松橋氏
客室、温泉のハードが魅力 ホテル拠点に施設内で連携
10月14日に開業1周年を迎えたスタジアムシティホテル長崎。日本初のサッカースタジアム併設という唯一無二のコンセプトを掲げ、ジャパネットグループが手掛ける初のホテル事業として注目を集める。松橋拓己総支配人に、この1年の成果と展望を聞いた。
――このユニークなホテルの総支配人として着任された経緯を。
「鉄道系ホテル事業部で全国各地のホテル総支配人を務めてきた。直近では札幌で新ブランドホテルの立ち上げをコンセプト策定から担当した。ちょうど開業1年を迎えた頃、このスタジアムシティホテル長崎から声を掛けていただいた」
「日本初のサッカースタジアム併設ホテルであり、ジャパネット初のホテルという挑戦的なプロジェクトに、自分の経験を生かせると感じた。一から新しいものを創り上げることに魅力を感じ、就任を決意した。出身は東京だが、過去に福岡で3年勤務しており、九州にも縁がある」
――稼働率や単価の取り組み実績について。
「着任前は単価を高く設定していたため、稼働が思うように伸びていなかった。そこで、私の着任後はRevPAR(客室販売効率)を重視する方針へ切り替えた。結果、7月から9月の平均稼働率は7割を超え、市内ホテルの中でも高い水準を達成している。特に週末にサッカーの試合がある日はほぼ満室で、単価も好調だ。まだ週末料金には上昇余地があるとみている。一方で、課題は試合がない平日の稼働をどう底上げするかという点にある」
――サッカー試合開催日とのオペレーションの違いは何か。
「試合開催日はホテル全体が特別体制となる。館内の宴会場には座席付きの観戦スペースがあり、こうした関連施設の運営もホテルスタッフが担う。結果として、通常よりはるかに複雑なオペレーションになる。この1年でスタッフの成長は著しい。今後はさらに教育やトレーニングを強化し、ゲスト満足度を高めることに注力していく」
――松橋総支配人が考えるホテルの魅力とは。
「世間では『サッカースタジアムビューのホテル』として注目されがちだが、私が感じるこのホテルの本質的な魅力は”抜群のハード”にある。客室はもちろん、天然温泉や付帯施設の質も非常に高い。仮にこのホテルがスタジアムの隣でなくとも、『非常に良いホテルだ』と評価されるだろう。サッカー観戦目的のお客さまだけでなく、レジャー利用の方々にも満足いただける自信がある。特に食の分野には力を入れており、地元食材を生かすためにシェフ自ら市場へ買い付けに行くなど、地域色を前面に出している」
――客室からピッチが見える部屋の人気度は。
「試合の日はスタジアムビューの客室が圧倒的に人気だ。チケットが取れなかった人が部屋から観戦するケースも多く、いわば”プライベート観戦席”として利用されている。一方で、試合のない日はシティビューを選ぶゲストも少なくない。路面電車や長崎の街並みが見える部屋には、地域らしい風情がある。スタジアムビューとの差額は数千円程度で、いずれも満足度は高い」
――インバウンド客の取り込み状況と今後の戦略は。
「現状ではインバウンド比率は数%にとどまっている。これまで明確な施策がなかったことが要因だ。着任後は韓国や台湾など東アジア圏を中心にプロモーションを進めている。冬以降、徐々に海外からの宿泊が増える兆しもある。とはいえ、現在は国内客だけで十分に稼働が埋まっている状況で、無理にインバウンドを急拡大するつもりはない。『このホテルに泊まりたい』と思ってくださる人に選ばれる存在を目指したい」
――ジャパネットグループとの連携について。
「グループ全体とのシナジー強化は重要な課題と位置付けている。現在は、グループ会社『ゆこゆこ』を通じた宿泊プロモーションや、スタジアムシティで開催するイベント情報をジャパネットの通販サイトで発信・販売するなど、連携を深めているところだ」
――2年目に向けて注力するサービスや施策は。
「3点ある。まず、スタジアムシティ内の他施設との連携強化だ。ホテルをハブ(拠点)として、宿泊ゲストがシティ内の施設を気軽に利用できる体制を整えたい。次に、インバウンド対策をどう具体的に進めていくかという点だ。そして三つ目が、試合のない平日をどう売っていくかという課題の解決である。また、オフィシャルチームであるV・ファーレン長崎のJ1昇格も、ホテルの稼働を左右する重要な要素であり、全力で応援していきたい」
松橋拓己(まつはし・たくみ) 東京都出身。2019年から東急ホテルズの各ホテルで総支配人、24年SAPPORO STREAM HOTELの開業総支配人を歴任。25年5月から現職。
【聞き手・後田大輔】

松橋氏




