【2026年新春インタビュー】「温泉文化」の魅力を世界へ 「知事の会」平井伸治会長に聞く


 観光業界が熱望する「温泉文化」の国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産登録に向けて、業界団体とともに活動しているのが「『温泉文化』ユネスコ無形文化遺産登録を応援する知事の会」だ。会長を務める平井伸治・鳥取県知事に会の活動や登録の意義、自身の温泉に関わるエピソードを語っていただいた。(聞き手=本社取締役編集長・森田淳)


ユネスコ登録、地方経済に大きな影響

 ――「温泉文化」ユネスコ無形文化遺産登録を応援する知事の会について。

 群馬県の山本一太知事や石川県の馳浩知事ら有志で立ち上げたものだが、仲間がどんどん増えて、今は47都道府県全ての知事が参加している。つまり、全都道府県が温泉文化を世界の無形文化遺産として認めてもらおうと、この運動に関わっているわけだ。

 これまで国会議員や大臣を含めた政府関係者に向けた陳情活動、要望活動を進めるとともに、関係する旅館関係者や学者、温泉愛好家などとも連携しながら、登録に向けて必要な研究や調査活動を進めてきた。

 活動を重ね、温泉文化の定義も決まり、世界に向けユネスコ無形文化遺産候補へ道を開いた。

 ――知事から見た「温泉文化」の魅力について。

 古来、日本には多くの名湯があり、さまざまな逸話も残されている。例えば兵庫県の有馬温泉には「月も日もいのち有馬の湯にうつりやまひ(病)はなしの花とちりけり」という豊臣秀吉の歌が残っている。

 私どもの鳥取県には、左馬之祐(さまのすけ=源義朝の家来・大久保左馬之祐)という人物が白い狼に導かれて温泉を見つけたという三朝温泉の逸話が残っている。

 このような逸話が全国各地に残っている。それは、温泉が古くからわれわれにとってとても大切な存在だったからだろう。

 フィンランドのサウナがユネスコの無形文化遺産に登録されているが、これはその入り方や楽しみ方が文化として、世界の人から認められたからだ。

 日本にも旅館で温泉につかり、浴衣に着替えてごちそうを食べて布団で寝るという文化がある。鳥取県にはぬるめの湯を頭からかぶり、歌を歌いながら延々と湯につかる「湯かむり」という文化がある。

 これらは人々の心と体を癒やす、昔ながらの知恵だったのだろう。これらの素晴らしい文化を世界に広めていきたい。

「温泉文化」ユネスコ無形文化遺産登録を応援する知事の会の会長を務める平井伸治・鳥取県知事
「温泉文化」ユネスコ無形文化遺産登録を応援する知事の会の会長を務める平井伸治・鳥取県知事

 ――温泉文化のユネスコ無形文化遺産登録は、日本の観光にどのような影響をもたらすか。

 近年、インバウンドの観光客が増加し、国も6千万人の目標を掲げて新たな需要を開拓しようとしている。その際に重要となるのはカスタマーだ。

 私が知事に就任した当時、19年前は、外国人観光客に温泉の話をしても、あまり心に響かない感じだった。「温泉に行くと裸にならなければいけない」「浴衣の着方が分からない」「旅館にはベッドがない」などと抵抗感が強かった。しかし、この10年ほどで状況は様変わりした。

 日本に来られた方に「また日本に行くとしたら何をしたいか」と聞くと、約半数の人が「温泉に入りたい」と答える。

 これは、漫画をはじめとした日本のカルチャーがさまざまな媒体で世界に広まる中で、日本人が大好きな温泉につかるという行為も注目され、日本に行ったらぜひ体験したいと思われるようになったからだろう。

 和食が温泉文化に先立ってユネスコの無形文化遺産に登録されたが、あっという間に海外の市場に広がった。同じように、温泉文化がユネスコ登録されれば、その文化を体験したいと、海外の人が日本への旅行を考えるさらなる動機付けになるだろう。

