業務マニュアルや手順書を作り、ロールプレイングも実施している。日報や業務予定の開示も整備した。可視化、標準化、共有化を進めてきた。これだけ仕組みを整えれば現場はスムーズに回るはず―そう信じていたのに、なぜか空回りしてしまう。
幹部会議、営業企画会議、予実検証会議。どの会議でも同じパターンが繰り返される。スタッフは仕組みに従って動いてはいるものの、決められたパターンをただこなすだけ。計画が未達に終わり原因を問いただすと、思いつきのような返答ばかり。謝罪して「来月は頑張ります」で終わってしまう。ワンマン経営者である私が悪いのだろうか? そんな悩みを抱えていました。
さて、何が悪かったのでしょうか。
可視化、標準化、共有化という考え方は正しい。しかし、この仕組みを運用する上で、会議の場面での「言葉が曖昧」でした。
どんな会議でも、その会議が終わった直後、参加者は「自分がどのような行動をとればいいか」が明確になっていなければなりません。これが、経営の現場で最も見落とされがちなポイントなのです。
たとえば、時間がなく方向性だけを示して会議を終えたとします。その場合でも、「この方向性を具体的な行動レベルにまでブレークダウンする打ち合わせを、いつ誰と行うか」まで確約しておくべきなのです。
これは会議議事録を見れば一目瞭然です。「今後やるべきこと」の欄に書かれている内容で、一人一人が動けるか、です。つまり、本当に必要なのは、次のような問いに対する明確な答えです。
・この会議の目的は何か?
・ゴールが達成できたというのは、どのような条件が満たされた状態なのか?
・そのために誰がいつまでに何をしていくのか?
・マイルストーン(中間目標)の内容とその検証時期、検証方法は何か?
これらが明確になっていなければ、現場スタッフは行動がバラバラになってしまってもおかしくないのです。
このことを意識した宿の経営者は、ある日の幹部会の議事録を見せてくれました。議題の一つは「夕食料理リニューアル」に関する調理長への依頼事項でした。内容は次の通りです。
テーマ:冬の夕食料理リニューアル
目的:今期冬季集客(12月~2月)の目玉商品とする
依頼業務:コンセプト(対象顧客に刺さる料理の魅力づくり)、新メニュー(地元タグ付きカニがメイン)、レシピ、原価計算、試作、試食会、営業部長、接客部長とのすり合わせ(協議事項は事前に確定済)、最終調整
ゴールイメージ:昨年ヒットした冬季商品レベルを超えるインパクト(調理長、営業部長、接客部長3名全員の合意)があること。毎年定番メニューの他、斬新なカニ料理を2品加える
期限:次月幹部会開催日
調理部会議:明日開催。本日の依頼事項について役割分担、タイムスケジュール、行動内容、進捗(しんちょく)確認内容と確認日確定、不確定要素と解釈の相違が見込まれる事項の事前調整を実施する。その結果をグループウエアにて明日午後5時までにアップする
いかがでしょう。明確な言語化を習慣づけるためには「会議チェックリスト」や「フレームワーク」の活用が有効です。
会議では目的、ゴール、達成条件、担当者、期限、検証方法―これらの項目をうめていきます。
仕組みは道具です。それを使いこなすためには、ゴール達成まで行動でつなげるための明確な言葉が不可欠なのです。
失敗の法則その75
仕組みと決まりができれば、お宿はうまく回っていくと思っている。
ところが言葉が不明確なため、運用面で空回りが生じてしまう。
そこで、行動レベルにまで落とし込んだ、明確な言葉でゴールまでの流れを作ろう。
https://www.ryokan-clinic.com




