「本当の多様性」「台本に縛られない」 学生が業界リーダーに未来像を提言
専門学校日本ホテルスクール(東京都中野区、石塚勉校長)は11月14日、第34回弁論大会を東京都中野区のなかのZEROホールで開催した。予選を通過した日本語部門5名、英語部門5名の計10名が登壇し、ホテル総支配人や業界関係者など26名のゲスト審査員、家族、教職員、在校生約350名の聴衆を前に熱弁を振るった。
日本語部門最優秀賞は昼間部ブライダル科2年梅村優月姫さん(埼玉県川越総合高校出身)の「本当の多様性」、英語部門最優秀賞は昼間部ホテル科2年イップカーヘイ キャンディーさん(新宿日本語学校出身)の「Beyond the Script(台本に縛られない)」がそれぞれ選ばれた。

「できない」ではなく「工夫すればできる」

梅村さん
日本語部門で最優秀賞を獲得した梅村さんは、日本企業における障がい者雇用の低迷に対し、多様な特性を活かした「特化型スペシャリスト」としての活躍の可能性を示した。
「今、日本の人口約1億2300万人に対して約1,164万6,000人は障がい者です。つまり、日本人の10人に1人の割合で『身体・精神・知的』と様々な障害を抱えながら過ごす人がいるのです。ですが、実際に職場や日常的にあまり見かける事は無いですよね」と現状を指摘。
障がい者雇用促進法で定められた雇用率2.5%を達成している企業は約46%にとどまる状況を踏まえ、知的障がいのある弟を持つ自身の体験から、ホスピタリティ業界が障がい者雇用に率先して取り組むことの意義を訴えた。
「ホテルやブライダル業界には多くの方が訪れます。その中で、障がい者が活躍する事は多様性を実感でき、周囲の人や社会に『障がいがあってもこんなことができるんだ』と大きな可能性を広げられ、偏見の解消に繋がるかもしれません」
梅村さんは「できないではなく、工夫すればできる。これこそが、本当の多様性への一歩なのです」と結んだ。
マニュアルにとらわれないホスピタリティ

イップさん
英語部門で最優秀賞を獲得したイップさんは、完璧さを求めるあまりマニュアル(台本)に縛られがちなホテリエの姿勢に問題提起し、お客様一人ひとりの状況に合わせた対応の重要性を説いた。
「ホテルを例にしてみましょう。お客様がロビーのドアをくぐった瞬間、それはまるで幕が上がる瞬間のようです。スタッフは俳優となり、ホテル全体が一つになって、お客様一人ひとりの『お気に入りの台本』を演じます」と語りかけ、ホスピタリティを「舞台」に例えた。
イップさんは実習先での体験を挙げ、急いでいるビジネス客に対して標準作業手順通りに全ての料理を説明したり、外国人客に完璧な敬語で説明したりする様子を「見事なパフォーマンスでしたが、お客様にとってはただの『時間の無駄』でした」「言葉は美しく、礼儀も完璧でしたが、お客様には全く通じていませんでした」と指摘。
「私はただ台本を繰り返す『俳優』ではなく、おもてなしという完璧だけれども硬い脚本を、お客様ごとに書き換える『脚本家』になりたいのです」と自らの志を述べた。
優秀賞にも環境と先進技術テーマの発表
優秀賞には、日本語部門で昼間部ホテル科1年上野華蓮さん(栃木県矢板東高校出身)の「ホテルの1泊から始まる地球の未来」、英語部門で昼間部英語専攻科2年若林美幸さん(角川ドワンゴ学園N高校出身)の「The Future is Immersive(没入型の未来)」が選ばれた。
上野さんは「2030年までにホテル業界は持続可能性を証明できなければ生き残れない」と警鐘を鳴らし、環境配慮の取り組みを「見える化」して、ゲストが楽しみながら参加できる仕組みを提案した。
若林さんはF.コトラーのマーケティング理論を手がかりに、AR等の最新技術を活用し、ホテルの理念をゲストが真に感じられる形で表現する「没入型の未来」を展望した。
業界リーダーから学生へエール
最優秀賞受賞者には、ハイアット セントリック 銀座 東京、ザ・ペニンシュラ東京、六本木ヒルズクラブなどからスイートルーム宿泊券やディナーペア招待券が贈られた。
審査結果発表・表彰式後には、アコー・ジャパン代表取締役のディーン・ダニエルズ氏が「弁士たちのスピーチから情熱、決意、未来への希望を感じた」と総評し、業界をめざす学生へ「夢に向かって前進してほしい」と激励の言葉を贈った。
専門学校日本ホテルスクールは1972年の開校以来、14,800名の卒業生を輩出。今回の弁論大会は「2030年のホスピタリティ業界」「ホスピタリティ業界における自分のあり方」を論題に設定。訪日外国人旅行者数が2025年1月〜9月で3165万人を突破し、ラグジュアリーホテルの開業が続く一方で、人手不足が深刻化する業界の現状を踏まえ、学生たちが実習やアルバイト経験で感じた課題から導いた考察を「業界の未来に向けた提案」としてまとめ上げた。





