MCPの旅行再構築方法


今、ほとんどの人工知能(AI)アシスタントに「旅行を調べて、予約し、支払いまでして」と指示を出してみても、返ってくるのは「今は、それはできません」という答えだろう。問題は、多くのアシスタントがいまだに生成型AIに基づいていて、エージェント型AIではないという点にある。ほとんどの場合、答えを提示することはできても、それを実行しに行くことはまだできないのだ。――少なくとも今のところは。

しかし状況は変わりつつあり、その答えとなり得るのがモデル・コンテクスト・プロトコル(MCP)だ。

MCPとは、AIエージェントを動かす大規模言語モデル(LLM)と、インターネット上のデータソースや各種ツールの間に位置するレイヤーであり、それらの間をつなぐ標準的な翻訳機のような役割を果たすものだ。

このプロトコルは、Claude AIエコシステムを展開するAnthropic社によって2024年11月に発表され、「データが存在するシステム――コンテンツリポジトリ、ビジネスツール、開発環境など――とAIアシスタントを接続するための標準」と位置づけられた。

MCPはクライアント・サーバー型のアーキテクチャを採用している。LLMはMCPクライアントに接続され、一方で旅行サプライヤーや仲介業者はMCPサーバーを構築し、それを料金・在庫・ロイヤルティ情報・ゲストプロファイルなどのデータソースや予約システムに接続する。クライアントとサーバーは、MCPが定めた標準言語で通信する。

これまで企業は、この接続を実現するためにカスタムAPIの統合を一つひとつ作らねばならず、時間も費用もかかっていた。MCPはその問題の解決を目指している。

Anthropicの発表以降、OpenAI、Microsoft、Google、PerplexityといったAI大手も次々にこのプロトコルへの対応を表明し、業界標準としての地位が確立された。つまり、旅行会社はデータを一度MCPサーバーに公開すれば、すべてのAPI接続を一つに束ねることができ、個々のAIアシスタント用に統合を作る必要なく、MCPを利用するすべてのAIアシスタントから一気にアクセス可能になるということだ。

旅行分野でのMCPの活用 Applying MCP in travel

多くの旅行会社がMCP導入に踏み出している。Kiwi.comは2025年8月、自社のMCPサーバーの立ち上げを発表した。これによりAIエージェントはフライトを検索し、パーソナライズされたフライト一覧を受け取ることができるようになる。

Kiwi.comのCTO、Stanislav Komanecはこう語る。「こうした新しいAIツールを試してみようという意欲は非常に強い。顧客体験はだんだんと良くなっていくだろうし、時間が経てば、方法論はエージェント型になっていく。本当の課題は、AIやチャットボットがMCPの内部でどうやってナビゲートするのか、そしてチャットボット内で行うべき機能と、特定企業のウェブサイトで行うべき機能の線引きをどう考えるかという点だ。」

9月にはApaleoが、プロパティマネジメントプラットフォーム分野において初のMCPサーバー提供企業であると主張した。ほかにも、ExpediaやTourRadarといった企業がMCPの波に乗り始めている。

Apaleoの事業開発担当VP、Florian Montagはこう言う。「APIファーストの構造を持っていれば、MCPの開発は確かにシンプルになる。」

ホテル向けテクノロジー企業MiraiのCEO、Pablo Delgadoは次のように述べている。「MCPによって、AIアシスタントは汎用的なウェブ情報ではなく、ホテルや旅行システムの公式データに直接アクセスできるようになります。つまり、利用者は検証済みのリアルタイム情報を得られるということです。」

MCPの重要性を裏付けるように、10月初旬、ChatGPT内にMCPを基盤としたアプリが登場すると発表された。旅行業界にとって注目すべきは、初期の7つのローンチパートナーのうち2社がBooking.comとExpediaであった点だ。

