竹内氏
先日、再び新大久保に出かけた。先般ご紹介したサムギョプサルの店に行く途中、大きく「タッカンマリ」と書かれた看板を発見! 大好物ゆえ調べてみると、2023年に日本初上陸した「明洞タッカンマリ日本本店」と判明。店名に明洞(ミョンドン)とあるが、ソウル本店は東大門(トンデムン)の通称「タッカンマリ横丁」にあり、付近に3店舗を構える人気店だ。
ここでチョットおさらい。タッカンマリとは、韓国語で鶏という意味の「タッ」と、「一羽」を意味する「ハンマリ」、つまり「鶏一羽」という名の鍋料理。丸のままの鶏肉を煮込んだシンプルな料理だが、店ごとにスープや唐辛子ベースの韓国万能調味料「タデギ」の味が異なる。日本の水炊きは鶏肉以外にも具材が入るが、タッカンマリの具材は、ジャガイモと韓国餅トッポギ、長ネギ程度。
諸説あるが、タッカンマリの誕生は、1970年代後半の東大門周辺。高速バスターミナルがあり、その利用者にゆで鶏を提供したところ、ボリューム感とスピーディさがウケ、いつしか客が次々に「タッカンマリ(鶏一羽)!」と注文するようになり、料理名として定着したという説が有力。また、東大門市場の商人や買い物客向けに、鶏肉入り韓国うどんカルグクスが売られていたが、いつの間にか主役が逆転し、麺料理でなく鶏肉を食べる鍋料理になったとする説も。今もカルグクスは、タッカンマリの締めとして食す。
さて、話を戻そう。テーブルに着くと、ガスコンロの上に金盥(かなだらい)のような鍋が置かれた。中には、背中に星型とハート型の人参を背負った丸鶏とジャガイモ、長ネギが。火を入れて少したったところで、大きなハサミを手にしたスタッフが、丸鶏をジョキジョキ切り始める。同店では他の一品料理もあるので、それらを食べながら鶏ができあがるのを待つ。サクふわ食感の海鮮チヂミがムチャウマ♪ 先にできたトッポギや水ギョーザに、特製タデギを付けていただく。うま辛! モチロン、ソジュ(韓国焼酎)は欠かせない。
スタッフからGOサインが出て、いよいよ鶏肉の出番。軟らかくてプリップリ。タデギでなく、酢じょうゆとマスタードを付けてシンプルに食すのもイイ。筆者がソウルで必ず立ち寄っていた、同じ横丁にある「陳玉華(チンオックァ)ハルメ元祖タッカンマリ」よりもサッパリした味わい。同店ではセルフサービス食べ放題のキムチを入れて食すので、スープが真っ赤になるが、明洞のスープには、韓国独自に発展した韓医学で処方される韓方薬に用いるハリギリや甘草が使われているそうで、独特の風味がある。
鶏のだしがしみ込んだジャガイモも、ホクホクして美味。手打ちで細めのカルグクスは、かんすいが入っていないから、うどんに近い。スープとの相性もバッチリ♪ ホッとする味だ。
丸鶏を水で煮たタッカンマリ、手間も原価もかからない路地裏グルメから、国境を越えて東京でも食べられる名物料理になるなんて、スゴイなぁ~!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。




