【VOICE】「出会う旅」から生まれる観光 カルチュラル・エデュツーリズム・カウンシル 地野裕子氏(ルゥルゥ商會代表取締役)


地野氏

人が紡ぐ、
これからの「観光」のかたち

 「観光」という言葉を聞くと、多くの人は場所を思い浮かべるだろう。しかし、本当に心に残る旅の記憶は、人との出会いではないだろうか。

 京都は、千年を超える歴史と文化の層を積み重ねながら、人と人の出会いによって磨かれ続けてきた。歴史を語る僧侶、伝統を受け継ぐ職人、建物を守る町家の当主―その一人一人の人生に触れた瞬間こそが旅を“体験”へと変える。場所に行くのではなく、人に会いに行く。そんな観光がこれからの時代に求められている。

 私が京都で活動を続ける理由は、その「出会う旅」こそが、観光の本質だと信じているからだ。単なる歴史を伝えるガイドではない、人と人の心をつなぐ“アンバサダー”の存在が欠かせない。語学だけではなく、相手の文化を理解し、現場の人々の思いを丁寧に「伝えること」ができる存在。ときに言葉を超えて、その土地の温度や息づかいを伝えられる人―それが私の考える理想の観光従事者である。

 CEC(カルチュラル・エデュツーリズム・カウンシル)では、世界各国から集う学生たちが京都を舞台に、「アンバサダー」として、実践を通じて長所を伸ばし、学んだことを生かしている。

 彼らは文化や言語の違いを越えて、人と地域をつなぐ橋渡し役となり、観光を“学びと成長の場”へと変えている。次世代が現場で主体的に関わり、文化の継承と創造を両立させる―その姿こそ、CECが目指す観光の未来である。

 いま、地方に人流が生まれつつあるが、地域経済の循環にはまだ課題が多い。
観光が「消費」で終わるのではなく、訪れる人々の支出が地域の職人や商店、文化継承者に届く仕組みが必要だ。

 京都には世界中から観光客が訪れるにも関わらず、所有者がさまざまな要因によって継承できないという状況に陥っている。建物が現存しても、背景にある家族の物語や継承の意思が失われれば、それはもはや空洞にすぎない。多くの事業者、私も「京都」という世界的ブランドを借りて事業を展開している。「借りている」意識がなければ、この街は消費され、やがて色を失うだろう。人と文化が循環し、利益が地域へと還元されることでこそ、未来へと息づく。

 私の原点は学生時代に感じた「消えてしまうかもしれない日本の伝統と文化」への危機感と「海外での人を通した学び」だ。文化と観光をつなぎ、人と人を結び、街と未来を循環させる仕組みをつくりたい。出会いを生む観光「出会う旅」が、人と地域を豊かにする―その信念を胸に、私はこれからも”文化観光プロデューサー”を目指したい。


地野氏

 
 
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