マネージドAIコマースクラウド「Kismet」の共同創業者、Jason Cincottaはこう語る。「ChatGPT内のアプリは、人々がホテルを予約し、旅行を購入する方法において、これまでとは違う形への絶対的に大きな第一歩だ。最初の7つのアプリのうち2つがOTAだったという事実は、消費者がこの技術を使って旅行を計画したいと切望していることを物語っている。」Cincottaは、先行者利益があっても、OTAが新たなMCPの世界で必ず勝利するわけではないと考えている。「アプリを触ってみたが、モバイルアプリとの体験の差別化は感じなかった。次に、なぜホテルが直接顧客と関係を持ち、直接入手できる情報を提供するほうが長期的には勝つのか、その根本的な理由がいくつかある。これは目覚ましの鐘(wakeup call)だ ― つまり、消費者は明らかにこれ(AIによる旅行計画)を望んでいるし、ゲストはすでに、それほど良くないツールでさえ使っているのだ。」

ApaleoのMontagは、MCPがイノベーションを加速させると信じており、それは最近ミュンヘンで開かれたホテル事業者向けのショーケースでも明らかだったという。「N8nのようなエージェントビルダーの上に、コードを書かずに2分以内で非常に単純なユースケース用の小さなエージェントを構築できる。LLMに『こういうことをしたい』と伝えるだけで、MCPを通じて必要な構造を理解し、コードをその場で生成してくれる。例えば、『チェックアウト済みなのに未清算のフォリオを持つ顧客』など、特定の問い合わせに基づいて特定の予約情報を提示するようなコパイロットを作ることもできる。こういったユースケースはとても簡単に構築できる。」

この初期のMCPラッシュは、やがて奔流となるだろう。すると浮かび上がるのが、「すべてのMCPは同じなのか?」という問いだ。

MiraiのDelgadoはこう述べる。


「各MCPサーバーは、組織やユースケースに応じて、まったく異なるデータ・ツール・機能群を公開することができます。たとえば、あるMCPはホテルの在庫やロイヤルティデータへのアクセスを提供するかもしれませんし、別のMCPはCRM情報、ゲストの嗜好、オペレーションのワークフローなどを提供するかもしれません。」

まだ初期段階であり、MCP対応による予約が一般化するまでには時間がかかる可能性がある。「予約には信頼、支払いの安全性、データプライバシー、責任の所在などセンシティブな問題が伴うので、最初のMCP対応予約は、ロイヤルティプログラムやブランドアプリのように、すでに信頼と認証の仕組みがあるクローズドなエコシステム内で現れるだろう」とDelgadoは言う。

さらに彼はこう続ける。「旅行の分野では、まだ数件の初期的実装があるだけです。それらは進歩を示していますが、価値提案はまだ弱い。ChatGPTを通じてこのデータを問い合わせる強い理由は、現時点では見いだせません。というのも、Google Flightsやブランド自身のアプリやウェブサイトのほうが、今はまだ速く、情報も完全だからです。ただし、技術は信じられない速度で進化しています。」

 

潜在的な落とし穴  Potential pitfalls

トルコのオンライン旅行マーケットプレイスWingie EnuygunのCTO、Hakan Kanarはこう指摘する。
「MCPは計り知れない可能性を解き放つ一方で、特定の課題も存在します。
特に、もともとこの統一プロトコル上で動くように設計されていなかったレガシーシステムでは、統合は依然として複雑です。データ構造は標準化される必要があり、サービスロジックもMCP仕様に合わせて再定義しなければなりません。さらに重要なのは、データがどこで、どのように処理されるかという点です。OpenAI、Anthropic、Google Geminiなど、どのLLMプロバイダーを使うかの選択は非常に重要です。というのもそれぞれでデータのプライバシー、保持、認可の扱いが異なるからです。LLMは遅延を生む場合もあります。標準APIは1秒以内で応答できますが、LLMでは推論する時間が必要です。したがって、どのモデルを使うか、応答時間をどう最適化するかが重要になります。」

MCPは、旅行におけるエージェント型AIのビジョンを実現するだろう ― しかし私たちはまだ最初の一歩を踏み出したばかりだ。

(11/5 https://www.phocuswire.com/how-mcp-could-reshape-travel?utm_source=newsletter&utm_medium=email&utm_campaign=pcww_daily&pk=pcww_email_newsletter_pcww-daily&oly_enc_id=9229H9640090J9N )

【出典:Phocuswire   翻訳記事提供:​業界研究 世界の旅行産業

 
 
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