【口福のおすそわけ581】リグーリアへの旅 その3 竹内美樹


竹内氏

 東京港区芝の「旅するイタリア食堂ヴィアッジョ・ディ・サポーリ」での口福な旅の続き。イタリア全20州から一つの州にフォーカスした特集メニュー、その日はリグーリア州。パスタがあまりに美味で、追加オーダーすることに。特集以外にもこだわりの詰まったラインアップがあり、悩ましい。例えばカルボナーラは「生クリームを使わない、豚ほほ肉グアンチャーレを使った本場の味」とある。グアンチャーレとは、豚ほほ肉の塩漬けを熟成させたモノ。霜降りの脂肪が特徴で、うま味もタップリ。

 先月イタリアの農相が、ベルギー・ブリュッセルの欧州議会の売店で「カルボナーラ」として販売されていた瓶入りソースが、グアンチャーレでなくパンチェッタを使用していたことに激怒し、「料理犯罪」として即刻捜査を要請したというニュースが記憶に新しい。何もそこまで?と思うが、現在イタリア料理はユネスコ無形文化遺産の登録申請中で、間もなく結果が出る微妙な時期。伝統と異なる「イタリア風」料理に対してピリピリするのは無理もない。運命が決まるのは12月10日。本稿が発行される頃には決まっている。幸運を祈ろう。

 話を戻そう。カリカリに焼かれたグアンチャーレ入りのカルボナーラは魅力的だが、その時期限定の「ポルチーニ茸とサルシッチャのクリームソース」にも引かれ、そちらを選択。らせん状のショートパスタ、フジッリに、ポルチーニ香るクリームソースがよく絡み、ウマいの何の♪ イタリア語で腸詰を意味するサルシッチャから出るうま味が深い味わい。ちなみにソーセージとの違いは、サルシッチャが生ソーセージともいわれ非加熱なのに対し、ソーセージは燻製(くんせい)などで加熱済みという点だ。

 サービス担当の奥さまが、パスタを取り分けて下さるのもうれしい。4人分となると地味に面倒な作業だし、誰かが取り分け始めると会話も途切れてしまう。赤ワインに合うお料理なので、おススメをグラスでいただいた。白と同じルーピ社の、リグーリア州土着の黒ブドウ品種ロッセーゼ。心地好い果実味があり、潮風由来のミネラルを感じる。かのナポレオンもその味に感激し、ジェノバからパリまでタルを運ばせたという逸話が残るらしい。

 メインは「ウサギの赤ワイン煮込みリグーリア風」。ウサギ肉はイタリア産だそう。現地では牛・豚・鶏と並ぶ一般的な食肉だ。かつては野ウサギを使ったジビエ料理だったが、今は食用として飼育されている。肉を赤ワインと野菜のだしで、同州産タジャスカオリーブ、松の実と煮込むこの料理、リグーリア版おふくろの味だ。ローズマリーなどハーブが香り、ムチャウマ♪ 鶏肉より軟らか、うま味の出た煮汁が最高!

 お料理もおもてなしもプロフェッショナルなご夫妻のおかげで、すっかりリグーリアを旅した気分に。お二人が醸し出す温かな空気感が、お腹だけでなく心も満たしてくれる、口福なレストランであった。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
 
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