【特集】福島県3市町×東武鉄道 SL大樹等観光列車運行推進協議会 「会津ごころ」と出会う旅 観光列車ツアーで福島・会津の観光活性化


「会津田島祇園祭」の花嫁もDL大樹に同乗

“会津人”と新スポットを紹介

 福島県会津若松市と下郷町、南会津町の3市町と東武鉄道で構成する「SL大樹等観光列車運行推進協議会」は10月25、26日の1泊2日で、「『会津ごころ』と出会うツアー」を行った。


「会津田島祇園祭」の花嫁もDL大樹に同乗

 同協議会は、東武鉄道が運行する観光列車を媒介とした会津エリアの持続的な活性化と観光振興を目的に2024年11月に設立。独自性があり差別化された、会津西街道の観光ストーリーを創出すべく取り組みを進めている。今回、「観光列車DL大樹を活用した『会津ごころ』と出会うツアー造成事業」が、観光庁「地域観光魅力向上事業」に採択されたことから実施に至った。

 同ツアーは、東武鉄道が下今市駅―東武日光駅間で運行している「DL大樹」を、特別に野岩鉄道、会津鉄道、東日本旅客鉄道只見線にも乗り入れ、下今市駅―会津若松駅間で運行した。連結した客車は3両。旅行会社2社がツアー商品として販売したほか、国内外の旅行会社や観光情報メディアを招待したモニターツアーを併せて実施した。


DL大樹と「あかべぇ」のヘッドマーク

 JR東日本びゅうツーリズム&セールスは「DL大樹で行く会津西街道―歴史と文化にふれるおもてなしの旅―」として、クラブツーリズムは「新幹線 東武鉄道『スペーシアXと貸切大樹』乗車!語り部付!大内宿街並み展示館見学と鶴ヶ城特別見学2日間【東京・上野・大宮出発】」としてそれぞれ催行した。

 今回のツアーの基本コンセプトは、地元の人との触れ合いや、各地のおもてなしを通じて「会津ごころ」に出会える旅。会津ごころとは、会津人の代表的気質である、過去を未来につなぐ「継承力」、何度でも立ち上がる「しなやかさ」、心を込めた「おもてなし」のことを指す。江戸幕府を開いた徳川家康を祭る「日光」と、幕府を守り最後まで戦った「会津」を江戸時代の始発駅と終着駅とし、これを結ぶ会津西街道を軸に、江戸から令和へ、長い時を超えて生き生きと継承されている会津ごころを、ツアーの随所に織り込んだ。

 DL大樹車内では、南会津町の「会津田島祇園祭」の花嫁の同乗や、下郷町の郷土料理である「しんごろう」のふるまい、会津若松駅での甲冑(かっちゅう)でお出迎えなど、数多くの「会津ごころ」を提供した。募集ツアーでは鶴ヶ城や大内宿、会津酒造といったメジャー観光スポットを周遊。モニターツアーでは、白井農園(会津若松市)や金子牧場(下郷町)、農家ランチ体験やアロマ作り(南会津町)といった新スポットを訪ね、農園主、牧場主などと直接交流。新形態のツアー造成の可能性を探った。

 SL大樹等観光列車運行推進協議会は、今年度の事業目的を「観光列車を媒介とし、日光・会津間沿線を基軸とした、会津若松市、下郷町、南会津町の持続的な活性化と観光振興を図る」と定めている。一方で現状は(1)日光と会津がつながっていることに関する国内外での認知度は低い(2)日光エリアには多くの観光客が訪れるが、会津地方への波及が少ない(3)コンテンツが点として点在し、周遊が生まれず観光消費額が少ない―などの課題がある。

 今回のツアー造成事業はそれらの課題を解決する糸口を探るために企画、実施された。同協議会は、同事業の将来性について「継続的な観光列車運行を通じて、日光と会津若松をつなぐ会津西街道を軸とした観光周遊のストーリーの定着を図りたい。着地型商品の磨き上げも連動して行っていくことで、観光列車以外での会津への来訪や、観光列車乗車体験後の再来訪につなげていきたい。同時に増加するインバウンド旅行者も取り込んでいくべく、地域と連携して、海外への情報発信、国外旅行エージェントへの商談なども積極的に実施していく」と話している。

白井農園(会津若松市)

 会津藩士が北海道余市で栽培していたリンゴ「緋の衣(ひのころも)」を復活させて栽培している。モニターツアーでは農園主の白井康友氏=写真=からリンゴ栽培についての話を伺い、各種リンゴの食べ比べ、100%ジュースの飲み比べ、収穫体験などを行った。


