前号の続き。温かい前菜は、リグーリアのソウルフード「ファリナータ」。ヒヨコ豆のお焼きみたいなモノだ。ヒヨコ豆の粉と塩を水で溶き、一晩置いて水を浸透させ、タップリのオリーブオイルで焼き上げる。使うのはモチロン、リグーリア州名産のタジャスカオリーブのオイルだ。パンケーキのように丸く焼かれたファリナータ、外はカリッと、中はしっとり。
同じく同州名産のストラッキーノチーズが添えられている。「ストラッキーノ」とは「疲れた」という意味だそうで、アルプスの牧草地から山を下りてきた、長旅で疲れた牛の乳で作るチーズということらしい。口溶け滑らかクリーミー。甘味と爽やかな酸味が、ヒヨコ豆の風味とベストマッチ♪ 盛り合わせのサラダは、レタスとルッコラ、赤いトレビスというシンプルな構成なのに、驚くほど美味。ホワイトバルサミコを使用、シェフの腕が光る。
ワインも同州産がそろえてあり、ここでグラススパークリングから白ワインにシフト。前回述べた通り耕作可能地が少なく、急斜面の段々畑ゆえ栽培は手作業。当然ワインの生産量も少なく、イタリア20州中19位。いただいたのは、ルーピ社の、白ブドウ品種ピガート。フルーティだが案外しっかりした味わいで、続くパスタ2品とのマリアージュはバッチリ!
パスタの1品目は「ペスト・ジェノベーゼ」。筆者がテラスで育てた東京産バジルでバジル・ペーストを作った折、本連載で詳細を述べたが、原産地呼称保護制度にのっとったペスト・ジェノベーゼは、色が濃く香りが良いとされる、リグーリア州ジェノバ近郊プラ産バジルと、同州産松の実、同州インペリア産ニンニク、同州D.O.P.「リヴィエラ・リグーレ」のエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルが必須材料。同州食材が目白押しの、まさに郷土料理の代表選手である。
後述の同州発祥ショートパスタ「トロフィエ」で供することが多いが、今回は断面が長方形の、同州の伝統的なロングパスタ「トレネッテ」で。現地では定番の、ジャガイモとインゲン入りだ。フレッシュバジルから手作りした、出来たてのペストはベリウマ♪
続く2品目のパスタは、「トロフィエ・アッラ・マリナーラ」。トロフィエは、ねじれた形状が特徴の同州名物手打ちパスタ。手で調理台にこすりつけてねじれを作るため、「こする」を意味する「strofinare(ストロフィナーレ)」が語源と言われる。コレをエビとイカ、ムール貝入りのマリナーラソースで。実は同州、イタリア有数のムール貝産地だそう。マリナーラとは「船乗りの」という意味で、諸説あるが、トマトの酸で腐敗しにくく、長い船旅に重宝されたのが由来とか。いずれにせよ、ねじれにソースが絡んで最高♪
パスタがあまりに美味だったので、リグーリアの特集メニューではなく、通常メニューから思わずもう1皿追加してしまった。「旅するイタリア食堂」での口福な旅、次号に続く!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。




