旅行業大手4社トップの各氏
新時代の経営を地域と共に推進
新しい年、2026年の幕開け。今年1年は旅行業界にとってどのような年になるだろうか。国内旅行は万博のような国際イベントの開催や大型テーマパークの開園など、大きな話題には乏しいが、大規模な自然災害やアクシデントさえなければ堅調に推移することが予想される。本紙恒例の新春旅行業大手4社トップ座談会では、今年の業界展望とともに、旅行業の新たな価値創造に向けた取り組み、ビジネスパートナーである旅館・ホテルとの関係について語っていただいた。(東京・紀尾井町「福田家」で)
出席者(順不同)
・JTB社長 山北 栄二郎 氏
・KNT-CTホールディングス社長 小山 佳延 氏
・日本旅行社長 吉田 圭吾 氏
・東武トップツアーズ社長 百木田 康二 氏
2025年を振り返る
――(司会)2025年の回顧。インバウンドが過去最高を記録する見通しの一方、オーバーツーリズム、人手不足、諸物価高騰、災害からの復興など、課題も山積している。国内旅行を中心に、昨年の旅行業界と御社の取り組みの振り返りを。
山北 前回の座談会では久しぶりに通常期に戻ったとコメントした。25年はもう少し伸びるかと期待したが、少し足踏みした感じだ。
ただ、イベントなどさまざまなことがあり、新しいビジネスの創出など流れを変える動きがあった。私どもで言えば、メジャーリーグベースボールのオフィシャルパートナーの権利取得が挙げられる。法人需要は比較的活発で、これまでのインセンティブ的なものから、サステナビリティなどテーマ型が増えた。
国内旅行は全体的に、個人消費が少し伸び悩んだが、一方で、法人で新しいビジネスを創出できた1年だった。
インバウンドについても言及せねばならない。グラフを見て改めて思うが、劇的に増えている。20~22年とほぼない状況から、24年に3600万人まで急激に増えてきたが、いろいろなところで、ある意味ひずみも作っている。一つは価格。東京、大阪、京都を中心にホテルの価格が大幅に上昇し、これが国内旅行の動向に影響しているとみている。
もう一つは集中が進み、地域によるインバウンド受け入れの格差が広がったこと。大阪・関西万博については、当初は批判的な意見も少なくなかったが、スタートしてからムーブメントが転換した。人々が活発に動き、消費動向や時間の過ごし方も変化が見られた。ただ、これをきっかけにインバウンドをもっと全国に広げたかったのだが、今一つ実現しきれなかった点が反省点としてあげられる。それでも、日本の新たな一面を提示できた意味では、非常に大きな成果があったと思っている。

JTBの山北栄二郎社長
――大阪・関西万博については、インバウンドとともに、国内のお客さんももっと周辺に呼び込もうという動きがあったが、課題が残ったようだ。
山北 大阪に集中したことは事実であり、オーバーツーリズムの問題も指摘されているが、例えば瀬戸内などで、国内の人に向けての商品開発がかなり進展したのではないか。今後につながると思う。
小山 山北社長のお話の通りで、国内旅行でいうと、大阪・関西万博のプラス効果。さらに、新しいテーマパーク「ジャングリア」が沖縄にオープンしたという明るい話題があった。
一方で、宿泊料金の高騰は、国内のお客さまにとっては残念ながらマイナスだった。
世界的な物価高の中、海外旅行も含めて顧客の二極化が鮮明になった年ではないか。価格が上がっても積極的に旅行に出掛ける層と、ついていけない層がはっきりした。ここが国内マーケットでは大きな課題と言える。
国内ではまた、温暖化の影響なのか、夏の酷暑によるお客さまの出控え。そしてクマの問題がわれわれにとっても大きな問題になっている。紅葉のツアーに参加するお客さまが大幅に減少した。地域住民の方が被害を受けているが、旅行者に被害が及ぶ事態になると、お客さまの移動に対する考え方がかなりマイナスになるのではないかと危惧している。これは新たな問題だと認識しており、安心して旅行をいただけるよう、現地の受け入れ側として、しっかりとした安全対策を講じていくことが不可欠だ。