 温泉は全国各地に点在している。現在、有名観光地で「オーバーツーリズム」が叫ばれている中、その魅力の発信は、日本全体にお客さまを分散させる効果がある。

 温泉地に行けば土産物を購入したり、現地の交通機関を使ったりするだろう。温泉文化のユネスコ登録が決まれば、特に地方の経済に大きな影響を及ぼすはずだ。地方の経済を豊かにして日本を強くするという政府の目標は、温泉文化のユネスコ登録が実現してこそ達成するのではないか。

 温泉地の旅館の方々はコロナ禍で大変な苦労をされ、残念ながら廃業せざるを得なくなったり、資本が変わったりする例が各地で見られるようになった。ユネスコ登録が決まり、海外を含めて多くの観光客が訪れるようになれば、長く苦しんできた業界も救われることになるだろう。

 板前さんを確保してお客さまにおいしい料理を提供することや、女将さんを中心としたホスピタリティの提供、温泉設備の維持管理など、旅館経営はさまざまな努力が必要だ。

 鳥取県では令和5年の台風7号で、三朝温泉の「河原風呂」が川の増水により埋没してしまった。皆で力を合わせて復旧に取り組んだが、このように温泉を守り、継承する努力を多くの人が行っている。このような取り組みを多くの人々に知ってもらうためにも温泉文化のユネスコ登録をぜひとも実現させたい。

温泉だけに”スパッ”と決めたい

 ――知事ご自身の温泉地や温泉旅館での印象に残った出来事やエピソードを。

 現在の私と同じくらいの年齢で父親が他界した。病気を抱えていて、家でじっとしていなければならなかったのだが、亡くなる前に私ら子供、孫など家族を集めて、どうしても温泉に行きたいと言った。「無理しなくてもいいのでは」と当時、話したのだが、父の言葉に素直に従って、みんなで箱根に行った。父は私たちに食事をごちそうしてくれたり、孫にお土産を買ってあげたりした。それが最後の思い出となった。

 みんなで集まり、大切な思い出を作るなら温泉、ということが私たち日本人の意識にあるのだろう。今でも温泉の湯煙の中に父の姿を見るような気がする。

 最近ではコロナ禍の時期、県内の温泉地に伺った時のことが心に残っている。私は感染を抑えるための啓発をする立場だったが、皆さんが歯を食いしばって旅館やホテルを守っておられる中、夫婦で2カ月に1回くらい県内の温泉地をプライベートで訪問していた。

 宿泊客がほとんどいない状況の中、旅館の方々からさまざまな話を聞くことができた。「社員教育に力を入れる」「外国のお客さまも使いやすいベッド付きの部屋を作る」など、さまざまな前向きなお話を聞き、実際にそれ以降、県内の宿泊施設は大きく変わった。今、コロナ禍から立ち直った温泉地を見るにつけ、当時のことが思い出される。

 ――温泉文化の継承に努める旅館など事業者にエール、メッセージを。

 大変な時期を乗り切り、今、徐々に本来のペースを取り戻しておられると思う。われわれ47人の知事も皆さまに寄り添う気持ちで、この温泉文化のユネスコ無形文化遺産登録を実現させたい。

 群馬県の山本知事とともに、大阪・関西万博会場で行われた全旅連(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会)青年部主催の「宿フェス」に伺った。温泉旅館の若旦那や若女将らの若手経営者や現場の最前線で働く人々が、各都道府県の観光地や温泉地の魅力をアピールされていた。国内外からの来場者が心を引かれ、会場は終日大にぎわいだった。

 会場では温泉旅館の若い方々でユネスコ登録に向けた「万博宣言」で雄たけびをあげた。登録を目指し、さらにレベルを上げていこう、日本の温泉地と世界の距離を縮めていこうとアピールしたところだ。

 登録に向けて、今が正念場。温泉だけに“スパッ”と決めたいと思う。

「温泉文化」と鳥取県の温泉のポスターをバックに
「温泉文化」と鳥取県の温泉のポスターをバックに

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