タップアワードの表彰式
株式会社タップは11月20日、同社ホテルシステムのユーザーホテル・旅館を招き、「2025年度タップユーザー会」を帝国ホテル東京で開いた。500人以上が出席した。同会の原信造会長(=ホテルニューグランド代表取締役会長兼社長)、タップの林悦男代表取締役会長からのあいさつに続き、同社の吉田亮一代表取締役社長が「タップ活動報告」を発表。続いて論文コンテスト「タップアワード」の表彰式が行われた。同アワードの選考委員長である久保成人氏(元観光庁長官、宿泊施設関連協会副会長)が学生賞と優秀賞を発表。学生賞には、慶応大学大学院の屋代龍吾氏と東京科学大学大学院の長谷川義人氏による「AIで変えるインバウンド『旅マエ・旅ナカ・旅アト」に対する行動変容促進による観光客の分散』が選ばれた。優秀賞は、帝国ホテル東京・調理部の重冨耕太氏による『宿泊施設 調理部門から見た業務改善の可能性 AIを用いた需要予測システム』が受賞した。また、沖縄で活動するNPO法人バリアフリーネットワーク会議の親川修理事長が「すべてのお客様に快適な旅を~そしてリピーターへ~障害者差別解消法を超えた新たなITサービス」と題して講演した。
吉田社長、沖縄での取り組み紹介

発表する吉田社長
吉田亮一代表取締役社長は活動報告で、沖縄県におけるオーバーツーリズム対策として沖縄観光DX推進機構と連携して実施している手ぶら観光サービス「ラゲッジフリー沖縄」を紹介した。同サービスは今年11月から来年2月までの実証事業として行われており、空港での手荷物預かりからホテルへの配送までを一元化。現在16施設が参加し、石垣島など離島への展開も計画している。
また、沖縄県うるま市にある実験ホテル「THL(タップホスピタリティラボ沖縄)」内の無人店舗での酒類販売実証実験も進行中で、国家戦略特区認証を取得し、完全無人販売の実現を目指しているとした。吉田社長は「沖縄のリゾートホテルでは人材確保が困難な中、お客様に24時間365日サービスを提供するための取り組み」と説明した。
THLでは、これまで1250名の視察者を受け入れ、ホテル関連のDX推進イベントを開催。同社は今後、「次世代PMSの早期提供」「グローバル展開」「データプラットフォームの活用」「提案力強化」を事業の柱とし、「新しい道を切り拓く、きっかけをつくる」という創業以来の理念に基づいた活動を展開するとした。
タップアワード、過去最多88件の応募

久保選考委員長と審査委員
久保成人選考委員長は、今回のタップアワードには過去最多となる88件の応募があったことを報告。選考においては「宿泊・観光業界の課題解決と、お客様の体験価値向上を目指した革新的なアイデアやソリューションを評価した」と述べた。
学生賞を受賞した屋代氏と長谷川氏の論文「AIで変えるインバウンド」は、訪日外国人観光客の97%が「地方を訪れたい」と考えているにもかかわらず、実際に地方に宿泊するのは30%に留まるというギャップに着目。このミスマッチを解決するため「Nippon-Pedia 2025」と名付けたAIエージェントを提案した。
同システムは、大阪・関西万博で実証されたExpo2025 Personal Agentの仕組みを全国展開するもの。「旅マエ」には旅行者の興味に合わせた地方観光地を提案し、「旅ナカ」ではリアルタイムの混雑情報と空いている観光スポットを連動させ、予約や移動手配までアプリ内でワンストップで行う。さらに「旅アト」では訪問履歴をもとにパーソナライズされた次回の旅行提案を行うことで、リピーターを育成する仕組みだ。
長谷川氏は「オーバーツーリズムと地方の機会損失という二律背反の課題を、AIとデータの力で同時に解決し、旅行者と地域事業者がともに得をする持続可能な観光の未来を作りたい」と受賞の喜びを語った。

学生賞を受賞した屋代氏と長谷川氏
一方、優秀賞を受賞した重冨氏の論文「宿泊施設 調理部門から見た業務改善の可能性」は、ホテルの調理部門における事務作業の負担軽減と生産性向上を目指したAI活用を提案した。コロナ禍で深刻化した人手不足に対し、シフト作成や食材発注といった調理部門の事務作業をAIによる需要予測システムで効率化する内容だ。
システムは過去の売上データと今後の予約状況に加え、天気予報や周辺イベント情報などの公開情報を組み合わせることで、高精度な需要予測を実現。重冨氏は「料理人は料理人らしく料理に向き合う時間を長く取れるようになる。これにより商品の付加価値向上や食材ロスの削減につながる」と説明した。
久保選考委員長は「調理部門は人の創造性が特に求められる分野。AIを活用しつつも、人間にしかできない価値創造を大切にする視点が評価された」と講評。林会長も「宿泊施設関連協会でフードテック研究会を立ち上げたばかり。まさに時宜を得た研究」と評価した。

優秀賞に輝いた重冨氏
親川氏、障害者差別解消法とバリアフリー対応を解説
NPO法人バリアフリーネットワーク会議理事長の親川修氏は講演で、2024年4月に施行された改正障害者差別解消法に基づく対応の重要性を指摘した。「日本の障害者人口は約1164万6000人、総人口の9.3%を占める」と述べ、障害者差別解消法違反の名前公表など罰則の強化にも言及した。
親川氏はバリアフリーとユニバーサルデザインの違いについて「バリアフリーはバリアを取り除く方法、ユニバーサルデザインは最初からバリアができない方法を考えること」と説明。特にユニバーサルデザインの第一原則である「公平性」に重点を置き、「平等」と「公平」の違いを解説した。
「障害者や高齢者は重要な観光マーケット。超高齢社会の中でこのマーケットを見過ごしていたら観光はダメになる」と述べた親川氏は、那覇空港や福岡空港、羽田空港などに設置した「しょうがい者・こうれい者観光案内所」の利用状況を紹介。特に沖縄県の調査では、高齢者の平均消費額が144,711円、障害者が105,360円と、県平均(74,502円)を大きく上回ることを示した。
具体的な対応として、親川氏は聴覚障害者向けの「UDトーク」アプリや視覚障害者向けの触覚メニュー、車椅子用レインコートなどの「ささやかな合理的配慮」の例を紹介。「対応の正しさより対話の姿勢が大切。障害を理解すると優しい発想が生まれる」と強調した。
また「逃げるバリアフリー」の重要性も指摘。「入口のバリアフリーは当たり前だが、出口つまり災害時の避難経路も重要。安心と安全はすべての人に公平に提供されるべき」と述べ、障害者を交えた避難訓練の必要性を訴えた。実証実験の結果、健常者に比べて障害者は2〜5倍の避難時間を要することも明らかにされた。
親川氏は講演の最後に「ホスピタリティの塊である皆さんが障害を理解することで、必ず優しいサービスが生まれてくるはず」と締めくくった。
タップユーザー会はこの後、懇親会に移り、帝国ホテルでの三線演奏などのアトラクションも行われた。

親川氏による講演




