山梨県は11月6日、山梨県恩賜林記念館で「2025やまなしインバウンド多様な食文化対応セミナー〜食で世界を迎えるやまなしへ〜」を開催した。セミナーでは、インバウンド観光客の増加に伴う食の多様性への対応が山梨の観光消費額拡大につながる可能性について議論された。
増加するインバウンド需要と食の多様性への対応
一般社団法人メイドインジャパン・ハラール支援協議会理事長の高橋敏也氏は「食の多様性対応による山梨の観光消費額拡大の可能性」と題する講演を行った。
高橋氏によると、2024年の訪日外客数は3,686万人と過去最多を記録。特に注目すべきは、世界の人口の約41%を占めるイスラム教徒(ムスリム)と約25%を占めるプラントベース(植物由来食品)を主食とする人々だ。これらの訪日客は増加傾向にあり、2024年の訪日外国人旅行消費額は8兆1,395億円に達している。
「訪日客の約1割、367万人強がベジタリアンとムスリムで、彼らが食べられる店がないと旅行先で不便を強いられる」と高橋氏は指摘。実際、日本全国のムスリム対応店舗は761店舗、そのうちハラール認証店舗はわずか160店舗。山梨県内ではハラール認証店舗が2店舗、ムスリム対応店舗が8店舗にとどまる現状も報告された。

高橋氏
山梨から世界へ 地元企業の挑戦事例
株式会社クリエイティブリゾート代表取締役CEOの加藤慎一氏は「山梨から世界へ 〜食の多様性対応が拓くループバウンド戦略〜」をテーマに講演。同社は河口湖駅前で「冨士天ぷら いだ天」などを運営し、ハラール認証取得の和食店を展開している。
加藤氏は「2014年に起業した当時は『なぜ豚肉を入れないのか』と質問されることもあった」と振り返る。現在では河口湖駅前でハラール認証の和食店を運営し、礼拝室も設置。「改装1か月で黒字化した。これは他の事業と比べても異例の早さだ」と手応えを語った。
富士山周辺は特に外国人観光客が多く、加藤氏によれば「富士北麓地域の観光客数は創業の2014年当初の1,387万人(山梨県公式HPより参照:https://www.pref.yamanashi.jp/documents/2062/h26kankouirikomitoukei_houkokusyo.pdf)から、現在は1,729万人(山梨県公式HPより参照:https://www.pref.yamanashi.jp/documents/2062/02gaiyou2024.pdf)まで増えており、そのうち推計値として約12%前後が外国人観光客であろう」とのこと。訪日客の食のニーズに応えるビジネスチャンスは大きいと強調した。

加藤氏
「やまなしフードダイバーシティ認証®︎」で地域全体の対応力向上
山梨県では昨年度からやまなしインバウンド多様な食文化対応事業として「やまなしフードダイバーシティ認証®︎」を実施。この認証は、ムスリムフレンドリー、ヴィーガンフレンドリー、ベジタリアンフレンドリーの3区分で、それぞれSTARとFriendlyの2段階の基準がある。
認証を取得した事業者からは具体的な効果も報告されている。インド料理「マサラアート」(甲府市)は「この一年間、インドネシア、マレーシア、インド、ドバイなど多くの海外のお客様がご来店されました。これも、『やまなしフードダイバーシティ認証®︎』のお陰です」と成果を語る。
矢作洋酒株式会社(笛吹市)は「既存の契約販売店や団体等にご理解を頂いて、販売拡大の一役になった」と評価。みそ工房の郷(笛吹市)は「ハラール認証取得で海外バイヤーから問い合わせ」があり、「HISから味噌作り体験ツアーの問い合わせ」も入るなど、新たなビジネスチャンスが広がっている。
山梨県観光消費額の拡大を目指して
山梨県の2024年観光消費額は前年比53%増の4,865億円と過去最高を記録。2019年の4,330億円を12%上回り、比較可能な2011年以降で最高額となった。山梨県は「やまなし観光推進計画」において、観光消費額(KGI)を2026年(令和8年)までに5,000億円に引き上げる目標を掲げており、食事単価の向上が重要な要素となっている。
「食を目的とした観光客の飲食単価」は6,230円(2019年)から9,480円(2026年)へと52.2%の引き上げを目標としており、高単価メニューの開発や多様な食文化への対応が鍵となりそうだ。
加藤氏は「アメリカでは信じられないかもしれないが、大手チェーンの店長が月給150万円ももらえるようなケースもある」と述べ、サービス業の給与水準向上と業界の魅力向上を目指す姿勢も示した。
山梨県は「やまなしフードダイバーシティ認証®︎」の有効期限を翌年度末までとし、継続して認証を受ける場合は失効の3ヶ月前までに更新申請を行う必要がある。認証費用は無料で、山梨県内に施設や店舗、本社、工場がある事業者が対象となる。
今後は2026年のアジア競技大会(名古屋)や2027年のワールドマスターズゲームズ関西、2030年の大阪IR開業など、国際的なイベントが控えており、山梨県の食の多様性対応がさらに重要性を増していくことが予想される。




