磯焼けの原因となる厄介者とされてしまったウニ。だが、駆除されたウニをただ捨てるのではなく、有効活用すべく、畜養して食用にするケースが増えてきた。始まりは、前号でご紹介した神奈川県水産技術センター。同県では、実験を重ね誕生した「キャベツウニ」を、2020年に商標登録。廃棄か飼料化しかなかった駆除ウニでも、畜養でブランドウニになると広めるためだ。廃棄するしかない地元のキャベツを餌として有効活用し、新たな地域特産物を生み出した奇跡は、前号で述べた通り、各地に広まった。
そして今年、意外な食材で育てられたウニが登場した。それが、香川県の「讃岐うどん雲丹(うに)」(商標登録済み)だ。実は香川県、「うどん県」ならではの悩みを抱えていた。コシが命の讃岐うどん、ゆでて約30分たつとコシが失われるため、廃棄するという。県の調査によれば、年間3千トン以上ものうどんが廃棄されるそうだ。コレを有効活用できないか?と立ち上がったのが、同県を中心に和食店10店舗を展開する「遊食房屋」。同県多度津高校海洋生産科で、ムラサキウニの養殖を研究していたと突き止めたものの、産業化が容易でないため実験を中断していたことが判明。そこで、廃棄うどんを餌にしないかと提案したのだ。成功すれば、フードロスと、磯焼けを要因とする漁業の衰退という、二つの問題が解決できる。
しかし、県外の先行研究で、ウニはデンプン質を好まないという結果が出ていた。前述の「キャベツウニ」の実験でも、キャベツにたどり着くまでに100種類以上もの餌を試したそうだが、ジャガイモやサツマイモなどデンプン質の多い食材は食べなかったそうだ。だから、うどんも難しいのでは?と懸念された。そこで、だしを取った後のコンブやイリコを混ぜるなど、さまざまなタイプの餌を与え、2023年11月から2カ月ほど飼育した。
異常繁殖で藻場を食べ尽くしてしまい、餌がない所で育った駆除ウニは、身が3%程度しかなかったが、飼育後は15%程度にまで増加したという。試食したところ、うどんだけを与えたウニが最もおいしかったというオドロキの結果が! しかも、1匹が1日5グラムのうどんを食べたそうで、ウニ1匹あたりの可食部重量が約10グラムと考えると、かなりのうどん好きだ。その後、香川県水産課や香川大学とも連携、産官学の大プロジェクトに発展した。
庵治(あじ)漁業協同組合の協力のもと、駆除対象だったムラサキウニを飼育用として再活用した「讃岐うどん雲丹」。身は白く、ほんのり甘くてクリーミーだという。10月20日から同店丸亀店で、数量限定提供される。来年夏ごろには新養殖場へ移設予定で、香川県市場での卸売り開始も予定されており、さらに2027年には豊洲市場での全国販売、ふるさと納税での販売を計画しているそうだ。
珍しいご当地ウニは、まだ他にも。その一つが「ウニッコリー」。次号に続く。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。




