福島氏
視覚障害といっても、障害の種類や度合いは人それぞれ。100人いれば100通りの障害があると言われるほど、視覚障害の症状は人によって異なる。まったく「見えない」盲人もいれば、視力はあるが「見えにくい」弱視の人もいる。白杖(はくじょう)を持っているからといって、すべての人が全盲とは限らない。
先日、白杖を付きながら歩いていた中年男性が駅の改札を出た途端、白杖を使わずにスタスタと歩き始めた。「あれ? 本当は見えていた?」と、一瞬いぶかしく思ったのだが、普段から使っている駅であれば何ら不思議はない。
そういえば、以前、天神地下街で知り合いのゴールボールの金メダリスト(視覚障害者)に偶然、出会い、駅の改札口まで手引き(視覚障害者の歩行補助)したことがあった。
彼女は「よろしく」と言って筆者の左肘の上を軽く握って歩き出したのだが、そのスピードは歩くというよりもむしろ競歩の域だった。「目の見えない人は、ゆっくり慎重に歩くもの」と思い込んでいた筆者は、「金メダリストだから速いのか」と合点したのだが、いま思えば、単に、歩き慣れた通勤路に過ぎなかったからだろう。そう考えると筆者の余計なお節介に、「断るのは忍びない」と快諾してくれた寛容さに対し慙愧(ざんき)の念を禁じ得ない。
ちなみに、点字ブロックは視覚障害者が1人で移動するときに使うもので、手引きされるときは点字ブロックを避けて平坦な道を歩く。
さて、全盲の男性から視覚障害者に対応するときの留意点について話を聞く機会があった。接客現場でも、すぐに役立つ目からうろこの話ばかりだった。彼があるレストランで刺し身を注文したときのこと。ホールスタッフは魚の種類と切り身の数のほか、「食べられないものはありません」と言い添えたという。スーパーで刺し身を購入するとバランや小菊など「食べられないもの」が添えられており、視覚障害者は、分からないまま口にしてしまうことが多いらしい。
旅館の会席料理にも料理の下に敷く朴(ほお)の葉や彩りを添える南天の葉といった「かいしき」がある。蓮の葉のように器代わりに使う大きな葉を口にすることはないだろうが、楓(かえで)の葉のように小さな「かいしき」は誤って食べてしまう危険性がある。かいしきが醸し出す季節感や彩りを丁寧に伝えたあと、視覚障害のお客さまにはかいしきを取り除き「食べられないものはございません」と一言添えれば、安全・安心を担保することにもなる。
一方、店内の陳列棚で迷っているときでも声掛けは、「1メートル~1・5メートルくらい離れたところからお願いしたい」というのも初耳だった。
接客ルールから言えば声掛けは顧客に近づいてから行うのが基本だが、視覚障害者の場合、人が近づいてきていること自体がわからないため、すぐ隣で「何かお探しですか」と声を掛けられると言いようのない恐怖を感じてしまうらしい。一概には言えないが、視覚障害の顧客に話しかけるときは距離を保った上で、「お客さま」と呼び掛けたあと、「何かお探しですか」と声掛けをするのが望ましいようだ。
わかったつもり、知っているつもりだけでは相手に寄り添った真のサポートは難しい。自身の未熟さを改めて痛感した。
福島 規子(ふくしま・のりこ)九州国際大学教授・博士(観光学)、オフィスヴァルト・サービスコンサルタント。




