前回は、サーチファンドや運営会社への委託といった外部資源を活用した事業承継の手法について紹介した。今回コラムでは、社内人材の活用による承継や、最終的な出口戦略としてのM&Aについて整理してみたい。
社内に信頼できる人材がいる場合、その従業員に経営を引き継いでもらうという選択も現実的である。ただし、従業員という立場のまま経営責任を負わせる形では、権限と責任のバランスが崩れやすく、意思決定が曖昧になる可能性がある。こうした課題を回避するには、当該従業員に法人を設立してもらい、オーナー側がその法人とマネジメント契約(MC契約)や施設の賃貸借契約を締結する方法が望ましい。契約により関係性を明確にすることで、従業員側には経営者としての自覚と裁量が芽生え、主体的な運営体制を築きやすくなる。オーナーにとっても、所有と運営を分離することで、収益性とガバナンスの両立が図れる。
社内外に明確な承継候補がいない場合は、第三者への事業譲渡、すなわちM&Aを検討することも重要である。近年、旅館・ホテルの再生や運営に実績を持つ企業やファンドが、中小規模の宿泊施設を新たな投資対象として評価する動きが活発化している。立地や歴史、収益構造に魅力があれば、好条件での譲渡が成立する可能性も十分にある。雇用や地元取引の継続や施設名の保持といった要望も、交渉次第で柔軟に対応してもらえることがあり、「売却=撤退」ではなく、「継続と発展のための引き継ぎ」として前向きな手段としてとらえることもできる。
M&Aと運営会社への委託を組み合わせる方法も有効だ。まず、外部の運営会社に施設の運営を委託し、経営体制が整い収益が安定してきた段階で、土地や建物を第三者に売却するというステップを踏むことで、単なる不動産売却よりもはるかにスムーズにM&Aを進めやすくなる。運営体制が確立されていれば、買い手側も安心して投資判断ができるからだ。
事業承継はもはや、「子どもに継がせるかどうか」といった単純な問題ではなくなっている。事業や職場で働くスタッフ、そして地域の今後をどう守っていくかという経営判断の延長線上にあるべきテーマである。早い段階から選択肢を洗い出し、備えておくことが、施設の価値を持続させるために欠かせない。時代の変化を見据えた承継戦略を描くことこそ、経営者にとって最後の大きな責務と言える。
(アルファコンサルティング代表取締役)