被災地の能登については、継続的な支援をしっかりとやっていかねばならない。われわれも一生懸懸命ツアーを作り、お客さまを送っているが、今後、和倉温泉の宿泊施設が本格的な復興のタイミングになる。大きな被害を受けたということを忘れずに支援を続けていきたい。
また、当社は創立70周年を迎え、記念ツアーの販売や記念イベントで大いに盛り上がった。
訪日については、夏の一時期、日本で大きな災害が起きるという根拠のない風評で中華圏の人が旅行を控えるという動きがあったが、全体的には円安を背景に順調に増えていった。当社は世界陸上財団とスポンサーシップ契約をし、それに関わる外国人客の取り扱いもあり、この部分については非常に良かった。
ただ、足元では、中国からのお客さまが減るという事態も発生している。これはそう簡単には解決しない問題だと思うので、他国へのシフト等、長い目でしっかりと見ていかなければならない。

KNT-CTホールディングスの小山佳延社長
吉田 業界全体で印象に残っているのは、インバウンドでいうと、先ほど小山社長がお話しされた7月の災害予言による訪日の減少。そして中国による訪日の自粛要請。コロナが収束し、ほぼ平常通りのマーケットになり、客数が回復しているものの、地政学的なリスクが多少なりとも影響を与えていると考える。
やはり中心となるのは日本人のマーケットだ。われわれとしてもインバウンドは重視するが、ベースとなる日本人マーケットを大切にしなければいけないと感じている。
25年が創業120周年で、同じ年に大阪・関西万博が開催された。実は創業100周年の時は愛知万博が開催され、大きなイベントの時に偶然にもわれわれは一つの区切りを迎えている。
昨年は周年を記念して、さまざまな企画商品を造成したり、創業者の南新助をテーマにした小説を刊行したりするなどして、社員をはじめお客さまや関係者に対し、日本旅行という会社の価値や存在感を高めることに取り組んだ。会社の経営理念を改定し、新たな「日本旅行グループ理念」を策定したことも、一連の取り組み。
代表的な120周年記念商品としては関西発長野行きの団体臨時列車による善光寺参りという、創業当時の旅行を現代風に復刻するツアーを行った。対照的に、宇宙旅行事業の具体的な取り組みも将来に向けて発表したことも記憶に新しい。
会社としては創業を見つめ直し、同時に将来にも向き合った、そんな1年だったと振り返る。

日本旅行の吉田圭吾社長
百木田 マーケットについては皆さんがおっしゃる通りで、国内旅行そのものは堅調だったのではないか。
ただ宿泊を見ると、数は増えておらず、価格が高騰している分、売り上げが増えているという状況だ。
インバウンドは皆さんおっしゃるように大幅に増え、局地的にはオーバーツーリズムの問題を引き起こしている。海外旅行はなかなかコロナ前の水準に回復できない。大きく見るとこんな感じではないか。
小山社長がおっしゃる通り、国内は堅調ではあるものの、間違いなく二極化している。若い層も年配の層も、積極的に旅行に行く層と、行かない層がはっきりと両極化している。この理由はなぜかと考えると、旅行をする層の目的意識がはっきりしてきていることに起因していると思う。目的がはっきりしていれば動くが、なければ全く動かない。これがアンケート調査でもはっきりと分かった。
修学旅行は、27年商戦の話になるが、目的地について、京都を避ける傾向が発生している。東京都内の学校では、4割ぐらいを違う地域に誘導せざるを得ない状況だ。インバウンドが多く来ている影響で行程通りに実施することが難しくなっていることや、旅館・ホテル、バス代の上昇が要因で、昨年から顕著になっている。東北や北陸に誘導しているが、新たに、クマの問題が出てきた。クマ対策が今後の修学旅行の動きにも大きく影響してくる。
当社の取り組みで特筆すべきは、やはり万博。開幕千日前に「ミャクミャク」がお披露目された時はシーンとなって、「なんだこの生き物は」という反応だったが(笑い)、最後はグッズが容易に買えないほどの人気になった。私も仕事で7回行ったが、一つ一つのパビリオンが趣向を凝らしたもので面白いし、国家イベントとしてその意義を示せたと思う。
