【2026新春宿泊4団体トップインタビュー】全日本ホテル連盟 会長 清水嗣能氏


清水氏

 

「第4の柱」構築でアイデンティティ強化

――2025年の宿泊業を振り返ると。

 昨年は、高市早苗内閣総理大臣の発足に加え、観光庁でも人事異動が相次ぐなど、行政内で大きな動きがあった。2月には秡川直也前観光庁長官ら関係省庁が当連盟を含む観光関連7団体を個別に訪問し、要望を直接ヒアリングしてくださったことは、大変意義のある機会だった。

 「第5次観光立国推進基本計画」の策定に向けた議論も本格化し、7月に開かれた分科会では、当連盟としてインバウンドの地方分散や観光庁の「省」への格上げ、AIによる観光ポータルサイトの構築、交通・多言語対応などを提言した。

 顕著な動きを見せたのが、民泊の「進化」と「浸透」だ。長野県松本市では、民泊など宿泊施設の拡大により客室数は約1千室増加したが、売り上げは前年比約1・4倍と好調で、「民泊も積極的に進めるべき」との声も聞かれる。宿泊税については、自治体ごとの差異に対し、旅行業者から統一を求める意見も出ている。一律導入には慎重な姿勢だが、使途が明確で業界が関与できる仕組みであれば、前向きに検討すべきとの意見もある。

 公正取引委員会による、一部ホテルへの価格カルテルにつながる恐れのある行為に関する警告は、業界に大きな衝撃を与えた。価格形成につながる情報交換を控えるべきことは当然だが、それ以外の技術動向や需要見通しなどの意見交換は業界の活性化のために必要であるので萎縮することは適当でないと考える。

 また、気象庁による警報・注意報で過度な表現が使われると旅行需要に影響を及ぼすケースも見受けられた。より分かりやすく、過剰に感じられない表現でお願いしたい。

 ――各事業の振り返りを。

 会長として5期目を迎え、事業方針である「国づくり」「会づくり」「人づくり」「宿づくり」を軸に各委員会・部会活動を進めてきた。中でも、三つの大きな柱が出来上がってきたと感じている。

 一つは、地域活性化委員会が担当する「タウンミーティング」だ。連盟設立50周年を契機に始まり、昨年11月の広島県福山市での開催で6回目となった。毎回開催地の地域から高い評価を受けている。岩手県北上市で開催した際には、市の広報を担当される当時副市長の及川義明氏が登壇。北上、角館、弘前をつなぐ「東北三大桜」というブランディングを打ち出し、翌年の来訪者数は10倍になったという。このような地域の知恵を学び、それを全国に共有することが会の役割だ。

 そのほか、宿屋大学の近藤寛和代表らと連携して実施している「ホテル経営者セミナー」(毎年2月開催、研修委員会担当)や、各ホテルの現場の声や工夫を共有し、会員誘客につなげる「ホテル産業フォーラム」(毎年3月開催、会員増強委員会担当)も、連盟の主要事業として定着しつつある。各委員会で、自信を持って強みと言える事業が、着実に増えてきたと感じている。

 ――委員会も新設した。

 昨年4月、持続可能な団体を目指すための具体策の検討を行う「政策諮問委員会」を立ち上げた。11月に開いた定例会議では、先ほど述べた観光庁との意見交換会を今後の恒例行事として位置付ける案がまとまった。これが実現すれば、主要3事業に次ぐ「第4の柱」として、さらに連盟としての価値が高まるはずだ。

 ――26年の業界の見通しは。

 業界全体が転換期を迎える中、今年はさらに「多様化のフェーズ」に入るとみている。外資系ホテルの進出が加速し、ライフスタイルホテルや個性的な小規模ホテルの存在感が増す一方、「ビジネスホテル」と呼ばれるわれわれの業態は、ターゲット層を限定しかねず、役割や定義の再考が求められている。インバウンド客の増加を踏まえると、より多様なニーズに応える新たな呼称を模索すべき時期にきている。

 民泊の拡大も無視できない。会員制で通年営業に対応する施設もあり、旅館業界でも「宿の本質」を見つめ直す動きが広がっている。こうした変化に対応しながら、各施設が独自の価値を打ち出すことが、今後さらに重要になっていくだろう。

 ――重点事項は。

 特に重視したいのは「アイデンティティの強化」だ。たとえば、車といえばベンツ、化粧品といえば資生堂のように、すぐに名前が挙がるのがブランディングの力。「私たちの事業はこれだ」と明確に言えることが、商売にも直結する。私が経営するホテルリバージュアケボノでは、「朝食」「天空大浴場」「観光ホテルとしての客室構成」「和食からフレンチへの転換」といった四つの特色を打ち出し、差別化を図ってきた。これを「オセロ理論」と呼んでいて、オセロの四隅を取れば勝利に近付くように、組織でも四つの柱を立てることで、説得力と安定感が生まれる。連盟としても、先ほど述べた第4の柱を建てているところで、各委員会のほか、全国の8支部にも「看板事業」を持ってもらい、地域ごとの独自性を打ち出していく。

 ――支部事業の方向性は。

 今年度から「支部長会」を実施し、全国8支部の課題を共有する場を設けている。賛助会員が多く、活動が盛況な支部がある一方、限られた人数で活動する支部もある。そこで、事業の骨組みを支部長会で作成し、各支部に落とし込んで実施する方針をとった。支部長間でノウハウや成功事例を共有することで、支部事業の活性化を図る。

 ――読者のホテル経営者にメッセージを。

 業界の大きな課題である「人手不足」の解決には、「待遇改善」が欠かせない。サービス業では人件費が売り上げの30%が目安とされる中、給与を上げるには売り上げの増加も必要だが、単価を上げすぎれば稼働率が下がる恐れもある。そうしたバランスを見極めながら、経営の質を高めていくことが求められる。

 もう一つ強調したいのは、「業界の魅力発信」だ。私のホテルでは中学生の職場体験を積極的に受け入れ、客室清掃などを体験してもらっている。ホテルの本当の役割は、お客さまの良い思い出づくりをお手伝いすること。この仕事の価値をもっと多くの人に発信し、若い世代に「働きたい」と思ってもらえるような、魅力ある業界にしていこう。


清水氏

観光経済新聞2026年1月1日号全紙面

 
 
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