【ちょっとよろしいですか 168】今、観光産業には、地域の住民に理解してもらう努力が必要 山崎まゆみ 


 「ふるさと新聞アワード」をご存じでしょうか?

 地域に寄り添う新聞記事を高く評価する賞です。

 主催は、新聞や出版・書店業界の専門紙の発行やセミナーなどを行っている文化通信社です。2021年の創刊75周年を記念して、全国の市町村単位を発行エリアとする地域紙70紙ほどが閲覧できる「ふるさと新聞ライブラリー」を社内に新設し、ほどなくして「ふるさと新聞アワード」を創設しました。

 アワードの選考対象は直近の1年間に各紙の新聞かデジタル版に掲載された記事です。

 昨年度は、1次審査で30本の記事を選定。地域にゆかりのある審査員による最終審査を経て、最優秀賞1件、優秀賞3件、準優秀賞10件、有識者専門委員会特別賞1件が決定しました。

 授賞式で文化通信社の山口健代表は「『ふるさと新聞ライブラリー』に届く新聞を読むたびに、もっと光が当たるようなお手伝いがしたいと考えました」と話していました。

 審査員には、歴史家・作家の加来耕三さん、放送作家の小山薫堂さん、ディスカバー・ジャパン代表取締役の高橋俊宏さんらが名を連ね、実は私も第1回から審査員として参加しています。ちょうど第5回となる25年度の審査を終えたところです。

 5年間の審査を経て感じることは、地域紙こそ地域に寄り添い、地域の人に最も伝わる言葉で発信してくれるということです。昨今の紙媒体の衰退を鑑みれば、人に伝える手段は紙でもWebでも変わりません。地域専属の記者が記事を書くということが大切なのです。なぜなら、そこに根を張る人でしか書けない、全国紙の記者にはとうてい敵わない詳細なルポが書けるからです。私は最終選考にノミネートされた優れた記事を読んでいることもありますが、心に届く記事ばかりなのです。地域愛があふれていました。

 地域経済を回すことに尽力される観光事業者、観光行政の皆さんに、こうした地域と伴走し、報道してくれる味方を持つことを強く勧めます。

 先月、観光庁の地域観光魅力向上事業の地域観光サポーターとして、山梨県笛吹市への支援に入りました。笛吹市は「第3次笛吹市観光振興計画」(23年~27年)の重点方針の一つに「医療機関との連携」を掲げ、医療と介護福祉団体が連携したユニバーサルデザインを打ち出す観光地域づくりを推進しています。代表例として、山梨県内のリハビリ病院の基幹である甲州リハビリテーション病院の福祉のプロが、石和温泉で入浴介助をしてくれます。

 支援に入った日は地域観光魅力向上事業のモニターツアー実施日でした。そこに地域新聞1社、地方テレビ2社が入り、モニターはカメラに囲まれていました。その晩に地域のニュースとして流れ、翌日には新聞で大きく報道されました。

 特に笛吹市は観光政策として医療と介護福祉団体との連携をうたっていますので、地域の方の理解がとても大切です。

 昨今、マスメディアではもっぱらオーバーツーリズム問題が話題になり、インバウンドにおいてネガティブな側面が強調され、私自身は偏った報道だなと感じています。地域が地道に施策を積み重ねている姿や、その取り組みの詳細をきちんと伝えてくれる記事が必要です。

 最近はインフルエンサーの起用やSNSで話題になることに重きを置かれる風潮がありますが、果たして集客に直結しているのか、シビックプライドの醸成につながっているのか。表層的ではなく、地域が幸せになるための発信は誰がしてくれるのか―。

 観光が地域の要の産業となっているからこそ、今一度、見つめ直す時期がきているのではないでしょうか。

 (温泉エッセイスト)

 
 
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