桑野氏
会員の声広い、災害・金融など諸課題に対応
――2025年の宿泊業界を振り返って。
宿泊業界にとっては、今年も日本各地で豪雨など自然災害により緊張を強いられる場面が少なくなかった。
夏場の時期には、科学的根拠のないデマがSNS等で拡散してしまった結果、海外からの旅行が手控えられ、海外航空路線の一部で減便や運休などの事態にまで至ってしまったケースも発生。さらには、観測史上最高を記録する厳しい猛暑となり、各地で暑さ対策が求められた。
こうした中で、大阪・関西万博が無事に終了と伝えられているが、観光面での効果が遠方まで広く行き渡っていたのかはこれからしっかり検証する必要がある。
年初から訪日外国人来訪者数は順調に推移し、10月時点で過去最速の累計3500万人を突破。いよいよ年間で4千万人達成も視野に入ってきた。残念ながら、その多くは首都圏や有名観光地に集中し、地域の隅々にまで恩恵をもたらすには至っていないが、ここにきて、地方誘客が現在の観光政策の大きなテーマとなってきた。私ども宿泊業界も地域DMOやDMCとの連携により、地域の受け入れ拠点としてその機能を高め、地域の中での大切な役割をしっかり果たしていくことが訪問者の満足度を高め、さらなる誘客につながっていくものと信じている。
――25年の協会事業は。
金融問題については、9月に石川県金沢市で第3回「宿泊業界における観光と金融に関する全国懇談会」を開催させていただいた。当協会が主催し、北陸信越運輸局の共催、協力のもとで実現したものだ。
懇談会には、金融庁長官、中小企業庁長官、観光庁長官をはじめ、北陸信越地域の多数の金融機関の皆さま、そして私たち宿泊業界の関係者の皆さまに参加をいただいた。
大きなテーマとして、能登半島地震からの復旧・復興と、それに向けた金融面での支援を取り上げた。現地では、資材の高騰などの課題により、復旧の遅れが懸念されている。復興を力強く進めていくためには、国や地域の行政、金融機関、そして事業者の皆さま、それぞれの密接な連携が何よりも不可欠。今回の懇談会が、この連携を深める機会となった。
人手不足への対策としては、労務委員会が外国人材の受け入れに重点を置いて対応を進めており、今年度も海外で開催されるジョブフェアやマッチングイベントに協力している。
また、従業員が安心して働ける環境を整えることも重要であり、特に近年、社会全体で対応が求められているカスタマーハラスメントに対しては、当協会としても、基本方針や対応マニュアルの策定作業を進めているところだ。
このほか、当協会に設置されている各委員会の取り組み事項については、まず旧未来ビジョン委員会での検討の成果として、夢のある旅館づくりへの羅針盤ともなる冊子「私たちが創るミライのリョカン」を発行し、多くの皆さまにご覧いただいた。
現在、ミライ・リョカン委員会では、旅館としてのサービス実務マニュアルの策定や、新たな旅館料理のあり方、過去の災害を踏まえて準備しておくべきことなどについて、また、政策委員会では、税制改正に関する要望事項や、予約キャンセルの際の適切な取消料の収受について、EC/DX委員会では、クレジットカード手数料の低減や海外のOTAに関する課題について、それぞれ検討を進めている。
――26年の宿泊業界を展望すると。
25年のインバウンドについては、冒頭でも触れたように4千万人を超える方々が訪れるという予測も出ている。26年においては、国際関係で懸念が残るものの、大きな災害などのマイナス要因がなければ引き続き多くの方にお越しいただけると期待している。
こうした状況が続く中で、観光客の集中による「オーバーツーリズム」の問題は、引き続き喫緊の課題として対応が求められる。この問題への対応策としては、マナー啓発やルールづくりの強化も必要だが、一極集中の緩和のため、来訪者の地方への分散を進めていくことが解決の柱ではないかと考えている。そのためには、地方の側で地域の魅力をさらに高め、きめ細やかに情報発信・体験の「磨き上げ」を図ることが不可欠だ。
――26年に協会が重点的に取り組むべき事項は。
コロナ禍に起因する過重債務の問題は、いまだ業界にとって看過し得ない大きな課題として横たわっている。多様な社会的要請に応えていくためには、何よりも安定した経営基盤の確立が不可欠。
また、能登半島地震からの、1日も早い復旧・復興は、私たちが忘れてはならない課題だ。金融問題と並行し、会員各位の切実な声を拾い上げ、改善につなげるべく、引き続き、政府をはじめとする関係機関に対し、息の長い、継続的な支援を訴えてまいる所存だ。
その他、当協会に設置されている四つの委員会においても、先に申し上げた各事項を最重要事項として、引き続き取り組む。
――弊誌読者の旅館・ホテル経営者に団体トップとして訴えたいことは。
現在、国内外から多くの旅行者が私たちの地域を訪れている。彼らが求めているものは、その地域に息づく歴史、文化、自然、そして何よりも地域の人々の温かさや、そこで育まれた生活の知恵や営みそのものだ。
私たち旅館は、これらを旅行者に伝え、体験していただくための、最も重要な「窓口」であり、「舞台」であると自負している。そのためには、私たち旅館一軒一軒が、地域社会の一員として深く根ざし、旅行者にとって価値のある「本物」を提供していくことが大事であると思う。
皆さまと共に、日本の旅館が地方創生の担い手となり、「リョカン=RYOKAN」がやがて世界共通語となっていく未来を切り開いていきたいと強く願っている。本物を提供する誇りを胸に、共にまい進してまいりましょう。

桑野氏




