2025年の秋、インバウンドは再び大きな節目を迎えた。JNTOによれば、9月の訪日外客数は326.7万人、10月は389.6万人と、それぞれ過去最高を更新。わずか2カ月で700万人を超える旅行者が訪れ、円安と航空便の回復を背景に訪日需要は力強く加速した。
その一方で、11月以降の動きには注意が必要だ。日本国内の政情や発言をきっかけに、中国外交部が自国民に対して日本渡航への慎重姿勢を示し、複数の報道では団体・パッケージ旅行を中心にキャンセルや様子見が発生したとされる。FIT(個人旅行)は依然として堅調だが、短期的には団体旅行側にブレーキがかかった格好で、年末年始の需要読みには例年とは異なる複雑さが増している。
一方、中国以外の主要市場―韓国、台湾、東南アジア、北米、欧州―は引き続き堅調に推移しており、多くの国で前年を上回る伸びを示している。特に東南アジアは航空路線の増便が続き、クリスマス休暇と旧正月需要の前倒しで、年末年始に上振れしやすい状況だ。総じて見ると、インバウンド全体は「一部に鈍化があってもトータルではプラス」という構図は揺らぎにくい。
こうした市場の分岐が進む中で、宿泊業のWEB集客に求められるのは「国別最適化」と「価値の明確化」である。まず、需要の温度差が国別で拡大しているため、公式サイトやOTAでの多言語情報を単に翻訳するのではなく、市場別の検索傾向・滞在ニーズに合わせて最適化することが重要だ。特にアジア圏は予約リードタイムが短く、直近30日需要を取り切れるかが成否を分ける。
次に、国内需要の読み替えである。物価上昇と旅行単価上昇が重なり、複数の調査で「旅行意欲は高いが支出は抑えたい」という傾向が明確になっている。したがって、年末年始の集客で重要なのは“値引き”ではなく、“比較されたときに勝てる理由”を提示することだ。移動負担の少ない1泊旅、コスパの高い夕朝食プラン、子連れへの安心設計など、明確なベネフィットはクリック率と予約率を確実に押し上げる。
また、混雑期間にすべてを依存せず、前後の泊まりやすい日に特典を配置することで需要平準化も可能になる。
2025―2026年の年末年始は、従来の“満室待ち”の発想では立ち行かない。国・地域ごとの温度差が強まる市場だからこそ、“どの市場に、どんな価値を、どの媒体で届けるか”の再設計が不可欠である。
WEB集客とは、単なる告知ではなく、揺らぎ続ける需要の中で最適な顧客に自社の魅力を届けるための「選択と集中のマネジメント」そのものだ。
(株式会社プライムコンセプト・小林義道)