リンゴ狩りを体験

 白井氏の気さくな人柄と素朴な会津弁は「会津ごころ」の真骨頂。白井農園ではリンゴの他に洋ナシ、桃などの果樹、「有機JAS認証」を取得した各種野菜も栽培している。

 「江戸時代から存在する和リンゴはお供え物として使われている。現在市場に出回っているリンゴはほとんどが西洋リンゴの品種改良によるものだ。明治時代に西洋リンゴが輸入され、全国各地で栽培が始まった。リンゴの品種改良はジューシーさ、甘み、酸味、香りのバランスを重視して行われる。品種によって味や香りに違いがあり、食べ比べることでその特徴が理解できる」

 「リンゴの表面のペタペタした物質はワックスであり、農薬ではない。リンゴが自分自身を守るために分泌している。白井農園では、観光農園、有機農業の取り組みも行っており、特に地域の特産品としてのリンゴの価値向上に注力している」


白井氏

ヒューマンハブ天寧寺倉庫(会津若松市)

 関美工堂(関昌邦社長)では、伝統工芸「会津塗」の未来につなげる商品開発を行っているほか、22年にカフェやセレクトショップを併設した「ヒューマンハブ天寧寺倉庫」をオープンした。モニターツアーでは、この土地が記憶する「命をつなぐ暮らしの文化」や「精神を養う心の文化」について、過去を現代から未来へつなぐ「会津ごころ」を持つ関社長に話を伺った。


ヒューマンハブ天寧寺倉庫

 「福島は日本で3番目に大きい県で、会津地方は山に囲まれた盆地だ。会津地方は森林率が高く、自然と人の共生が長い歴史の中で育まれてきた。農業や食文化、漆器などの生活道具作りが地域の文化として根付いている。漆(うるし)は古代から日本人と深く関わり、耐水性や抗菌性などの特性を持つ素材だ。会津地方の伝統的な織物『会津木綿』も地域の文化として継承されている」

 「ヒューマンハブ天寧寺倉庫には、シェア工房やシェアキッチン、カフェ、ストアを整備。会津の職人たちと観光客が交流できる場にもなっている。昔の観光地図を見て気付いたのだが、この地域の基本的な景観は、100年前とそれほど変わっていない。100年後も変わらない会津でいられるように、地域の文化と景観を大切に、未来へと継承していきたい」

金子牧場(下郷町)

 雄大な那須山系三倉山の麓に広がる緑豊かな高原の牧場。ホルスタインだけでなく希少なジャージー牛も育て、牧場隣接の自家加工場などで、搾りたてのミルクを使った「ヨーグルト」「チーズ」「アイスクリーム」を製造している。


牛舎のジャージー牛

 今回のモニターツアーでは、牧場主の金子政彦氏から牧場の歴史やジャージー牛などについて話を伺い、ジャージー牛の生乳を使った「バター作り体験」を行った。


金子氏によるバター作り体験

 「11年に国道289号線が開通し、道の駅もできた。そこでジャージー牛の牛乳を使ったソフトクリームの販売を始めたところ、地域の名物としてメディアにも取り上げられ、人気を博した。その後、ジャージー牛乳を使ったヨーグルトやチーズの製造・販売も展開し、販路を拡大している」

 「牧場では約80頭の乳牛を飼育し、東京ドーム7個分の牧草地で飼料を確保している。茶色いジャージー牛は全国に約1万頭しかいない。希少種であり、生乳の脂質比率が高いため、ペットボトルに入れて10分程度振るだけでバターができる」

 「東日本大震災後は、地域の子供たちに癒やしの牧場体験を提供していた。地域資源を活用したサイクリングツアーなどにも挑戦していきたい」

みなみあいづ森と木の情報・活動ステーション「きとね」(南会津町)

 ツアーでは、「みなみあいづ森と木の情報・活動ステーション『きとね』」=写真=を訪れ、南会津町に移住して、森林資源や地域資源を生かしたコンテンツ造成や、支援事業を行っている合同会社SCOPの松澤瞬CEOに話を伺った。カンナくずを使ったクリスマスリース作りと、アロマスプレー作成のワークショップも実施した。


みなみあいづ森と木の情報・活動ステーション「きとね」

 「南会津地域は93%森林で、その面積は神奈川県と同じくらい。7割広葉樹で季節ごとの変化が特徴的。南会津にヒノキは少なく、杉やヒバ、松が多い。この地域には、昔ながらの大工技術が多く残っており、木材加工にとっての貴重な人的資源となっている。SCOPでは、南会津地域の森林資源を活用した観光や地域活性化に取り組み、地域の林業や木材産業の活性化を目指している。森林浴や森林セラピー、木工ワークショップなど多様な体験プログラムで森林資源の新たな価値創造を図っている」

