ、深刻化する人手不足や諸物価の高騰など問題が山積。難局を乗り切るための知恵と工夫が求められる。ここでは「旅館・ホテルの賢い投資戦略」についてグッドマンサービス代表取締役の月花拓美氏から寄稿いただいた。
短期就業から関係人口へ
地方の観光産業は今、コロナ禍からの需要回復とインバウンド拡大により客足が戻っている一方で、深刻な人材不足という構造的課題に直面している。特に地方では、若年人口の減少や都市部への人口流出が続き、宿泊・飲食・観光サービスを担う労働力の確保がますます難しくなっている。需要は戻っているのに、働き手がいない―このギャップが地域の観光産業の成長を阻む最大の要因となっている。
こうした状況に対して近年関心が高まっているのが、リゾートバイト(短期就業)という働き方を戦略的に活用するアプローチである。当社が行っている“観光地特化型の人材派遣サービス”はこの「リゾートバイト」を通して“観光地”と“人材”を結んでいる。
リゾートバイトは、観光シーズンに合わせて短期間だけ働く形態として広く知られているが、単なる労働力の補完にとどまらず、地方の観光地に新しい価値をもたらす可能性を秘めている側面に、今後の観光業の人材戦略として注目したい。
その一つが、“関係人口”の創出である。
関係人口とは、移住者でも観光客でもない、“地域と多様に関わる人々”を指す。短期のリゾートバイトを通じて地域に滞在する人は、働く体験を通じて地域に愛着を持ち、再訪したり、他の人に紹介したり、さらには将来的な移住や長期就業につながることもある。
実際、観光地での短期就労をきっかけに「その地域が好きになった」「将来も関わり続けたい」と感じるケースは多く、地域側から見れば“未来の担い手候補”となり得る存在だ。
この観点から、今求められているのは、単なる採用施策ではなく“観光地と人材との関係づくりを含めた「就業の体験化」”という発想である。働き手を“労働力”として捉えるのではなく、まずは「短期でも気軽に働ける」「地域を深く知るきっかけになる」ような体験型の就業機会を提供することで、人材との長期的な関係性を築くことができる。
この「就業の体験化」は、地域と働き手の双方にメリットをもたらす。働く側は、旅をしながら就業し、多様な価値観に触れることができる。地方での暮らしを“お試し”できるため、移住を検討する前段階として有効だ、という声もある。一方、地域側にとっては、繁忙期の人手不足を補えるだけでなく、地域の魅力を理解したファン層を増やすことにつながる。短期就業の経験者がSNSで地域の魅力を発信すれば、採用広報としても高い効果を生む。
また、実際に派遣人材の受け入れをしているホテル・旅館等からこんな声をいただくことが多くある。「地元では当たり前だと感じていたことも、外から就業に来てくれた方が改めて“この土地の魅力”に気付かせてくれることがある」「さまざまな土地から、さまざまな背景を持つ人材との就業で、元々の就業スタッフ・社員も大いに刺激をもらえる」。これこそ“単なる労働力の補完にとどまらず、地方の観光地に新しい価値をもたらす”点だとも感じる。
地方の観光産業を支えるうえで、今後さらに重要になるのが、全国各地での人材交流を促す仕組みづくりである。地域ごとに繁忙期が異なるという観光業の特性を生かせば、短期就業者が季節に応じて複数の観光地を巡る“循環型の働き方”が可能になる。これにより、地方同士が人材を奪い合うのではなく、互いに送り合う協力関係を築ける。多様な地域で働いた経験を持つ人材は視野が広がり、将来的には観光の高度人材として地域の中核を担う存在へと成長していく。
総じて、地方観光の人材戦略は、単なる“採用の強化”から、地域と多様な人材をつなぐ関係づくりの戦略へと進化しつつある。リゾートバイトはその入り口となり、就業の体験化は地域の魅力を知ってもらう機会を創出し、関係人口は地域の長期的な担い手へと育っていく。この循環を生み出すことこそ、地方の人材不足を根本的に解消し、観光地として持続的に成長するための鍵である。
観光業に特化した人材派遣を行う当社としては、地方観光地と連携し、“その土地の魅力”と“観光業の魅力”をいかに広めていくか、今後もより実効性のある手法を探り続けていきたい。“観光”の持つ素晴らしい可能性を信じているからこそ、「観光業で働く」ことを明確に意識していない“潜在層”に、リゾートバイトを通して“まずは就業を体験してほしい”のだ。
地方観光の未来は、「短期で働く人」をいかに「地域の仲間」に変えていけるかにかかっている。地域と人材が互いに価値を感じ合いながら関係性を深めていく。そんな新しい観光地づくりの潮流が、今まさに始まっている。

月花氏




