アクセシブルツーリズムとは、年齢や障害の有無にかかわらず、誰もが安心して旅行を楽しめる環境を目指す取り組みである。対象となるのは「身体的、精神的、知的または感覚的な障害」を持つ人々を幅広く含み、非常に多様な旅行者のニーズに対応することを意味している。しかしアクセシブルツーリズムの課題として、特定のニーズを持つ観光客が直面する負担や困難な状況についての十分な把握と反映、情報提供、政策や実践に反映する仕組みや支援が整っていないなどの課題があり、さらにその実現には、物理的なバリアフリー設備だけでなく「心のバリアフリー」という心理的・文化的な意識変革が不可欠となっている。
「心のバリアフリー」とは、障害者や高齢者など多様な人々への理解と共感を育み、行動として支援を示す社会的取り組みを指す。心理的な障壁を除去することで、旅行者の安心感や自由な行動を保証し、誰もが制約なく社会生活や旅行を楽しめる環境を目指すものである。
国土交通省が掲げる「第3次バリアフリー推進基本方針」では、2025年度までに「心のバリアフリー」の認知度を50%に引き上げることを目標とし、意識啓発・教育・情報発信を通じて「他者の困難に気づいて動ける社会」の実現を推進している。
具体的な取り組みとして、観光庁は2020年以降、障害者や高齢者に配慮した接遇や情報発信を実践する観光施設を認定する「心のバリアフリー認定制度」を創設した。2025年現在、全国の宿泊施設や観光地への導入が進み、観光分野での心理的支援の可視化が進展している。また、小中学校では車いす体験や高齢者疑似体験を通じた教育が広まり、企業や自治体でも障害者接遇研修が行われるようになってきている。
しかし都市部に比べ地方では浸透が遅れており、障害の社会モデルの普及と日常的な行動変化の定着が今後の課題である。制度化と実践は着実に広がりつつあるが、真の共生社会の実現には、さらなる意識の深化が求められている。
(八洲学園大学生涯学習学部生涯学習学科教授 竹田葉留美)




