料理人の可能性を広げる新事業「リビングオーベルジュ」 JTB、鎌倉建長寺でライトアップディナーイベント開催


 JTBは11月15・16日の2日間、「建長寺×TERAKOYA×Living Auberge 特別ディナーイベント」を開いた。鎌倉五山第一位の臨済宗・建長寺派の大本山「建長寺」と、東京武蔵野を代表するフレンチレストラン「TERAKOYA」、そして期間限定のライトアップイベント、ZEN NIGHT WALK KAMAKURA がコラボレーションした限定企画として実施した。

建長寺でしか味わえない特別料理「けんちん汁2025」

 今回のイベントは、建長寺の得月楼内特別会場を使用し、1日あたり14名の定員で行われた。グランメゾン「TERAKOYA」オーナーシェフの間光男氏による特別創作フレンチフルコースが提供され、アルコールまたはノンアルコールのペアリング付きプランが用意された。価格は一人あたり55,000円または58,000円(税込)。

 メニューには、建長寺発祥の料理「けんちん汁」を現代的に解釈し、分解再構築した「けんちん汁2025」をはじめ、鎌倉野菜の減圧瞬間漬けや江ノ島産シラスのクリュなど、地元の食材を活かした料理が並んだ。

 間シェフは「鎌倉という土地、建長寺の歴史、禅の世界観をリスペクトし、厳選された食材とテクニックでコース料理を創り上げます。けんちん汁2025などは後にも先にもこの2日間しか作らないでしょう」と特別感を強調した。

鴨ロティとフォアグラ

 

日常空間を非日常に変える「リビングオーベルジュ」

 このイベントを企画したのは、JTBの新規事業「Living Auberge(リビングオーベルジュ)」だ。2023年11月に販売開始されたこのサービスは、「旅先」の対極にある自宅やオフィスなどの「日常空間」で特別な食事体験を提供するもの。

 「リビングオーベルジュ」の名前には、「自宅のリビングなどの日常空間で、オーベルジュのような上質な食事を体感する」というコンセプトが込められている。従来のケータリングやフードデリバリーとは異なり、「特別な食事体験」に関連するさまざまなサービスを組み合わせ、日常空間で非日常の体験を創出する。

 この事業は、JTBの社内新規事業公募制度「JUMP!!!」から生まれた。リビングオーベルジュ事業を立ち上げたJTBイノベーション戦略推進チーム・マネージャーの日高彬人氏は「コロナ禍の2021年、都内の老舗トップホテルなどでも料理人の仕事がない状態でしたので、そういったホテルと組んでケータリングを一般化できないかというところから始まりました」と説明する。

JTB日高マネージャー

 

料理人の新たな働き方を創出

 リビングオーベルジュの強みは、料理人とのネットワークだ。「ホテルや店舗単位ではなく料理人個人と直接ネットワークを構築している」と日高氏は語る。ミシュランのスターシェフから若手まで、お店の中だけで働く以外のチャレンジをしたい料理人が集まっている。

 間シェフは「シェフ同士の横のつながりが昔と違って今はすごく強くなっています。特にコロナ以降、業界全体でみんなで手を結んで問題を克服しようという意識の高いシェフがたくさんいます」と業界の変化を指摘する。

 日高氏はこの事業の目的について「観光業に隣接している飲食業界にはさまざまな課題がある。長時間労働になりがちだったり、原材料が上がっても価格転換できないなど問題がある中で、JTBのような会社が飲食業界と組むことでもっとできることがあるんじゃないか」と考えている。

 

地方の「夕食難民」問題にも挑戦

 リビングオーベルジュは自宅やオフィスでのケータリングだけでなく、地方創生にも取り組んでいる。日高氏は「地方とのコラボレーションとして、ポップアップレストラン業態を展開している」と説明する。

 「通年で飲食店があるとなかなか儲からないけれども、特定の時期だけは人がどっと来ているオーバーツーリズム状態で、夕食難民が発生してしまっている観光地が全国にある」と日高氏。そういった地域に料理人を一定期間派遣し、飲食店営業ができるインフラを整える取り組みを行っている。

 また、「料理人が高齢化している旅館に若手シェフを1〜2週間滞在させ、その期間限定でオーベルジュのような体験を提供する」という試みも始めている。

 間シェフも「地方と都市部での格差や働き方の違い、食材の違いといった問題がある中で、料理界全体のホスピタリティを上げるために交流を深めることが必要」と指摘する。

間光男シェフ

 

文化財活用で新たな体験価値を創出

 リビングオーベルジュは文化財の活用にも力を入れている。今回の建長寺イベントに続き、来月には鎌倉の報国寺でもイベントを予定している。

 日高氏は「文化財の活用は京都では一部行われているが、日本全国ではまだ少ない。JTBの営業マンがユニークベニューを提案しようとしても、世の中に出ているものしか提案できない。私たちはベニューの開拓もしている。富裕層インバウンドの特別なオーダーにもこたえられるJTBならではのスペシャルベニューを広げていきたい」と語る。

 この「文化財×食」の体験は「かげろひ」というブランド名で展開されており、「美食のイベントというよりも、文化体験の一部として食事を位置づけている」のが特徴だ。京都の両足院では一人50万円というハイエンド向けの企画も実施したという。

 間シェフも今回のコラボレーションに込めた思いとして「伝統的な要素を大切にしつつ、モダンなフレンチ料理を提案し、地域の文化や食材との交流を重視している」と語る。

 リビングオーベルジュは将来的に営業利益10億円以上の規模を目指し、今後も「料理人が様々な仕事にチャレンジしていくインフラ」としての機能を強化していく方針だ。

建長寺の期間限定ライトアップイベント「ZEN NIGHT WALK KAMAKURA」

 

建長寺×TERAKOYA×Living Auberge 特別ディナーイベント メニュー

Prologue
現代的に分解再構築したけんちん汁
Entrée 
鬼北産ジビエ(鹿・猪)の最中
鎌倉野菜の減圧瞬間漬けと鯵の生春巻き
江ノ島産シラスのクリュとアヒージョの春巻
鮪の大トロ、キャビア、鰹出汁のパイティー
河豚白子のベニエとトリュフ
伊勢海老のアメリケーヌ
武蔵野アワビとアオサのニョッキ
穴子、リドヴォー、ハツモト、秋茄子のグラチネ
アンコウの肝のカオヤーピン包みソース・エイグルドゥース
鴨ロティとフォアグラ
Potage
トリュフのポタージュ
Poisson
金目鯛のポワレ
Viande  
和牛フィレ肉ポワレとタンの煮込み
Risotto
松茸のリゾットフィルム包み焼
Avant-Dessert
トリュフのアイスクリーム
Grand-Dessert
いもくりなんきん


【kankokeizai.com 編集長 江口英一】

 
 
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