弊社はその中でパーク&ライド事業でシャトルバスの運行を担当したり、自治体からの委託を受け、大阪府・市の子ども万博招待事業や、能登半島地域の子ども大阪観光招待事業に携わった。これはわれわれ社員にとっても誇りが持てる仕事だった。学生団体を含めて、お客さまが円滑に動けるような運行管理業務に従事したことも大きかった。
災害が多い日本という中で、災害時の宿泊・輸送調達に関する内容を含む協定を24自治体と締結した。これは、旅行会社が自治体にさらに深く関わることへの一つの試金石だ。
自治体に向けては、NFTを活用した地域にお金が落ちる仕組みづくりも複数の地域で広がり、定着してきた。

東武トップツアーズの百木田康二社長
2026年の展望
――26年の展望。旅行業界にとってどのような年になるか。御社の取り組みとともにお聞きしたい。
小山 万博ほど大きなイベントはないが、今の流れの良いところは続くと見ている。
当社にとっては、KNT(近畿日本ツーリスト)とCT(クラブツーリズム)という二つの看板があり、そのシナジー効果の最大化に取り組む変革の年だと認識し、現場にもはっぱをかけている。
中期経営計画で、個人旅行についてはCTを軸にKNTと一体的運営をすることを掲げており、それを製販ともに具体化する年になる。目的が明確なテーマ旅行の販売が既にコロナ前を超えている。総花的な価格訴求型よりも目的型のニーズの方が増えており、この流れを個人旅行全体に波及させたい。
団体旅行は元々の強みである教育旅行、法人、スポーツに加え、成長領域である訪日、グローバル、地域共創に力を入れる。営業は短期的な目線で仕事をしがちだが、時代の変化が激しい今は、中長期的な目線に変えることが重要だ。特に訪日については、早期に30カ所程度のグローバルネットワークをつくり、海外から日本への顧客の流れを作っていきたい。
先ほども申し上げた能登については、業界の中で露出度が少し減っている感じがするので、本当にお世話になった地域であり、しっかりと中長期的にバックアップをしていかねばならない。
吉田 昨年との比較であれば当然大阪では万博開催の反動が想定される。ただ、国内旅行全般では大きな減少にはならないと見ている。われわれはアフター万博の取り組みを含めて、国内旅行全体を盛り上げていきたい。親会社のJR西日本も「動け、好奇心」というキャンペーンを展開し、万博後の国内旅行を盛り上げているところだ。
インバウンドについては、価格に関する調整を丁寧に行う必要があることと、OTAでさまざまな問題が起きたが、われわれとしてはお客さまへの安心・安全を基本に置くことを念頭に、さらなる拡大を図っていきたい。
インバウンドに注力しつつも、どうしても国際情勢に関わるリスクがあるので、そこに左右されないような地盤づくり、リスクの分散をしっかり行っていきたい。ベースはやはり国内、日本人の旅行だと考えているので、そこを大きく活性化させる仕掛けづくりをメインに行いたい。
百木田 企業の需要が非常に強い。昨年がそうだし、今年も多分続くだろう。個人の動きもあるが、企業の動きはさらに活発化するのではと期待している。
その中で、われわれの得意分野であるインセンティブ、報奨旅行については、だいぶ形が変わってきている。一般的な団体旅行のようなものから、2名のような少人数を対象とした旅行。際立った報奨を提供するような形に変わってきている。依然として需要が強く、非常に期待が持てる。
業界内の人手不足はさらに厳しくなるとみている。今まで対応できていたことができなくなる。しかし、それは逆にわれわれのチャンスだとも思っている。OTAではできない、われわれリアルエージェントの強みをいかに発揮するか。
リアルエージェントのインバウンドの全取扱額は2千億円強で、訪日旅行消費額全体の2・6%程度に過ぎない。その肥沃(ひよく)なマーケットをリアルエージェントならではの強みをもってさらに獲得していく。今年はある意味チャンスだと考えている。
当社の取り組みとしては、25年が東武トラベルとトップツアーの2社が合併して10周年だったが、26年は前身の会社が創業して70周年に当たる。その先の100年を目指すという意識へ社員みんながベクトルを合わせて、なりわいである旅行業の基盤をどう強化し、さらに旅行業から派生する事業をどれだけ取り込むか。今年はそんな1年になる。
