鶴の形の「家伝ゆべし」
芋、栗、小豆、柿、リンゴの実りの秋に入れ替わってミカンの季節。その狭間に収穫期の柚子(ゆず)がある。
果皮はでこぼこしているが、果肉は柔らかく多汁。酸味が強いので生食はしないが、さわやかな芳香とキリっとした酸味が好まれ、皮は吸い口や天盛り、果汁は鍋物や酢の物など日本料理に欠かせない。
柚子の収穫量は高知県が全国の50%を超し、愛媛県、徳島県がベスト3。生産量、消費量では日本が世界一という。これを使った菓子に「柚餅子(ゆべし)」や「ゆべし」「柚ねり」「柚餅(ゆうもち)」がある。
製法や形、味わいはそれぞれだが、代表的なのは柚子の上部を切り取り中身をくりぬき、中に米粉、餅粉、白みそ、砂糖など詰めて蒸した「丸柚餅子」や「丸ゆべし」である。
享保年間(1716~35年)創業の愛媛・西条市の星加のゆべし、天保年間(1830~43年)創業の岡山・高梁市道子の天任堂、明治43年(1910年)創業の石川・輪島市の柚餅子本舗中浦屋が今に続く。
中浦屋は2024年1月1日の能登地震による倒壊・焼失から復興。手作業で伝統を守り続けている。

中浦屋の「丸柚餅子」
もう一種はもち米、うるち米粉に砂糖、みそ、しょうゆなどにクルミ、ゴマなどを入れて四角形にして蒸した菓子である。「仙台ゆべし」「山形ゆべし」「福島ゆべし」など東北地方に多い。
中でも特徴的な一品に福島・郡山市・かんのやの「家伝ゆべし」がある。上新粉を蒸し上げた生地の中にこし餡(あん)を包み込み、鶴の形にして蒸し上げたもので、透けるようなべっ甲色、もっちりの食感、しっとりのこし餡、プチっとしたケシの実が一体となった甘さに気持ちもほぐされる。

鶴の形の「家伝ゆべし」
他に同店で人気が高いのは、餡なしのクルミとケシ粒入りで長方形の「三春ゆべし」。かむにつれてゆかしい甘さがじわり舌に。小腹も満たされる。本店や直営店だけの販売で、しばしば午前中に売り切れる。
郡山では大黒屋本店の「くるみゆべし」も知られるが、仙台では甘仙堂の「ごまゆべし」、山形では永井屋菓子店の「くるみゆべし」など土地ならではの味わいがある。
(紀行作家)
【メモ】「丸柚餅子」=中浦屋(0768・22・0131)1個(小)税込み2592円、「家伝ゆべし」=かんのや本店文助(0247・62・2016)6個袋入り税込み896円~。




