【ちょっとよろしいですか 171】「温泉文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されることへの期待 山崎まゆみ


 新年あけましておめでとうございます。

 本年も皆さんに伴走できるような連載にしたく、しっかりと取り組んでまいります。

 昨年、「温泉文化」の国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)無形文化遺産登録が一歩前進しました。国の文化審議会で提案候補に選ばれ、2028年の「神楽」に続いて30年に登録が審査・決定される見通しとなりました。

 関係者の皆さまのご尽力によるものであり、本当にありがとうございます。

 一報を受けた時の私の喜びたるや―小躍りしました。

 私が日本の「温泉文化」の尊さに気付いたのは02年ごろから。ちょうど世界へ向けた温泉取材を始めた時でした。私はまだ若く、「世界の温泉を制覇するぞ!」と握りこぶしを挙げて勢いよく旅していたのですが、それは世界の温泉事情のみならず、意外なほどに日本固有の「温泉文化」の価値を知る経験になりました。

 世界の温泉取材のスタートは01年の台湾への訪問。その後は韓国、中国、北朝鮮、タイ、インドネシア、ベトナムなどを回りました。こうしてアジア各国を訪れると、先の大戦中に日本兵が立ち寄った場所で温泉があれば、兵士が入っていたという事実を知りました。

 その延長として、パプアニューギニアのラバウルで湧いている温泉を日本兵が花吹温泉、宇奈月温泉と名付け、通称・温泉遊撃隊が温泉に漬かりながら戦ったという史実を深く掘り下げて、『ラバウル温泉遊撃隊』(09年新潮社)を書きました。

 世界の温泉事情を知る旅でありながら、日本人の足跡を訪ねることにもなり、同時に日本の温泉を羨望(せんぼう)の眼差しで見つめる現地の人ともたくさん出会いました。

 アジア各国では「日本のジャーナリストが来た。ぜひ日本の温泉宿や施設について教えてほしい」とアドバイスを求められたり、「日本の施設をここに作りたい」と相談を受けたこともありました。その様子から、世界の温泉を旅する際には、クリアファイルに日本の温泉風景、例えば雪見露天風呂、日本家屋の宿、着物姿の女将、夕食、朝食、そして温泉街などの写真を入れて持ち歩きました。それらを「ほしい」というので、いつしか渡すようになると、毎回の旅で瞬く間にクリアファイルが空になったのです。

 私自身も、「温泉文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されるであろう30年に向けて、世界の温泉事情を取材してきた経験知を基に、日本の「温泉文化」を体系化し、文化的側面を考察していくつもりです。

 さて登録されたら、どのような効果が期待できるでしょうか。

 先例として真っ先に思い浮かぶのが、和食を目当てに世界から日本に来て、高価格帯の消費をしていく富裕層のフーディーズです。13年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されて10年以上が経過し、確実な経済効果となっています。 

 他にも、日本の食材の輸出額が顕著に伸びています(13年5505億円↓23年11月時点で1兆2775億円と2.3倍超)。

 海外における日本食レストラン数も同様です(13年約5.5万店↓23年時点で約18.7万店と3.4倍)。

 「温泉文化」のユネスコ登録が実現したならば、温泉地や温泉宿に同様の経済効果やグローバル化が起きるのではないかと、私は大きく期待しているのです。

 世界から「温泉文化」をリスペクトする気持ちで温泉宿を訪れてくれるでしょう。収益を上げるチャンスであると同時に、世界から狙われる可能性も高い。

 次回は、これから私たちは何をしていくべきなのか―その点について私の見解を述べます。

    =温泉エッセイスト

 
 
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