2月に開催されるミラノ・コルティナ冬季五輪と、9~10月の愛知・名古屋でのアジア競技大会、アジアパラ大会の輸送業務を当社が受託している。これについても派生するビジネスをどこまで取り込めるか。
昨年始めた愛犬と泊まれる施設「プライベートヴィラ」の直接運営は現在日光で行っているが、稼働率と単価が高く、今年は東武動物公園の近隣と那須でオープンする。
地域に裨益(ひえき)する取り組みは、先行するNFTに続き、地域独自のトークンを使い、その地域にのみ裨益できる仕組みがつくれないかと現在ビジネスパートナーと協議しており、今年本格化する見通しだ。
AIもかなり浸透するのではないか。後方業務の省力化とあわせ営業管理や見込みの自動化など、業務の効率化にどれだけ活用できるか。会社の生産性を高める上で大きなウエートを占めていくだろう。
山北 皆さんおっしゃるように、26年は基本的に明るい年になると考えている。需要は引き続き旺盛だろう。ただ、会社全体で見ると、海外旅行のさらなる復活が不可欠だ。ムーブメントをいかに創出できるかが復活への一つの重要な鍵となる。
国内に目を向けると、イベントとしては先ほども話に上ったアジア競技大会がある。旅行の取り扱いにとどまらず、中部圏で大きなムーブメントが起きれば、セントレア(中部国際空港)のフライトが復活し、インバウンド、アウトバウンド双方に大きな影響が表れる。アジア競技大会を起点とした中部圏の復活が今年の大きなテーマの一つだ。
25年は地域間格差が顕著だったが、その格差の解消へ、お客さまをいかに多くの地域へ誘導するかも今年の大きなテーマだ。インバウンドでいえば、東北地方や三重県、福井県以西の山陰エリアなど。アウトバウンドの視点では、東北はパスポートの取得率も低い状況だ。この格差解消に取り組むことが、オーバーツーリズムの解消においても重要だと考えている。
従ってわれわれとしては、地域の観光開発にさらに力を入れたい。
26年はさまざまな面において転換点だと思う。一つは先ほど話題に上ったAI。旅行業の低い生産性をいかに高めるかという観点から、AIをどこまで事業に取り込めるか、勝負の年になるだろう。
われわれの付加価値を高めるためにもAIは不可欠だ。これまでに蓄積されたお客さまデータを最大限活用することがわれわれの付加価値につながると認識しており、将来に向けて取り組むべき喫緊の課題だ。
業界においてサプライヤーの直販化がこれからも進むと考える時、われわれは単なる仲介業者であっては生き残ることはできない。業界全体で真剣に考えるべき課題だろう。
もう一つはコンテンツ。先ほどお話ししたメジャーリーグに限らず、エンターテイメントなど、さまざまなコンテンツの権利を業界として保有していく必要があると考えている。そうでなければ旅行会社が関与する余地が次第に減少し、旅行に付加価値を付与することも難しくなる。

座談会の様子
市場の変化にどう対応
――業界を取り巻く環境が激変する中で、旅行業の存在価値が問われている。それぞれの考えをお聞きしたい。
吉田 26年に始まる当社の中期経営計画の大きなテーマがまさにこれだ。観光のマーケットそのものは明るいが、皆さんおっしゃるようにAIが出現し、WEBによるサービスの普及でサプライヤーの皆さまの直接的な販売やOTAの存在も含めて、われわれ旅行会社が関与する部分がかなり減るのではないかという大きな危機感が大前提としてある。われわれの存在価値をどう高めるかがこれからの一番大きなテーマだ。
地域との強固な関係をつくることが一つのポイントだ。地域の魅力を発掘、再発見し、それをコンテンツに商品開発をしてお客さまにしっかりと伝えること。
われわれは各地からお客さまを送る発の機能とともに、地域において地域とともに商品開発をする着の機能を持つ。地域の発展に総合的に貢献することがこれからも大きなテーマとなる。
AIが発展すると、後方業務はさることながら、前線業務でも利用機会が増えるだろう。現在行っている人的サービスが一部AIに置き換わると、先ほど述べた地域との関係構築に多くの人的資源を使うことが可能になる。
