【ちょっとよろしいですか 169】「温泉文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されるまでにしておきたいこと 山崎まゆみ (2025年11月24日号掲載コラム)


 先月、中央温泉研究所が主催した「第64回 温泉保護・管理研修会」に登壇しました。

 研修会は2日間にわたり、プログラムを見ると50分間の講座を11テーマで開催されて、学びの宝庫でした。

 初日は環境省自然環境局自然環境整備課温泉地保護利用推進室長の「温泉行政」に始まり、福井大学医学部の医師から「温泉医学―温泉地の環境と自然の中での癒し―」が、神奈川県温泉地学研究所専門研究員から「地熱発電と温泉の共生」が語られました。2日目は中央温泉研究所による「硫化水素中毒について」「温泉地学―温泉と地質」などの講座がありました。

 私は2日目に温泉管理とはやや分野は異なりますが、「ユニバーサルデザインの温泉地域づくり」と題して、優良地域の事例を示しながら、超高齢化社会における温泉地のビジネスとして、ユニバーサルデザイン化が必要であることをお話ししました。参加者からは「うちでも話してほしい」といった講演の打診もいただきました。

 非常に充実した研修会でしたので、きちんと参加すれば良かったなと感じました。

 私が拝聴した、中央温泉研究所の滝沢英夫氏による「硫化水素中毒について」は、昨今起こっている硫化水素中毒のニュース解説から、事故の原因、湯船の設置環境、ガスの種類など、分かりやすく解説してくれました。

 硫化水素の危険性をよく知る人でも、ガス濃度500ppmの値に近くなると一瞬で呼吸停止と心不全となるノックダウン状態に陥る。こうなると、硫化水素ガスが発生する源泉管理に手慣れた作業員ですら事故を起こしてしまいます。ちなみに200ppmほどで結膜炎症状になるそうです。硫化水素中毒は体質やその日の体調に影響されるそうですが、子供や高齢者には特に注意しなければなりません。

 さらに「浴槽への温泉注入口は、浴槽の湯面より上方に設けること」「浴槽の湯面は、浴室の床面より高くなるように設けること」など、浴場の構造にも具体的な注意がなされました。

 もし詳しくお知りになりたい方は中央温泉研究所へお問い合わせください。

 続いて中央温泉研究所の高橋孝行氏による「温泉地学―温泉と地質」は、目からうろこが落ちる思いで拝聴しました。

 温泉はどんなところに湧出するのかに着目し、温泉地周辺の地質と湧出について考察した内容でした。

 「温泉は、『温度』『成分』『水』の3要素で特徴づけられる。これら3要素を一つにする器であり、温泉が流れる道となる断層や、割れ目が地質や地質構造である」といった冒頭から面白い。

 また非火山性の温泉の場合、100メートルにつき2・5~3度という地下深度と温度の上昇率の関係性の話や、日本列島には堆積岩、火成岩、変成岩など、さまざまな年代の岩石が分布しており、それらが温泉の湧出に関係するとも話されました。

 そうした基礎的な知見を伝えた上で、道後温泉、川治温泉、塩原温泉、下部温泉、湯田温泉、白骨温泉などの地質を分析し、東京都や青森県では温泉保護のための地域区分が地質分布と関係していることなどを語られました。

 実は、このような温泉の専門的な知識を私自身がもっと聴きたく、質問もしたく、来年度の跡見学園女子大学の授業にゲストスピーカーとして高橋さんをお招きし、学生と共に学ばせていただこうと思っております。

 「温泉文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたら、私も、温泉を守る宿の皆さんも、国内外のお客さんに温泉の専門知識を平易にご説明したいですね。今はその準備期間として、学ぶ時間を設ける必要がありそうです。

(温泉エッセイスト)

 
 
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