前回までに、人材戦略と収益構造の再設計について述べた。今回コラムでは、地域との共創を軸にした新しい宿泊業の成長モデルについて考えてみたい。
近年、観光地経営の潮流は「一館完結」から「地域連携」へと変わりつつある。個々の観光事業者が単独で集客や投資を進めるには限界があり、官民が力を合わせて地域資源を再生・運営する動きが全国で広がっている。その中核となるのが、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)やPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)と呼ばれる官民連携の仕組みだ。
代表的な手法に指定管理制度がある。自治体が所有する施設の運営を民間事業者に委ねるもので、宿泊施設や日帰り温泉、観光交流センター、道の駅などで導入が進んでいる。民間の経営ノウハウを生かすことで、地域全体の観光動線を整え、回遊性を高める効果がある。
宿泊事業者が指定管理者として参画すれば、地域資源の維持と自社ブランドの発信を両立できるという利点がある。一方で、料金改定や設備投資には議会の承認が必要となり、意思決定のスピードが遅いという課題もある。初期投資を抑えられる半面、行政手続きとの付き合い方が成果を左右する制度といえる。
PPPやPFIの仕組みには、ほかにもさまざまな形がある。
DBO(デザイン・ビルド・オペレート)は、自治体が資金を負担し、民間が設計から建設、運営までを一体的に担う方式である。初期投資の負担が小さく、経営ノウハウを生かした事業運営が可能になる。
BTO(ビルド・トランスファー・オペレート)は、民間が施設を建設した後に自治体へ譲渡し、そのまま運営を続ける方式である。設計段階から運営の視点を反映できるため、効率性と収益性の両立が図りやすい。所有権を持たないことで固定資産税などの負担を回避しながら、安定した運営収益を得られる点も魅力だ。
近年、運営方式として注目されているのがコンセッション方式である。これは、民間が公共施設の運営権を一定期間取得し、利用料収入などで投資を回収する仕組みである。空港や上下水道などで実績を積みつつあり、最近では宿泊や観光施設にも広がっている。運営の自由度が高く、料金設定やサービス内容を自ら設計できる点が大きな魅力である。
これからの宿泊事業者が地域経済の核として生き残るためには、単に施設を運営するだけでなく、地域のパートナーとして価値を共につくる姿勢が欠かせない。PPPやPFIを理解し、行政や金融機関、住民と連携して持続可能な仕組みを築くことが求められる。官民が互いの強みを生かして協働することこそが、これからの旅館・ホテル経営を安定と成長へ導くポイントになるだろう。
(アルファコンサルティング代表取締役)




