【一寸先は旅 人 宿 街 45】日本のクルーズ人口100万人へ 神崎公一


 新型コロナウイルス感染症がまん延する数年前の2015年、筆者は地中海クルーズを体験した。ローマから乗船し、フィレンチェやモナコ、マルセイユ、バルセロナなどを巡り、ポルトガルのリスボンまでの4カ国7泊の旅だった。日本に戻って友人たちにこの話をすると「ずいぶんとぜいたくだね。さぞ高額だったんだろう」と驚かれた。

 しかし、筆者が乗ったのはカジュアルクルーズというお手頃価格の商品だった。円高の影響もあり、船内の食事とエンターテインメント施設利用を含め代金は14万円ほど。それに加え、東京―ローマ、リスボン―東京の往復の航空券が12万円ほどだったと記憶している。

 金額的にはヨーロッパ1週間程度のパッケージ旅行と同程度ではないかと友人たちには説明した。すると、今度は「ドレスコードがあるだろう」とか、「行きたいのはやまやまだけど、英語がしゃべれないから、ためらうな」などの消極的な反応が多かった。

 あれから10年ほど経て日本旅行業協会(JATA)と日本外航客船協会(JOPA)、そして日本国際クルーズ協議会(JICC)は、このほど2030年に日本人クルーズ人口100万人を目指す「Let’s CRUISE 1M(Million)~100万人で行こうよ!船旅へ~」をキャッチフレーズに新たなロゴを定め、船会社と旅行会社が手を携えて取り組んでいくと宣言した。

 日本のクルーズ人口は2024年に22・4万人で、ピークである19年の35・6万人には及んでいない。そうしたなかで、100万人は大胆な数値である。ただ、25年7月には日本郵船では34年ぶりとなる新造船、飛鳥Ⅲが就航し、飛鳥は2隻体制となったほか、28年度就航予定のディズニークルーズのオリエンタルランドが日本外航客船協会に加盟するなど、明るい話題が相次いだ。

 こうした追い風に乗ってシニア層だけではなく、若い世代や家族連れなどもターゲットとし、クルーズの楽しさ、快適さを知ってもらうよう説明会などを通じ情報発信を活発化させPRに努めるという。

 クルーズは地域創成や伝統文化の紹介にも力を発揮する。クルーズ船が到着する港ではさまざまな歓迎行事なども開催される。多くの乗船客がその土地で観光周遊をするため、地域活性化にもつながると期待されている。

 その一方で、何千人もの客が1度に上陸するため、地元でタクシーやバスの手配が追い付かなくなったり、交通渋滞が発生したりという問題を指摘する声も聞かれる。夕方には船に戻ってしまうため、その土地で宿泊せず、旅行消費につながらないとの意見もある。

 しかし、関係者は課題を整理し、理解と納得を得ながらさらなるクルーズマーケットの拡大にと意気軒高だ。筆者が体験した地中海周遊に限らず、クルーズの旅は、夜間に船は次の寄港地に向け運航され、翌朝には上陸観光をして、夕方には船に戻り夕食を取る。このため、毎朝荷物をトランクに詰め慌ただしく次の目的地に向かう面倒やアルコールを除けば食事代込みの値段を考えると割安であるなど、肯定的な口コミも広がっている。100万人のチャレンジングな目標の行方に注目したい。

 (日本旅行作家協会常任理事、元旅行読売出版社社長)

 
 
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