例えば、災害時の情報管理にデジタルを活用すべきとの声があるが、本当の危機の時は使えなくなることがある。その時は人的サービスが必要となるわけだが、その際にわれわれがしっかりコミットできるように、準備をすることでもわれわれの存在価値を高められるだろう。
百木田 観光が地方創生の切り札であることは間違いない。これだけ人口が減り、高齢化する中で、地域がどうやって生きていくかを考えると、やはり観光のお客さまを呼び込むことが大事だ。
ただ、山北社長も指摘したが、この業界は生産性が低すぎる。日本全体でもOECD加盟国の中で変わらず低位を脱却できていない。もっと業界全体で、ステータスを上げていかねばならない。
そのためには、付加価値のある商品をしっかりとした値段で売ること。商品に自信を持つことが大事だ。安いものがあってもいいが、われわれが十分に利益を取れるものを作る。そういうものが主軸となっていかねばならない。
インバウンドの商談会で各地のDMOやDMCが売り込みをするが、外国の旅行社が求めているのは単なる観光地の魅力でなく、行程表や企画書も含めてオールインクルーシブで提供してくれるサービスだ。それこそがまさに旅行会社の役割であり、存在価値だ。
十分に利益を取り、それを社員に還元する。もっと言うと、そこで働く人たちが、周りからうらやましがられるような報酬やステータスを得られるようにする。それがひいては旅行業の価値や魅力になっていくのではないか。そういう姿を目指して、社員とともに考えながら動いていきたい。

山北 私どもは、自身を交流創造事業と申し上げているが、社会課題のソリューションを提供する事業体であるべきだと考えている。
旅そのものが、これからの時代のさまざまな社会課題を解決する切り札になると確信している。人間のウェルビーイングの実現、相互理解を通じた世界平和の実現、そして経済成長。ツーリズムは世界のGDPの10%を占めているが、これからさらに伸びていくだろう。
しかしながら、現状では日本の基幹産業として必ずしも認識されておらず、さまざまな統計で用いられる産業分類においてもわれわれ旅行業が産業として十分に認知されていない。
ツーリズムの基幹産業化を日本でも推進していかねばならないと強く感じている。そしてそれは、われわれ旅行会社がけん引していかねばならない。ツーリズムの基幹産業化は、結果的に日本の国力を高めることにつながる。
付加価値を生み出すために、AIを積極的に活用すべきだ。自社の事業効率を高めることはもちろん、共創という意味でも非常に有効だ。
例えば、予約というプロセスはどの会社も莫大な費用と手間をかけてシステムを構築しているが、それ自体は直接的な付加価値を生み出してない。この部分をAIで共通化し、各社は商品造成やサービス提供の場面で付加価値を付けるよう努力する。
そしてガバナンスを真剣に考える必要がある。アカウンタブルな(責任を持つべき)産業であるべきだが、コンプライアンスの面も含めて、今まで必ずしも十分に確立されていたわけではなかった。
今、監査のプロセスにAIを導入しようとしている。われわれは人間の力で動く産業であり、AIの導入は難しいと考えていたが、そうではなさそうだ。このような取り組みを他の産業に先駆けて行うことで、われわれの存在価値も一層高まるのではないか。
小山 「総合旅行業」と呼ばれるのが個人的に嫌だ。「何でも屋さん」というか、それぞれに強みがある上では良いのだが、総花的に棚に商品が並んでいるだけでは、これから成り立たないのではないか。
インターネットの時代は、強みの分野がヒットしやすく、品ぞろえがあるというだけではもはや強みではない。「総合」いう横並びの時代から、各社が「うちの強みはこれだ」という特徴を出して、多様化、複雑化するマーケットニーズの受け皿になることが求められる時代になるだろう。
その中で、旅行業(リアルエージェント)の存在価値は何かと考えた時、私は「ホスピタリティ」だと思う。旅行業はホスピタリティ産業だ。ホスピタリティを発揮できる領域は旅行だけでなく、旅行以外も含まれ、意外と広い。そう考えずに、今までの旅行業の枠に縛られていてはこれ以上成長できない。
また、常々思っているのが、旅行業は女性との親和性が高い業種であること。KNTの全社表彰で「ルーキー賞」というものがあるが、受賞者のほとんどが女性だ。
