他館の成功例や経営者自身の経験をもとに、商品やサービスを展開してきたお宿は多いでしょう。それがうまくいっていた時代もありました。しかしお客さまとの感覚のズレが広がり、財務状況の悪化に歯止めがかからなくなっているケースも少なくありません。
こんな時こそ、原点に立ち返ってみましょう。お客さまは何を感じ、何を求めてお宿を選んでいるのか。チェックインからチェックアウトまでの時間の中で、どんな気持ちの変化を体験しているのか。この「感情」に焦点を当てることが、再成長へとつながる道なのです。
「お客さまの立場に立ちなさい」とスタッフに伝えても、結局は各自の感性や価値観に左右されてしまいます。大切なのは、個人の感性に依存するのではなく、お客さまの感情を反映する仕組みを作ることなのです。
まず、スタッフ全員が共通の視点でお客さまを観察できるようにしましょう。抽象的な「気配り」ではなく、具体的な観察フレームを用意するのです。
例えば、簡単な観察メモを導入してみてください。チェックインの際、お客さまの表情はどうだったか。疲れた様子で椅子に座られたなら「安堵(あんど)と疲労」を感じていらっしゃるかもしれません。夕食時に料理の写真を撮られていたら「喜びと期待」の表れでしょう。
重要なのは、正解・不正解ではありません。スタッフ一人一人が「感じ取ろうとする姿勢」を持つこと。そして、その気づきを言葉にする習慣をつけることです。
そこで観察した感情をチーム全体で共有する場を作りましょう。「お客さまが笑顔になった瞬間はどの場面だったか」「困った表情になったのはどの場面だったか」と問いかけてみてください。これを繰り返すことにより、感情を可視化し、共有化する文化を育てていきます。
さらに効果的なのが「感情マップ」の作成です。チェックインからチェックアウトまでの流れを図にして、お客さまの感情の起伏をマッピングするのです。
このマップに「お客さまがもっとうれしくなるポイント」や「感情が落ち込みやすい瞬間」を書き込んでいくことにより、改善のヒントが見えてきます。
観察と共有ができたら、いよいよ具体的なアクションに落とし込みます。
例えばチェックインでは「安堵と安心」を感じていただくために、味と香りを厳選した温かいお茶と心地よい空間を演出してお迎えする。夕食では「期待と高揚」を高めるために、最初の1品に驚きを用意する。地元食材の説明カードを添えて、ストーリーを感じていただく。チェックアウトでは「感謝と名残惜しさ」を大切にするために、手書きのメッセージや心のこもったお見送りを工夫する。
これらは全て「お客さまがこの瞬間、どんな気持ちでいらっしゃるか」から逆算して設計されたサービスです。
また、仕組みを作るだけでは不十分です。経営者であるあなたは、スタッフが感情を大切にできる土壌を作らなければなりません。
「感じたことを話してもいい」という安心感のある文化を築いてください。数字だけで評価するのではなく、「あの一言でお客さまの表情が変わったね」「笑顔を引き出せたね」と感情面での成果を認めてあげてください。そして、料理の予算配分や施設改修といった経営判断も、「どの感情を強化したいか」という視点から考えるようにしてみてください。
スタッフは経営者の姿勢を敏感に感じ取ります。あなたがお客さまの感情を本気で大切にする姿を見せれば、チーム全体が変わっていくはずです。
失敗の法則その76
数字や設備、料理など、はっきり見えることだけにしか関心がない。
ところがお客さまは感情で良し悪しや、好き嫌いを瞬時に判断する。
そこで、お客さまの感情に寄り添うことを、お宿の基軸としていこう。
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