前回までのコラムでは、官民連携に関心を持つ事業者が、どこから情報を得て、どのように行政と関係を築いていけばよいのか、その入り口を整理してきた。今回コラムでは、実際に事業化を判断し、提案として形にしていく段階で何が問われるのかを述べたい。
次にポイントとなるのが事業性の見極めである。ここで重要なのは、最初から精緻な事業計画をつくることではない。需要の見立てや初期投資、資金調達、投資回収期間の概要を整理し、自社が許容できるリスクなのか確認することに意味がある。同じ施設でも、指定管理か、DBOやBTOか、あるいはコンセッションかによって、収益構造、責任範囲は大きく変わる。運営の自由度が高まるほど負担やリスクも増すため、メリット、デメリットを比較して、事業手法を決めることが参入判断の核心となる。
この段階で陥りやすいのが、自社だけで答えを出そうとする姿勢である。官民連携は金融、税務・会計、法務、建設、運営といった幅広い領域の専門性が必要となる。早い段階から専門家に相談し、計画の現実性やリスクを外部の目で確認してもらうことが望ましい。
あわせて準備をしておきたいのがチームづくりである。官民連携案件は、公募が始まってから慌てて体制を整えても間に合わない。設計、建設、金融、運営など、将来のパートナーとなり得る企業とは、日頃から情報交換を重ね、一定の条件がそろえば共同で提案できる関係性を築いておくことが望ましい。
事業性の検討と並行して準備するのが提案書である。求められるのは理想論ではなく、行政が何を不安に思い、何を期待しているのかを理解した提案である。多くの案件に共通するのは、財政負担の抑制、住民サービス水準の向上、地域価値の発信である。これらの点について、提案書で具体的に示す必要がある。単なるコスト削減では足りない。収益構造の工夫による負担軽減、提供する体験価値、長期にわたり地域に関わり続ける意思が実施体制や計画に織り込まれているか。これらが言語化されて初めて、提案は評価委員会の土俵に乗る。
提案書は評価項目に沿って、課題整理、事業コンセプト、事業スキームとリスク分担、収支計画、波及効果へと展開すると理解されやすい。文章だけで説明しようとせず、数値や図で全体像が直感的に伝わる構成を心掛けたい。評価者は宿泊業や観光の専門家でないことが多い。専門用語よりも行政の意図に沿って伝わる言葉にすることが重要である。
官民連携は書類の巧拙を競うものではない。行政は十年、二十年という時間軸で地域を託す相手を選ぶ。事業が厳しくなったときにどう向き合うのか。担当者が変わっても関係性は続くのか。そうした不安に対し、皆さまが自身の言葉で語れるかどうかが、提案全体の信頼性を決定づける。
(アルファコンサルティング代表取締役)





