【逆境をチャンスにー旅館の再生プラン 760】事業承継の新たな選択肢(1) 青木康弘


 長年、大切に育ててきた旅館・ホテルを、わが子に承継したいというのは、多くの経営者に共通する願いである。しかしながら、現実には「継がせたいが継げない」という場面に直面するケースが増えている。たとえば、子どもが経営に関心を持たず別の業界に進んでいたり、接客や現場業務に不向きな性格であったりする場合がある。医師、弁護士、IT分野など専門職に就いており、宿泊業にフルタイムで関わるのが難しいというのも、今では珍しい話ではない。

 現在の宿泊業界を取り巻く経営環境は、かつてないほどに複雑になっている。物価や人件費の高騰、慢性的な人手不足、旅行者のニーズの多様化など、環境変化への対応が日々求められる。こうした中で、意欲や適性に不安がある子どもに経営をそのまま委ねるのは、事業全体にとって大きなリスクとなりかねない。

 このような背景から、親族承継にこだわらない柔軟な承継手法の検討が必要となっている。近年、その手段の一つとして注目を集めているのが「サーチファンド」の活用である。サーチファンドとは、将来の経営者を志す若手が投資家から資金を調達し、中小企業を探索・買収して自ら経営に乗り出す仕組みである。旅館・ホテル業のように、現場スタッフとの関係性や地域とのつながりが重視される業種においても、地域創生や観光に強い関心を持つ意欲的な若者とのマッチングが進み、着実に事例が増えてきている。

 外部の運営会社に施設運営を委託するという選択肢も現実的である。近年は、宿泊業に特化した独立系の運営会社が数多く参入しており、運営力と実績を持つ事業者も増えている。こうした外部事業者に業務を任せることで、経営の安定性を高めることができる。マネジメント契約(MC契約)や定期借家契約といった形式を活用すれば、オーナー側は経営実務からは離れつつも、安定的な収益を確保できる。パフォーマンスに応じた契約条項や、重要人事に関する承認権などを盛り込むことで、一定の関与を維持することも可能だ。

 誰に承継するかよりも、どう事業を継続させるか。今後は、こうした視点を持って、親族以外も含めた広い選択肢の中から自社に合った承継の形を見いだしていくことが、経営者に求められる役割となっていくだろう。

 (アルファコンサルティング代表取締役)

 
 
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