福島氏
残念なお知らせ。スポットワークの先駆けでもある「タイミー」(本社東京)が、2019年に立ち上げた「タイミートラベル」が、2025年4月30日をもって終了した。
タイミートラベルとは「地方で働いてみたい」「地域課題に貢献したい」「人と交流するのが大好き」といった「働き手」を、「人手不足を解消したい」「地域の魅力を感じてほしい」「関係人口を増やしたい」といった「地方の事業者」とつなぐマッチングビジネスの進化系である。
類似のスポットワーク紹介サイトとタイミーの大きな違いは、タイミーでは働き手(タイミーではワーカーさんと呼ぶ)は雇用主との直接雇用であること、そして、業務が終了した時点で、即、報酬が支払われる点である。
ワーカーがアプリから振り込み申請をすると、タイミーが立て替え払いでワーカーに給与を振り込む。よって事業所は、個別に細々とした支払い業務を行う必要はなく、月の利用分を一括でタイミーに支払うだけでよい。また、事業所は、システム手数料としてアルバイト日給の30%と振り込み手数料1人あたり220円をタイミーに支払うが、月額費用や掲載費用などは一切発生しない。
この仕組みを「旅」と結びつけたのがタイミートラベルだった。タイミートラベルのキーワードは「短期のお仕事」「地域住民との交流」「地域での観光」。働きながら旅するスタイルは、まさに関係人口を増やすためには非常に有効な手段だと言えよう。
ちなみに、「関係人口」とは移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す。
総務省は、これらの「関係人口」が、人口減少・高齢化によって地域づくりの担い手不足に直面している地方圏の救世主になると期待を寄せている。
タイミートラベルがタイミー登録者1176人に実施したアンケート調査(同社サイト)によると参加者の年齢は「20代」(51・4%)が最も多く、次いで「10代」「30代」「40代」が10%台で占め、50代、60代はあわせて10%程度と年齢層は幅広い。応募理由のベスト3は「地方の仕事に興味があるから(27・9%)」が1位で、「地方の人との交流に興味があるから(23・9%)」「旅費を賄いながら旅行ができるから(23・4%)」と続く。
この「旅費を賄いながら旅行ができる」とは、すなわち「その日の給与をそのまま滞在費に充てながら旅を続ける」ことに他ならない。新しい旅行形態の創出である。ネット上には、「タイミーを100回利用しながら旅を続けた」という強者ワーカーの武勇伝ブログも躍る。
タイミー社は、スポットワークという働き方が全国的に浸透してきたことや、「タイミー」事業を主軸とした地方自治体との連携機会が増加したことから、地方部での人手不足解消のソリューションを主力事業の「タイミー」に一本化することとし、「タイミートラベル」を4月末日をもって終了させたのである。現在、同社の連携自治体は19都道府県35自治体に上り登録者数も1千万人を突破している。
観光業界に身を置くものとしては「トラベル」「旅」というワクワクするワードが、たとえ発展的解消だとしても、この画期的事業から消えてしまうことが、ただただ残念に思うのである。
福島 規子(ふくしま・のりこ)九州国際大学教授・博士(観光学)、オフィスヴァルト・サービスコンサルタント。




