竹内氏
前回、地元産昆布だけを餌に育てている、北海道の「浜中養殖うに」をご紹介した。今まで食べたウニの中で最高♪ それは昆布の産地だからこそ成せる味わいだ。逆に海底の藻場が失われ、海が砂漠化する「磯焼け」を起こしている地域では、さまざまな餌でウニの畜養を模索している。
実はこの磯焼けの大きな要因は、何とウニ自身! 本来冬の寒い時期には活動しないウニが、地球温暖化による海水温の上昇で、冬でも餌を食べるようになってしまったため、海藻が食べ尽くされ、磯焼けが起きるのだ。そこでウニを駆除するワケだが、駆除ウニは餌が足りず身が痩せていて、食用にならない。
駆除したムラサキウニの活用を成功させたのは、神奈川県水産技術センター。2015年から実験を開始し、100種類以上もの食材を与えたところ、キャベツを好んで食べたそうだ。食用部位の生殖巣が肥大する4~6月、三浦半島は春キャベツの出荷最盛期でもある。今まで廃棄していた流通規格外のキャベツを3カ月ほど与えると、身入りが良くなり、苦味や磯臭さもなく、甘味が増した。
駆除したウニをブランド化して出荷できれば、磯焼け対策と流通規格外のキャベツの有効利用の一石二鳥となる。地域の廃棄食材を活用し、コストをかけずに新しい特産物を生み出したこの成功事例は、2017年に発表されると、すぐ全国各地に広まった。
青森県むつ市と同市大畑町漁協では、スーパーで廃棄処分となるキャベツや白菜を餌とするウニの養殖に取り組んでいる。前述のセンターを2018年に視察、早速事業化したのだ。
また、魚介類の養殖技術開発で名高い近畿大学でも、2019年から和歌山県白浜町の水産研究所で、駆除されたムラサキウニを「近大産ウニ」としてミカンの皮などを餌に畜養。
瓶詰めウニ発祥地とされる山口県下関市では、行政や金融機関、生産者や加工業者、水産大学校がウニ養殖の事業化を目指す「下関ウニベーション推進協議会」を設立、トマトやアスパラガスなど特産品での養殖に取り組んでいる。
九州大学では、裏庭に生え、食べられないくらい成長してしまったタケノコを餌にしたところ、甘味とコクのあるウニに仕上がったそうだ。同大学は、駆除したウニの商品化で持続可能な漁業に資する「宗像ウニプロジェクト」にも参画。事業者から提供される、だしを取った後の昆布、廃棄野菜やタケノコなどを餌として陸上養殖している。
富山県氷見高校の海洋科学科では、2022年から生徒たちによる捕獲と栽培を開始。小松菜やトマトでの飼育で商品化を目指す。宮城県水産高等学校でも、与える餌によってウニの味が変わることを実験で確認した。同県では石巻市が宮城大学などと協力し、2021年からウニの陸上養殖に取り組んでいる。
他にも、ある県の名産品で育てたご当地ウニが今年登場したのだが、それって一体…? 続きは次号で。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。




