【観光立国・その夢と現実 64】旅館業界と議員⑤ 小原健史


小原氏

 このコラムで「旅館業界と議員」について連載しているが、今回は安倍晋三元総理について記載したい。

 国会議員となられた安倍先生と初めてお会いしたのは第3次小泉内閣の官房長官の時であったと記憶する。2005年の姉歯事件でマンションの耐震構造を偽装したことが発覚し社会問題になったのだが、一部のホテルでも同じ姉歯建築士による設計がありその問題の善後策を安倍官房長官に相談し総理官邸でお会いしたのが最初であった。それ以降、安倍先生とは時々お会いして旅館業や観光産業の政治的な課題などについて陳情や相談を行い親しく接していただいた。 

 そんなある日、私は参院選敗北後、悄然(しょうぜん)としている中で、安倍先生の秘書官から電話があり「小原さん、安倍先生が佐賀に入ります。佐賀市でお会いしたいと言ってます」とのことで、その日に合わせて佐賀市のホテルの玄関先で安倍先生を待っていた。

 ロビーには佐賀大学学長や県議会議長、JA佐賀会長等VIPの方々が10人ほどいて、どうやら安倍先生の到着を待っているようだ。車が入ってきて安倍先生が姿を現すや否や私とガッチリ肩を組んで耳元で「小原さん、もう一度参議院選挙をやろう! 今度は私が応援して必ず当選させるから…」と言いながらホテルの中に入り、待っていた方々と名刺交換が始まった。

 私は内心(やはり、この人たちは安倍先生を待っていたんだ)と得心するも、全体の流れが分からずにいると、安倍先生から「後で話があるから」と言いながら会場に向かって進まれる。帰るに帰れず会場の中に入った途端、中央に【安倍晋三佐賀後援会設立総会】の文字が飛び込んできたと同時にムカッと怒りが湧いてきた。

 (安倍晋三後援会とは誰が企画したのか? 清和会の会員は佐賀にはいないはずだ!)。私の悪癖である短気が全面に出て、受付に戻り「私は嬉野の小原健史だ。この会合は誰が企画したのか? この名刺の携帯電話に電話をするように伝えてくれ!」とたんかを切った。

 安倍先生の講演が終わり懇親パーティーになったがその当時、安倍先生と親しい佐賀県内の人物はほとんどおらず、手持ち無沙汰な安倍先生は何度も私を手招きして参議院選挙の再挑戦や観光立国のことなど話をされる。周りの人たちは(なんで、嬉野の小原が安倍先生と親しいのか?)の疑問符が浮かんでいる。安倍先生の選挙のお誘いは丁重にお断りして帰路についた。

 翌朝一番に、私の社長室をある人物が訪問され開口一番「小原社長、昨日の安倍後援会は大変失礼しました」と。何と、九州最大の建設会社である松尾建設の伊東正美さんであった。それ以来、伊東さんとは政治的にも個人的にも深いお付き合いをいただいている。

 安倍先生はその後小泉総理の後を継承する形で総理大臣に就任されたが、一国の総理大臣のストレスは、小泉総理もそうであられたようにその地位に着いた人にしか分からないほどの巨大なものでろう。持病をもたれた安倍総理は1年もたたずに体調不良で退陣を余儀なくされた。その際に「安倍晋三をもう一度総理に!」と声を挙げた人がいる。伊東正美氏である。

 その伊東氏の企画で安倍前総理が退陣された後の最初の政治パーティーは東京ではなく、佐賀県嬉野温泉の私の旅館で行うことになった。安倍先生は成蹊大学で私は成城大学、あと学習院と武蔵を併せて昔の7年制高校の4大学は現在でも合同の体育祭や文化祭を行っていて、九州・山口の4大学OBを集め、また佐賀県内の安倍先生の後援会会員を集めて盛大に開催した。安倍前総理は体調も回復され、大学時代の仲間と懇談され上機嫌であられ、その日は皆で総理大臣への復帰を願い杯を重ねに重ねた。     

 (元全旅連会長)

 
 
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