ただ半面、女性が過半数を超えている職場にも関わらず、社内における女性の管理職の比率がまだ低い。性差に関係なく誰もが活躍できるような仕事の形態、ワークライフバランスをしっかり整備することが、女性の活躍の場を広げることにつながる。
AIについては、業務の効率化にとどめずに、利益をどう上げるかというところまで持っていかねばならない。そのためのデータは集積しているが、AIでどうアウトプットするかだ。

新たな事業展開は
――コロナ禍を契機に、地方創生など旅行業以外の事業に注力する動きも目立っている。御社が今後、重点的に取り組む事業について。
百木田 まさしくこの話はコロナ禍から始まっているが、われわれ旅行業は先ほど小山社長が指摘されたホスピタリティに加えて、コーディネートする力が備わっている。それがあったからこそワクチン接種のような感染症対策事業に関わることができた。
これだけ人口が減っている中で、地域にいかに人に来てもらい、お金を落としてもらうかという仕組みの落とし込みと、われわれがどうやって収益を上げるか。この二つが大事だ。
定住人口は簡単には増えないから、交流人口か関係人口を増やすしかない。その仕組みをわれわれが地域の人たちと一緒につくり上げることがこれからの事業の柱の一つになる。
当社グループの沿線である奥日光も課題を抱えている地域のひとつだ。脱炭素の先行地域で再生エネルギーやEV、自動運転バスなどの次世代モビリティの社会実装を通じた観光地形成を進めているが、まだ効果が発揮できておらず、携わる人材も圧倒的に不足している。インバウンド向けの高付加価値のコンテンツもまだ未成熟だ。繁忙期と閑散期の差が大きいという問題もある。
こうした課題に対し、われわれが総合的に関わり、地域を一緒につくり上げていく。同様の問題を抱える地域がほかにもある。一つの成功事例ができれば、横展開ができる。地域を助けるというより、日本全体のボトムアップのために、われわれの力が社会に絶対必要だということを知らしめる意味でも、旅行業を核としながら、そこから派生する事業に取り組み、地域それぞれの課題を解決していくことが必要だ。
山北 地域が事業創出の一つのキーワードであることは間違いない。地域とともに地域をつくる、というのはまさしくその通りで、地域と連携なくしては開発は不可能であり、われわれの出番があると思う。
人を呼び込むには、広くエリア単位で考える必要がある。日本では、それぞれの市町村が自地域への誘客に一生懸命取り組んでいるが、旅する側からすれば、そこに訪れる必然性がなければ足を運ぶことはない。
しかし、スペインのバスク地方のように、エリア全体がガストロノミーで成り立っているとなれば、そのエリアを訪れ、ビルバオなど、中の都市を巡るという流れが生まれる。このようなエリア開発をわれわれは推進したい。これを単独で行うことは困難なのでテクノロジーの力、そしてマーケティングの力を借りて行う。われわれは米国の観光BtoBメディア大手のノーススター・トラベル・グループを買収した。ここからデータを取るつもりはないが、世界中の観光に関わる課題について解決策を考えており、得られる知見はたくさんある。
地域とともに、全てのステークホルダーに対してソリューション型で向き合わなければならない。ロジ(輸送)を手配するだけではなく、さまざまな付加価値を付けていかねばならない。
小山 10月に高山市と連携協定を結んだ。目的は観光振興、地域産業の活性化、地域課題の解決だ。観光振興はわれわれも取り組んでいるが、地域産業については、農業、漁業、林業など第1次産業の話になる。その分野にわれわれ旅行会社が入っていく時代になった。誘客事業だけでは地域課題は解決できない。相当ハードルが上がっている。
そこで当社は、東京などからの遠隔ではなく、地域に寄り添って活動しようと、いくつかのエリアでDMCを作ろうとしている。地域コミュニティに入り、地域が抱える課題に寄り添って、最終的にはビジネスに昇華させる取り組みにチャレンジしていこうと思う。
