【逆境をチャンスにー旅館の再生プラン 762】変化の前兆を読み解く(1) 青木康弘


 2025年6月以降、宿泊業界は急速な環境変化に直面している。コロナ禍を乗り越え、インバウンドを中心に回復基調にあった宿泊需要が、ここにきて減速傾向に転じた地域が増えている。「夏休みの予約ペースが昨年の7割未満にとどまっている」「値引きしなければ予約が入らない」といった声が各地で聞かれるようになった。

 背景には複数の要因がある。大災害の予言や参議院選挙による旅行控えは今年特有の現象とされるが、8月以降の予約鈍化を見ると、それだけでは説明しきれない。需給バランスの悪化も大きい。観光需要の回復に乗じて異業種からの参入が進み、地方の観光地で開業が相次いでいる。食事やアクティビティを含めたオールインクルーシブ型施設の増加も競争に拍車をかける。客室単価の上昇で、国内客を中心に旅行控えが進んでいる点も無視できない。

 打撃を受けているのは、地方の中小規模施設だ。OTA(オンライン旅行代理店)での掲載順位が下がると予約流入が止まり、値下げしても反応が鈍い。著名観光地の高評価施設が検索上位に表示され、地域を超えた競争も加速している。

 まず必要なのは、不振の原因が自館特有か、地域全体の傾向かを見極めることである。地域全体の入り込みが順調にもかかわらず、自館だけが苦戦しているなら、販売方針や価格設定、顧客満足度など直近の施策に問題がなかったか検証する。過度な値上げが影響している可能性もある。他館と比較し、方針の見直しを図りたい。

 施設ごとの入り込みにばらつきがあるなら、順調な施設とそうでない施設の違いを探ると良い。スイート仕様の客室が好調で一般客室が不調なら、顧客層の変化に対応する必要がある。需要の高い層に向けた内装や設備の見直し、マーケティングの再設計が効果的だ。

 地域全体で予約が落ちている場合は、昨年同時期との比較でイベントや天候、ツアーの有無などを確認しておきたい。短期的な要因であれば、慌てず経費を抑えながら推移を見守る。長期的に集客が落ちている場合、地域の魅力そのものが問われている。個々の施設が価格競争に陥っても持続は難しい。地域全体で連携し、話題性のある取り組みによって注目を集める工夫が求められる。

 (アルファコンサルティング代表取締役)

 
 
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