「東京ってこんなに面白い街だった。この歳になって初めて知った」。50代半ばの営業職の女性がポツリともらした。
この女性は就職のため20代で上京して以来、月の半分は地方出張で、東京で過ごす時間は少なかった。最近ゆとりができて都内を巡ると、買い物も楽しいし、レストラン、映画や美術館、博物館も多いのはもちろんだが、カフェ探しで歩くだけでも発見があるという。地図を携え都内を散策すると、そこは思いのほか緑も多く、江戸時代の旧藩邸跡地やそれにちなんだ坂が歴史に登場する寺に出合えたりすると話した。
インバウンドはもちろん、日本人でも東京や大阪、京都などの大都市集中が言われて久しい。
数字でみてみよう。観光庁の2024年宿泊旅行統計の運輸局別延べ宿泊者数は、関東が2億694万人泊と全国の31.8%、次が近畿の1億1857万人泊で18.2%、関東、近畿の2地域で全国の半数を占める。インバウンドでは関東42.6%、近畿27.5%となり、両地域で70.1%にも達する。
観光庁は地方への誘客分散を勧めている。一部地域のオーバーツーリズム解消や観光による地域経済の活性化などを期待しての施策だ。では肝心の地方の観光地は受け入れ体制はどうなっているのだろうか。
小欄で記したことがあるが、静岡県伊東温泉や千葉県勝浦市で昼食を摂ろうとしたところ、休業中や夜だけ営業の飲食店が多く、観光客のランチ難民が発生していることを伝えた。夜も一杯やりながら楽しもうと思っても、早仕舞いする店が多かった記憶がある。
この10月、それと同じようなことを長野県白馬で体験した。週末にもかかわらず、休んでいる店が多かった。クルマで店探しをして、やっと見つけた店は改装中で、店内は資材や工具でいっぱいだった。駐車場にその旨、掲示しておいてくれればと腹がたった。
また、白馬に限らず。料理が出されるまでの時間が長い。ファストフード店ではないのだから、ある程度は仕方がないにせよ、次の予定の時刻が迫っているので、気が気ではなかった。三陸を旅した時も、地元観光担当者おすすめの人気の道の駅に立ち寄ったが、午後3時で料理の提供は終わりますと言われ、あ然とした。
人手不足も影響している。ある食堂の女将は「アルバイトの若い子が気が利かなくてね」と明かした。白馬の場合、夏の観光シーズンと冬の繁忙期の合間という事情もあるのだろう。
もちろん、地域を挙げて観光対策、おもてなしに徹しているケースもある。金沢市では、スマホの地図を頼りに歩いていると、住民が「どこをお探しですか?」と道案内を買ってでてくれたり、タクシーに乗った時は、ドライバーが「見所はここですよ。何時ごろ行くと空いてますよ」と教えてくれたりした。
ささいな出来事から、地方周遊について考えた。観光案内所やスマホなどによる観光情報の提供、インバウンド向けにはフリーWi―Fiの充実など、ハード面の整備とともに、ちょっとした気遣いが観光地のイメージを左右するということを感じた。
(日本旅行作家協会常任理事、元旅行読売出版社社長)