旅行以外の取り組みでは、ロサンゼルスで日本米を使ったおにぎりの専門店を運営している。単におにぎりを販売するのではなく、日本の農業(日本米)の応援、日本文化の海外発信という目的がある。このほかまだ事業化できていないが、地域に眠る日本の伝統工芸品を越境ECで海外に発信、販売するなど、観光以外の分野でどう地域に貢献できるか、さまざまなアイデアを出して挑戦をしているところだ。これらの取り組みも地域共創の一つだと思っている。
吉田 皆さんがおっしゃるように地域というものがベースになるが、ただ誘客する、活性化するという今までの感覚では低生産性から抜け出せない。
われわれとしては、仲介業からどう脱していくのかを真剣に考えなければならない。仲介業から脱却するには何かを所有しなければならない。何を所有するのか、ということを今、真剣に検討している。
一つはわれわれが既に所有している「人」。昨年、当社は特定技能制度の登録支援機関に登録した。これにより特定技能人材のお世話をできるようになった。さらに有料職業紹介事業の認可も受け、特定技能人材の宿泊業などへの紹介も可能となった。
もう一つはコンテンツ。例えばアニメツーリズムは、これまではアニメ会社と協力して行っていたが、それでは仲介業の域を出ない。出来上がったアニメではなく、アニメの製作段階から関与するくらいでなければ、本当の意味で仲介業から脱却できない。今までとは違う方法を、現在、試行錯誤しているところだ。
旅館・ホテルとの関係
――本紙の主な読者である旅館・ホテルについて。どのような存在と捉えているか。協定旅館ホテル連盟のあるべき姿や、今後、どのような姿勢で向き合っていくべきかなどをお聞きしたい。
山北 当社の場合はJTB協定旅館ホテル連盟になるが、極めて重要なパートナーだと考えている。
かつては旅行会社が送客をするという関係だったが、戦略的パートナーシップ協定を結び、さまざまな地域の課題に一緒になって取り組んでいる。旅行会社に期待することは多くの送客だと思うが、これらの活動を通して、お互いがパートナーだという意識がだいぶ定着してきたと感じている。
旅ホ連の会員の方々は地域の中でもキーとなるポジションにいらっしゃる方が多く、また地域づくりをする上で旅館・ホテルが核になることは間違いない。共に地域の未来を考えることをこれからも進めたい。
小山 当社は宿泊に加えて運輸、観光施設の皆さまも会員のKNT―CTパートナーズ会という組織だが、昨年のこの座談会でもお話しした通り、切っても切れない本当に重要なパートナーだ。
ただ、今の経営者の皆さんは、われわれリアルエージェントが良い時代からお付き合いをいただいている方々だ。OTAがない時代で、われわれが主なチャネルとして皆さまとウィンウィンの関係を構築できた。しかし、リアルエージェントの立ち位置が変わってきた今、経営者の皆さまとは過去の財産でお付き合いをさせていただいているが、次の若い世代とどうお付き合いをするか。昔ながらのお付き合いというだけでは相当厳しい。われわれも本当の意味で経営の視点を持って付き合っていかないと、「うちはOTAがあるからいいです」「直販があるからいいです」と言われかねない。
インバウンドの地域誘致や地域共創などの部分で、次の世代の人たちとタッグを組んで未来志向の関係構築を図らねばならないと考えている。
吉田 全国の各地域における、最も重要なパートナーだと認識している。私どもは日旅連(日本旅行協定旅館ホテル連盟)という組織で、これまでさまざまな形で連携してきた。究極の目的はいかに送客に結び付けるかで、それをどう実現するかを日々考えながらわれわれも取り組んでいる。
旅館・ホテルの方々からすれば、連盟に入っている意味がどこにあるのか、という疑問をお持ちになるかもしれない。日旅連に加盟してどんなメリットがあるのか、ということを、これからもより、追求していかねばならない。それが見いだせないということであれば、そうした組織のあり方自体、考えなければならない。旅館・ホテルさん、施設さんが望む姿と、われわれが考える姿が一部乖離(かいり)しているのではないかという懸念もあり、そのギャップを埋めていきたいと考えているのが現状だ。