SL大樹等観光列車運行推進協議会 会長 吉川信氏(会津若松市観光商工部観光課課長)

 これまで会津観光の優位性は「自然」と「文化」だった。会津若松市、下郷町、南会津町と東武鉄道が連携した本協議会では、これに“会津人の魅力”として「会津ごころ」を加えた。
 会津には、武士の時代から根付いている「礼儀」「おもてなし」の文化がある。伝統と自然の調和をずっと続けてきた。協議会加盟の3市町には、この文化が色濃く残っている。東武鉄道の特別な観光列車「大樹」と連携して、会津ごころの魅力を、観光客の皆さまに提供してまいりたい。


吉川氏

福島3市町の担当者の声

■会津若松市 宮本佳奈氏(観光商工部観光課主任主事)

会津人の魅力に触れる旅
 会津には、実際に訪れてみて初めて分かる魅力がたくさんある。「会津ごころ」もその一つだ。今回は、特に“会津人”の魅力にフォーカスした。

 今回のツアーでは、毎年9月に約600人が武者姿でまちなかを練り歩く本市最大のイベントである「会津藩公行列」の甲冑(かっちゅう)武士たちが会津若松駅でツアーの皆さまをお出迎えした。会津大学吹奏楽部による演奏も花を添えた。

 「会津塗」をはじめとした伝統工芸を継承しながら次世代へとつなぐ「ヒューマンハブ天寧寺倉庫」の訪問と関社長によるお話、大正ロマン漂う歴史的な建物を保存、修復しながら、城下町らしい特色の商店街の再生と地域コミュニティの再構築を目指して活動している「七日町通りまちなみ協議会」のメンバーによる町歩きツアー、NHK総合テレビ「ブラタモリ」で案内人を務めた「鶴ヶ城(会津若松城)」のガイドツアーなども提供した。

 今後も協議会並びにに地域の人々と連携し、会津人の魅力に触れられる旅のコンテンツの発掘・磨き上げに引き続き注力していきたい。


宮本氏

■下郷町 渡部勇進氏(総合政策課主任主査兼商工観光係長・下郷町観光協会事務局長)

体験型のメニューを拡充
 下郷町には湯野上温泉、大内宿がある。芦ノ牧温泉(会津若松市)も隣接している。観光客は関東近隣県からのリピーターが多い。深く地域に関わるファンの増加、つまり関係人口の増加を目指している。

 インバウンド客数は年間約14万人。全体の10%を占めている。特に大内宿の集客力が大きい。大内宿を訪れるインバウンド客はアジア諸国からが多い。現在の観光パターンは、写真撮影、名物「ねぎそば」などの食事、土産物購入が中心で、体験型メニューの不足が課題となっている。欧米からのインバウンド客は文化や伝統への理解が深いため、文化体験の充実が求められていると認識している。下郷町の観光資源を生かした体験型ツアーの造成を進めていきたい。

 下郷町観光協会では、フォトツーリズムを積極的に進めている。専用サイト「フォトナビ下郷(感動風景を巡る旅 会津下郷町)」で季節ごとの写真撮影スポットを紹介。公式SNS(インスタグラム、X)と「下郷町ライブカメラ」のよる情報発信も行っている。

 今回のツアーでは、車内で郷土料理「しんごろう」「天ぷらまんじゅう」を皆さまにお楽しみいただいた。


渡部氏

■南会津町 齋藤大也氏(商工観光課観光交流係主査)

花嫁行列と4酒蔵の魅力
 毎年7月22日から24日、会津田島の小さな町の祇園祭に全国から約8万人が訪れる。この「会津田島祇園祭」では、未婚女性が花嫁衣装をまとい練り歩く「花嫁行列」が有名だ。

 このツアーでは、花嫁の同乗、クラフトビールの車内提供、会津田島駅での郷土料理のご昼食、南会津の4酒蔵の日本酒飲み比べなどをご用意した。
 昨年末の協議会設立から定期的に会合を重ね、三つの自治体が観光コンテンツを持ち寄り、ストーリーを整理し、磨き上げて、今回のツアー実施にこぎつけることができた。

 南会津町にも旅館、ビジネスホテルはあるが、収容人数は限られている。下郷町の湯野上温泉、会津若松市の芦ノ牧温泉、東山温泉などとも連携しながら、会津全体を観光振興で盛り上げていきたい。


齋藤氏

▷紙面


関連キーワード
 
 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第38回「にっぽんの温泉100選」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 1位草津、2位道後、3位下呂

2024年度「5つ星の宿」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第38回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2024年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月13日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