鳥海光太朗氏による特別講演
沖縄観光DX推進機構(=OTDO 下地芳郎代表理事)は11月13、14日の2日間、タップホスピタリティラボ沖縄(=THL)で、「THL THE WEEK 2025」を実施した。両日に沖縄サントリーアリーナで開催された沖縄最大のIT・DX商談会「ResorTec(リゾテック)EXPO2025」のサテライト会場としてTHLを活用。THL館内DXツアー、各種講演会やセミナーなど75を超えるプログラムを実施した。特別講演会「沖縄観光の課題と宿泊産業の未来」には航空・旅行アナリストで帝京大学講師の鳥海高太朗氏が登壇した。宿泊施設のDX化に向けた「中小企業省力化補助金の概要と活用方法セミナー」も行われた。

OTDO 下地芳郎代表理事
人手不足解消へDXの活用が鍵に
鳥海氏は講演で、沖縄を含む観光業界では深刻な人手不足の中、生産性向上のためのデジタル技術活用が急速に進んでいると指摘した。「観光業においてはホスピタリティが重要であり、デジタルホスピタリティの概念を企業が持つことが求められている」と強調。これにより観光業、地域、働く人々が新たな発展を遂げることを目指していると説明した。
鳥海氏は前日にTHLに宿泊した経験を共有し、「ここに今日話したいことがほぼ全て凝縮されている」と述べた。特に顔認証技術を活用したチェックインシステムに言及。「プライバシーの問題もある中で、選択肢の多さが重要。顔認証とQRコード、どちらも選べる仕組みがあることが利用者の利便性向上につながる」と評価した。
THLを所有運営しているタップの林悦男会長も講演中に登壇し、同社が創業38年を迎え、ホテルPMS(プロパティマネジメントシステム)会社からホテルエンジニアリング会社への転換を宣言したことを紹介。THLは様々な技術の実証実験場としての役割も果たしていると説明した。

鳥海光太朗氏による特別講演
インバウンド最新動向と地方観光の課題
鳥海氏は訪日外国人観光客数について、2025年のインバウンドは約4,300万人前後になる見込みと分析。一方で日本人の海外旅行者数は1,300万人程度にとどまり、コロナ前とは完全に逆転した状況になっていると指摘した。
また地方観光の活性化については「外国人観光客が大都市圏に集中する傾向が強まっている」と述べ、三大都市圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・愛知県・京都府・大阪府・兵庫県)の宿泊比率が72.5%に達していることを紹介。「地方への誘客には二次交通の整備が不可欠」と強調した。
沖縄については「他地域と比べて宿泊施設の選択肢が多い」と評価。「高級ホテルと一般的なビジネスホテル、両方が揃っており、さらにジャングリア沖縄の存在によって冬季の高価格帯ホテルの稼働率向上も期待できる」と述べた。
DX活用の具体例と今後の展望
鳥海氏は宿泊施設のデジタル化事例として、アパホテルのセルフチェックインシステムを「最強」と評価。「1秒チェックインでレシートが出てくる究極のセルフ化」と紹介した。また楽天の無人宿泊施設では、暗証番号で入室し、タブレット上でチェックイン手続きを行うシステムも紹介された。
ホテルの属性によってDX化の方向性を変えるべきとの提言もあった。「高級ホテルでは人的サービスを重視しつつデジタル技術で快適さを高める一方、ビジネスホテルでは徹底した効率化を図るなど、顧客ニーズに合わせた戦略が必要」と説明した。
また交通分野でのDX活用として、カーシェアリングの普及にも言及。「沖縄のレンタカー不足は解消されつつあるが、宿泊施設内にカーシェアを設置するケースが増えている。特にリゾートホテル周辺では、短時間だけ車を使いたいニーズに応えられる」と述べた。
多言語対応についても、「Google翻訳やAppleの同時通訳機能など技術の進化により、将来的には多言語表記は日本語と英語だけで十分になる可能性がある」との見解を示した。
宿泊税の活用と持続可能な観光
観光地の持続可能性について、鳥海氏は宮島の訪問税(100円)を好例として紹介。「使い道を早い段階で明確化させたこと、特にトイレの清掃や山道の整備など、先行して取り組んでいた事業に充てることで地域住民の理解を得られている」と評価した。
今後の観光業界については「オーバーツーリズム問題が拡大する中、日本人観光客を大事にする必要がある」と指摘。「地元住民、日本人観光客、外国人観光客の3者がすべてハッピーになる観光地づくりが理想」と述べた。
最後に鳥海氏は「旅は究極の非日常であり、リアルで楽しむことが醍醐味。オンライン化が進んでも旅行だけはリアルでないと成立しない」と強調。「世界が平和で、人々が健康であることが、自由に旅する前提条件」と締めくくった。
講演後、同イベントでは中小企業省力化投資補助金の概要と活用方法についてのセミナーも行われ、宿泊業のDX化に向けた具体的な支援策が紹介された。

中小企業省力化投資補助金事務局によるセミナー