百木田 われわれは旅ホ連(東武トップツアーズ協定旅館ホテル連盟)と運観連(東武トップツアーズ協定運輸観光施設連盟)の二つの組織がある。われわれにとって、なくてはならない存在であることは皆さんと同じだ。この10年間、会員の皆さまとともに継続して事業に取り組んできた。主に活動の内容としては、連盟事業の三種の神器といわれる「キャラバン」「商談会」「現地社員研修」であるが、これも時代の流れに合わせた変革が必要だ。
現在、春と秋、東日本と西日本で連盟の若手経営者とわれわれ会社の幹部が懇談する会を設けている。そこでは先ほど小山社長がお話しされたような話も出てくるが、一方で従来のリアルエージェントも重視しなければならないという話も出てくる。
口コミで書かれたものに対して、それを改善することに意識をしすぎると、自分たち本来の良さや強みが発揮できなかったり、エッジの効いた取り組みができなくなったりする。そんな怖さがあるという話を聞いた。そのような悩みを聞いて、共に解決策を見いだすこともわれわれの務めではないかと感じている。
会社10年の節目に、二つの連盟の会長とともに、これからの10年をどうするかを考える検討会を立ち上げた。皆さんおっしゃるように、会社と連盟が共に作り上げるような事業がたくさん考えられる。お客さまを送る、送られるという関係だけではなく、共に事業や顧客を作っていく「共創と創客」の関係になっていかねばならない。
各社の連盟の地域会合にそれぞれ出席することが、会員の皆さまにとって相当な負荷になっているという声も聞く。われわれの立場からすれば、各社それぞれ色があるので独自の事業に取り込みたいという思いはあるが、もうそんな時代ではないのではないか。連携して、一緒にできることはして、会員の皆さまの負荷を軽くすることも考えていかねばならない。
社長のプライベート
――社長のプライベートについて。最近のマイブームやお気に入りの場所、旅先でのエピソードなどがあれば。
小山 猫を2匹飼っていて、これが今のマイブーム。本当によく懐いている。
旅先で猫グッズを買うのが楽しみになっている。9月にソウルに行った時、妻が猫グッズを売っている店を調べてそこに行ったのだが、家の猫にそっくりの絵があって、思わず購入した。
――猫種は。
小山 エキゾチックショートヘアー。顔がぺちゃんこで判子みたいな。
一同 (笑い)。
小山 5歳と6歳。1匹はコロナ前、2匹目はコロナ禍の最中に引き受けて。毎日癒やされている。
吉田 どちらかというと体を動かすことが多い。コロナ前からランニングを始めた。体重が増えて、ちょっと走ってみようかなと思ったら意外にはまって。フルマラソンや100キロマラソンにも出た。ただ、コロナ禍でレースがなくなり、これがきっかけで最近はあまり走れていない。
もう一つがソロキャンプ。これにもはまって、いろんなキャンプグッズを買いあさった。でも、これも最近のクマのせいでなかなか行けなくなっている。今はゴルフを唯一、継続してやっている。
百木田 この時期のスポーツ観戦は相変わらずだが、加えて最近、地域独特の文化、例えば「横丁文化」に興味を持っている。最近八戸を訪問した際、八つの横丁に全部行った。メニューにない料理が出たり、お酒も料理もおいしい。けれど決して高くない。むしろ安すぎるくらいだ。
そうした日本の文化や歴史を感じられる、まだあまり知られていない場所に行くことに最近、喜びを感じている。
同業のエージェントの人が、各地の安くておいしい店を知っていて、最近よく聞いてメモをしている。これはハズレがない。
山北 一時、ジムにはまっていたが、最近なかなか行けなくなり、今はメジャーリーグベースボールの観戦。選手をだいぶ覚えた。
元々ドラマを観るのが好きで、撮りだめしたドラマをよく見ている。最近は中国ドラマを見ており、「三国志」は歴史がよく分かって面白い。
旅行でいうと、昨年はカナダのイエローナイフで夏のオーロラを見た。あとはサウジアラビア。街が劇的に進化していて、カルチャーショックを受けた。テーマパークの作り込み方、お金のかけ方が半端ない。お酒が飲めないところだが、コーヒーショップでメニューを見たら、いろんなカクテルの名前が書いてある。飲んでみるとやはりアルコールが入っていない。1週間ぐらい滞在したが、何となくデトックスした気分になった。
一同 (笑い)。




